茶会約束
今日は、『魔女』のラファエラに治療してもらう日だ。
前回のようにマリーと共にラファエラの屋敷へ行き、簡単な問診の後に治療を受けた。そのあと、
「ちょっと時間ある?」
とラファエラに問われ
「ええ、今日は何も予定はありませんわ」
そう答えると「じゃ、お茶しよ! お菓子があるんだ」と言われたので、ラファエラとお茶をすることに。ラファエラも意外と強引である。
通されたのは、綺麗な客間だった。王都風の家具に、どこか呪猫のもののような雰囲気を感じられる。
「……不思議な調度ね」
とフェリシアが周囲を見回していると、
「はい、これお茶ね。あとお茶菓子あるから、ちょっと待っててね」
綺麗な緑色の茶を出される。すぐさま、ラファエラは茶菓子を横に添えた。
「……これは」
「わたし固有のお茶とお菓子。お店でも出してるけど、今回は特殊な配合にしてるんだ。きみにちょっと合わせたの」
「あら、手作りですのね」
菓子を手作りする者は、割と珍しい。特に貴族の場合、調理をするのは使用人の仕事だからだ。なので、通常の貴族は『手作り』に僅かでも忌避感を示すことがある。
だが、フェリシアは『手作り』に忌避を示すことはない。なぜなら、フェリシアも料理を趣味としているからだ。
「きみも、何か作るの?」
ラファエラは『手作り』に拒絶を示さなかったフェリシアに、問うた。
「……練り切りなどを、少し」
練り切りは、呪猫の菓子だ。独特のものなので、通じるか分からなかった。
「練り切り? あれおいしいよね。丸くて可愛いし。確か材料は、お豆を甘く煮たやつ……を潰したやつ」
「それは、あんこですわね」
「そうそれ」
意外にも、ラファエラは練り切りに理解を示す。おまけに(言い方は変だったが)あんこも知っている様子だ。
「ご存じなのですか?」
「猫のところのお菓子でしょ? たまに食べるよ」
どうやら、普通の王都の者より呪猫の菓子に馴染みがあるらしい。他にも饅頭や大福なども食べる、とラファエラは言う。
「うちの伴侶、猫のところの人だし。たまに用事があって猫のところに行って、お土産で買ってきてくれるの」
「そうなのですね」
あっけらかんとした様子で、ラファエラは答える。
うちの人、と聞いて『結婚していたのか』という驚きと、『どうりで馴染みがあるようだ』と納得があった。
腕を見てみると、右腕の方に結婚した証である結婚腕輪を着けている。見る限り、相当な高級素材で作られているようだ。
「伴侶、お菓子をたまに作ってくれるの。猫のところのお菓子って、綺麗だよねー」
「お菓子を作れるなんて、相当手先が器用なのですね」
静観していたマリーが、驚いた様子で呟く。
「え、そうかな? そうかも。なんでも手作りしたがるし」
首を捻り、ラファエラは言葉を零した。なんでも、とはどこまでの範囲を示すのか想像できない。(そもそも、フェリシアはラファエラの伴侶のことを知らないのである)
「でも、呪猫の出身とは珍しいですわね」
「そうだね、わたしもあの人くらいしか見たことないかも」
フェリシアの言葉に、ラファエラは同意する。
「実は、私も呪猫の出身ですの」
「そうなんだ! そう言えば、診療録に書いてあったかも。わたしは、大まかに言えば兎のところの出身なんだ」
「大まかに言えば?」
「詳細に言えば、『南部の不可侵領域の森』の出身だから」
フェリシアが自身の出身の話をすれば、お返しにと言わんばかりにラファエラも自身の出身の話をした。
「『南部の不可侵領域の森』……ですの?」
「うん。あと『北部の不可侵領域の森』の友達も居るから、バランスは取れてるはずだけど」
「そういう話ではないと思いますわ……」
さすがは『魔女』だというべきか。随分と常識はずれな場所で生まれ育ったらしい。フェリシアは感心する。
不可侵領域の森は、人間が干渉できない精霊や妖精の地だとされているのだ。
「……このお菓子は、故郷のものかしら?」
「うん。親がわりの人たちが作ってくれて、調理方法も教えてもらったの」
不可侵領域の森に居るなら人ではなく妖精や精霊なのでは、とは思うものの口にはしないでおいた。そんなことで話の腰を折るほど、野暮ではないからだ。
「美味しいですわね」
「それはよかった。割と人を選ぶからね、このお菓子」
ラファエラが言う通り、彼女の差し出された菓子や茶は薬草や香草で独特な風味が出ていた。
「薬草や香草で付けられた、独特の味が癖になりそうですわ」
独特だが、嫌いではない。むしろ、不思議な美味しさがあり好みの部類だった。それを伝えると、ラファエラは「よかった!」と嬉しそうに笑う。
「独特、と言えば。猫のところのお菓子も独特だよね。わたし、あれも好きだよ」
ラファエラはそう告げる。
「それなら、今度受診する際に差し上げますわ」
それは、今回の不思議なお茶会のお礼のつもりだった。
「ほんと! いいの? じゃあわたしもお土産用のお菓子作っておこうかなー」
フェリシアが提案すると、ラファエラはとても喜んでくれる。だが、ラファエラがまたお茶菓子を出すとなると、お返しは永遠に終わらなそうであった。
「呪猫のお菓子には、呪猫のお茶がよく合います。お茶も持って参りますわね」
「うん! わたし、猫のところのお茶も好きだよー」
こうして、ラファエラとお茶会を再びする約束が出来上がったのだった。
「……よかったのですか、お嬢様」
屋敷を出た後、マリーが窺うように問う。
「何がかしら? せっかくのお友達に、お礼をしたいじゃないの」
恐らく、マリーは手間がかかってしまうことを心配しているのだ。言われてみれば、材料を買う場所を知らない。だが、なんとかなるだろう。
「いいえ、お嬢様が良いならそれで良いのです。しかし、お友達……ですか」
「えぇ。彼女が、すでに私のことを『お友達』として見ていたわ。なら、私もそう見る方が失礼が無いわよね」
そうフェリシアが微笑むと、マリーは「お嬢様がそうおっしゃるなら、そうなのでしょうね」と笑った。
「お嬢様は昔から、ご友人を作るのが上手ですね」
「そうかしら?」
「そうですよ。お嬢様の周りには、いつも味方が居ます。これも、天賦の才なのでしょうか……」
「そんな大層なものじゃないわよ。人を観察して、何をして欲しいか察するだけなのだから」
そう言い合いながら、フェリシア達は自宅に帰った。




