治療御縁
「最近、魔導書店で次期管理人候補として働くことになりました」とフェリシアはペンフレンドのメフィストに報告をした。
「魔導書の取り扱いは大変だけれど、とても楽しいです」
そうして、最近色々な人と関わりができているとも綴る。色々な人、とはいうが、主に魔導書店の利用者達だ。
すると、『あなたの新しい門出を心より祝福します』と返事が来た。これも、手紙を出して2日後に届いたので、メフィストはすぐに出してくれたのだろう。
「ふふ。なんだか、私の手紙を心待ちにしているみたいね」
くすくす、とフェリシアは小さく笑った。だが、なんだか心が暖かくなる。
「最近、お返事が早いようですけれど、一体どうしたのですか?」
さらり、と便箋に文字を綴ってゆく。そういうフェリシアの方も、最近は手紙を出す頻度が上がっていると自覚している。
「あなたとのやりとりは楽しいけれど、2日に一度しか進まないんだもの。少し、もどかしくて煩わしいわよね……」
互いの住所を知りながらも、互いの顔を直接は知らない。知っていれば、会いに行けるのに。
×
「店主候補さん。これを持っていてくださいまし」
ある日。
数日ぶりに魔導書店を訪れた、アーウェルサからお守りを差し出された。
「(……どうしましょう?)」
と判断しかねていると、
「受け取っておきなさい。彼のお守りはよく効きますぞ」
と、まさかの店主のヨハンが、受け取りを勧めた。「ヨハンさんがそうおっしゃるなら……」と、フェリシアはお守りを受け取った。なんだか桃色や紅色で彩られ可愛らしい装飾である。
「縁結びの呪いを込めております。是非とも、数日間は肌身離さずお持ちくださいまし」
淡々とした様子で、アーウェルサはお守りの解説をする。なぜ渡してきたのだろう、とフェリシアは首を傾げるが、理由は分からない。
その後、アーウェルサはさっさと魔導書を購入して退店して行った。
「どうも、彼は忙しいようですな。噂によると、宮廷魔術師でありながら、何かしらの副業をしているそうです」
「仕事馬鹿ですな」と、笑いながらヨハンは付け足す。
「お仕事に熱心なのは、勤勉で良いことだと思いますけれど……」
首を傾げるフェリシアに、「趣味が魔術なのでしょうな」とヨハンは受け流した。(フェリシアは宮廷魔術師のブラックさを知らないので、+で副業をする異常さが分からないのであった)
×
それから、フェリシアはいつも通りにヨハンから魔導書店の管理方法を学ぶ。
「やはり、あなたは魔力の放出が少ない。魔導書店の取り扱いに、とても向いておられますな」
感心した様子で、ヨハンはフェリシアを褒めた。
「『放出が少ない』と言われましても、自覚はできていませんわ……」
戸惑うフェリシアに、「気にせずとも宜しい」とヨハンは告げる。
「それに『魔導書を見分けられる良い目』を持っている。目が詰まっているから、うまく治療できれば良い魔導書を判別できる目になるでしょうな」
と言われ、さらさら、と何かを書き始めた。
「医者への紹介状です。と言っても、利用者が新しい利用者を紹介するようなものですがね」
と言いつつ、手紙を渡された。
「お医者様ですか?」
「そうです。おまけに『魔女』です。とても良い医者ですからな、あなたの目もきちんと治るでしょう」
その『魔女』は普段は軍医をしていて、休日だけ医者をしているのだとか。
「連絡を入れておきますので、指定日には必ず紹介先へ行くように」
面接の時にも思ったが、ヨハンは中々強引な性格である。
×
それから。
『魔女』の元へ行く日になった。
緊張しながら、フェリシアは渡された地図をもとにとある屋敷を訪ねた。そこは高級住宅地の一角である。
「『魔女』様はすごいところに住んでいるんですね……」
一緒に着いてきたマリーも、フェリシア同様に緊張していた。そもそも、『魔女』は世界から『脅威である』とみなされた存在に付けられる称号だからだ。
「はぁい」
呼び鈴を鳴らすと、思いの外に若い女性が出てきた。蜜柑色の髪が、ふわりと揺れる。
「あ、きみが新しいお客さんだね。フェリシアさん……と、お付きの人のマリーさん。確か、目の状態が悪いんだっけ。わたしはラファエラ。よろしくねー」
言いながら、「こっちだよー」と案内してくれる。
「可愛らしい子が出て来たわね……」
「お嬢様は綺麗系ですからね……」
「そうじゃないわよ。まあ、油断させて食べてしまおうなんてことはないと思うけれど……」
「どうしたのー? 早くおいでよー」と声が聞こえたので、急いで声のもとまで行く。
「じゃあそこに座って。早速診てみるから」
案内された場所は、シンプルな診察室だった。用意された椅子にマリー共々座る。すると、ラファエラが「ちょっと失礼します」とフェリシアの頬に手を添えて、フェリシアの目に器具を充てた。
「あちゃー、これはひどい。魔力が詰まってるね」
「魔力が詰まっている?」
「そ。目にある魔力が濃過ぎて、固まっちゃってるの。一回取り除かなきゃ駄目かなー」
そう言い、ラファエラは器具を仕舞う。
「手術をするのですか?」
「ん? いや、そんな大層なことはしないよ」
不安気に問うマリーに、ラファエラは首を振った。
「ちょーっと、きみの目に魔力通すね」
「さっき魔力が通らないって……」
「それはきみの魔力の話。今から通すのは、わたしの魔力ね。あ、他人の魔力が苦手とか精神的苦痛があるとかない?」
「精神的苦痛はないですけれど……できるのですか?」
「できるよ。しゅばっと終わらせるからねー」
「まずズレたら危ないから、頭を固定してー」と言いつつ、ラファエラは新しい器具を取り出した。そのまま、椅子に座るフェリシアにそっと被せる。
すると、頭が勝手に固定され動かせなくなった。
「じゃあ、いくよー」
とラファエラの声がしたと思うや否や、
「っ!」
一瞬、ミント系の目薬をかけられたような感覚を覚える。
「はい、おしまいー」
と声をかけ、ラファエラは頭の器具を外した。
「これが……『しゅばっと』……」
「うん。きみの目に、一瞬だけ魔力を通して詰まってる魔力を浄化させてもらいました」
驚くフェリシアに、ラファエラは丁寧に解説をしてくれる。
「一回じゃ取れないから、しばらく通ってね」
と言われる。
「ええと、具体的には……?」
「1ヶ月間、週2回で通ってねー。料金はお安めにしとくから」
そう、ラファエラはフェリシア達に告げる。
「次は4日後においでね。予約入れておくから」
そうして、フェリシアとマリーは診療所より出た。治療費は、意外と安かった。




