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魔導書店を受け継ぐことになりました。-不倫した婚約者を婚約破棄したら、10年来のペンフレンドに距離を詰められました-  作者: 月乃宮 夜見


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即日速達

 手紙を出してすぐ、フェリシアは使用人のマリーを連れて文具店へ向かった。そうして、新しい便箋と封筒を購入したのだ。

 外は秋らしい涼やかな風が吹いており、なんだかもの寂しい雰囲気をしている。


「(だけど……何だか、私を祝福してくれているような気がするわ)」


 不思議な予感だ。


 文香については、香の材料を売る店を探さねばならなかった。マリーに周囲へ聞き込みをしてもらい、どうにか店を見つける。


「よかった。これで、彼に失礼な手紙を出さないで済みそうだわ」


胸を撫で下ろすフェリシアに、


「とても大切なお友達なんですね」


とマリーは微笑む。

 マリーは小さい頃、孤児だったところを引き取ったのだ。だから、メフィストよりも付き合いは長い。


「……あら? あのお店は何かしら?」


 通りの奥、ひっそりと佇むように店があった。

 不思議な雰囲気で、どうも目が離せない。丁度、真珠色の髪の男性が店内へと入って行くのが見えた。


「なんですか?」


「ほら、あの古いお店よ。……中に本が置いてあるわね」


「本、ですか?」


首を傾げるマリーに、どうも話が噛み合っていないようだと察する。


「……もしかして、見えないのかしら?」


フェリシアが少し首を傾げると、


「……あ、見えました! 魔術で守られているようですね」


そう、マリーが声を上げた。


「よかった。幻術の類にかかったのかと思ったわ。あのお店、認識阻害の魔術でもかけているのかしらね」


どうやら、自分だけに見える幻ではなかったらしいとフェリシアは胸を撫で下ろす。ごく稀に、街中でも妖精や精霊が幻惑のいたずらを仕掛けることがあるのだ。


「入ってみますか?」


「いいえ、今日はやめておきましょう。荷物もあるし、ニコラスも待たせてしまうわ」


こちらを見上げたマリーに、フェリシアは緩く首を振る。もう1人の使用人のニコラスには、少し出かけるとしか告げていない。


 あの店に入ったら、興味深さで時間を消費してしまうと容易に想像ができた。


「次もまた見つけられますかね?」


「見つけられなかった時は、そういう縁だったのよ。その時は、諦めて別のお店を探しましょう」


 余計な客を呼び寄せないために、店に認識を阻害する魔術をかける店は珍しくない。

 あの店はそういう、客を選ぶタイプだったのだろう。


 それから、花屋で手紙に挟む用の植物を幾つか見繕い、フェリシアとマリーは家へと戻る。


×


 フェリシアが手紙を出して2日後、メフィストから手紙が返ってきた。

 使用人のマリーが、手紙を持って知らせてくれたのだ。

 郵便技術の発達のお陰で、手紙も1日で目的地に辿り着く。


 つまり、ペンフレンドのメフィストは手紙を受け取ってすぐに手紙を出してくれたらしい。


「今までも返信は早かったけれど、今回が一番早かったわね……」


自室の椅子に座り、呟きながらフェリシアは手紙を開いた。同時に、彼の文香がふわりと香る。

 実のところ、フェリシアはメフィストの手紙に入っている文香の香りを好ましく思っていた。しつこくなく、どこか優しい香り。

 使われている便箋や封筒だって、質が良いし、趣味も良い。


 フェリシアは丁寧に開封し、便箋を取り出した。


「相変わらず、字も綺麗だこと」


相当、急いで書いただろうに。


「『婚約破棄、おめでとう……と告げて良いのか、分からないが。あなたの新しい選択に、祝福を』……まあそうね。返答に困るわよね」


 そんな冒頭から、手紙は始まっていた。


『実は、あなたからの手紙で、元婚約者の話題が出る度に「どうして、あなたは修羅の道を歩むのだろう」と嘆いておりました』


「……そんなに分かりやすく、大変な道を歩いていたのかしら?」


そんなことを考えていただなんて、知りもしなかった。恐らく、指摘する方が野暮だと考えていたのだろう。

 実際、ペンフレンドではあるが互いに素性を知らない者同士だ。『そいつはやめといた方がいい』と言っても、どうもできなかっただろうから。


『今回の手紙には季節の花が添えられていなかったようですが……もしや、屋敷を出られましたか? 印字からして、王都でしょうが。随分と、遠くに出られましたね』


「……あら。花の指摘をされてしまったわ。別に、彼は咎めているわけではないようだけれど」


花の有無だけで、フェリシアの環境を言い当てるとは。随分な慧眼を持っているようだ。


『あなたの選択は咎めませんが、屋敷を出られたあなたは家族の守護がない状態です。是非とも、健康、防犯共にお身体に気を付けて』


「……ありがとう。家族以外で私を心配してくれるのは、あなたくらいよ」


フェリシアは小さく零す。この文面だけで、とても心が温かくなった。


「防犯の面は心配いらないと次の手紙に書いておかないと。心配性なあなたは、気にしてしまうでしょうから」


これで手紙は終わりかと思えば、あと一言書かれていた。


『差し支えなければ、元婚約者の新しいお相手の情報を教えていただけませんか』


「あら、珍しいわね。そんな情報を気にするなんて」


そう言いつつ、フェリシアは新しい便箋と封筒を用意し始める。


「お早いお返事、ありがとうございます。花を添え忘れたことを指摘するとは、思いもしませんでした。お察しの通り、今は屋敷を出て王都に来ています。防犯対策はきちんとしていますし、使用人が2人付いているので心配はご無用です」


さらりと文字を綴ってゆく。


「元婚約者の不倫相手は男爵令嬢です。飲食店や小物類の商売を営んでいるそう。流行のものを取り扱っているようで、今勢いがある男爵らしいです」


これ以上の情報は知らない。そう、手紙に書いておく。

 婚約破棄に伯爵家がとやかく言ってこないのも、その男爵令嬢の家が新しい金づるだからだ。


「これだから、伯爵以下の爵位は信用ならないのよ……」


これは手紙には書かないでおいた。

 伯爵以下が信用ならない理由は、わかりやすく言うと伯爵以下は私利私欲のために嘘を吐けるからだ。


 かくいうフェリシアは侯爵家の血筋だからか、嘘や虚偽などが苦手だった。だからと言って、誰の悪口も言わないような素晴らしい善性は持ち合わせていないけれど。


「男爵令嬢の情報を知って、どうするおつもりですか。私との関係をやめて、元婚約者のように乗り換えるおつもりですか」


これは冗談ではある。だが、一抹の不安があった。

 元婚約者のように、メフィストもフェリシアを捨ててしまうのではないかと。

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