衝撃告白
『実は、私は情報屋をやっているのです』
メフィストから届いた手紙には、そのようなことが書かれていた。思わぬ告白だ。
『本来は秘密なのですが、私とあなたとの仲ですので。一つくらい、秘密は明かして良いだろうと判断いたしました』
「……あら、私に秘密を教えて下さるのね。なら、私も『目』の話を伝えておこうかしら」
そう呟き、フェリシアは便箋とメモ帳を取り出す。そうして、次にメフィストへ出す手紙の内容を先にまとめておこうと思ったのだ。
『それと、あなたの結婚観について聞いてみたかったのです。差支えが無ければ、お答えいただけるでしょうか。誓って、悪いようには使いません。先に、私の結婚観についてお話しておきます』
「……ふぅん。何かに使うのかしら」
そう呟きつつ、フェリシアは自身の結婚観について考えてみる。
『どのような内面、性格の方が好ましいでしょうか。嫌いな性格でも宜しいですよ。私は、身分によって態度を変える方は苦手です。貴族、平民に構わず、平等で公平に接する方が好ましい』
「そうなのね、堅実的だわ。私は……まず、浮気をするような男はダメね」
特に、元婚約者のような男は願い下げだ。不倫をするなら隠せ、とは言うがそもそも不倫をしてほしくないのである。それに、次、仮にフェリシアが婚約を結ぶのなら魔導書店の運営について理解のある者を選ばねばならない。
だって、フェリシアは魔導書店をヨハンから受け継ぎ、経営していかねばならないから。受け継いで直ぐに経営を傾けるなんて、あってはならないのだ。
「自分のすべき仕事を誰かに押し付けて、楽をしようとするのもダメよ」
呟き、フェリシアは元婚約者の家を思い出す。今、あの地の運営はどうなっているのだろう。「(……いいえ、もう私には関係のない話だわ)」内心で呟き、思考を振り払った。
「嘘は吐いてほしくない。吐いても、人を助けるような嘘だけ」
そもそも、フェリシアは嘘が苦手なのだ。無論、真実を伏せるようなことはできるが。それでも、罪悪感に押しつぶされてしまいそうになる。侯爵だから、と言うよりフェリシアの気質なのだ。
だが誰かを助けるための、優しい嘘なら受け入れられなくもない。誰かを喜ばせるための嘘も、大丈夫だ。そうでなければ、フェリシアは物語など読めなくなってしまう。
『あなたの好みの外見はありますか?』
「……外見? 考えたこともなかったわ」
呟き、フェリシアは思考してみる。『好みの外見』と言えば、それはフロンスの外見だ。だが、どうやら彼には『逃したくない縁』があるらしいので、それに横恋慕するような野暮をするつもりは無かった。
「……不快でなければ、良いわね」
いわゆる『清潔感』とか、他者を気遣う程度に容姿を整えてくれたら、あからさまに不健康な見た目でなければ。……そうなると、研究に没頭しすぎている錬金術師のような者は駄目かもしれない。正直、風呂には入ってほしいからだ。
『私には、これと言って好みの外見はありません。ですが、明るく朗らかな方が好ましいと思います。無論、そうでなくとも私は気にしません』
「なら、大体私と一緒ね」
呟き、フェリシアはメモに軽く記入していく。
『相手に求める条件は?』
「……わりと、本格的なことを訊いてくるわね」
これの答えは、既に出している。
「『魔導書店の運営に理解がある人』……ね。私のやることに一々口出しする者は嫌よ」
メフィストの答えは何だろうか、と思いフェリシアは続きに目を通した。
『私が外せない条件は、他者を思いやれる者です。それ以外の条件は、特に厳しくするつもりはありません』
「ふふ、堅実な答えね」
堅実で、当たり障りのない答えだ。恐らく、メフィストは貴族だからそのように書いたのだろう。貴族だと、他者とかかわる機会は増えるのだ。その場合、自分勝手な者より、他者を思いやれる者の方が有利になっていく。人脈も増やしやすいのだ。
「だけど。今は生活が楽しいから、結婚は考えていないわ」
手紙の最後に、フェリシアはそう書き綴った。条件は思いつくが、今、こうして魔術書店の運営を手伝っている方が楽しい。
×
手紙を出して2日後、メフィストから返事があった。
内容は『あなたが楽しそうなことは、とてもよく伝わって来ます。不躾な質問でしたが、返答を頂き誠に感謝しています。あなたのこれからに、良き縁がありますように』とのことだった。
「あなたも、いつかは結婚するのかしら。そうすると、手紙の頻度は今より落ちてしまうかもしれないわね」
返信のために便箋を手に取り、フェリシアは呟く。
「私を、浮気相手だと勘違いされたら堪らないもの」
自分だって元婚約者に強い恋愛感情は持っていなかったが、浮気相手が居たのは嫌だったのだ。恐らく、通常はどんな人でも婚約相手よりも仲の良い人物がいるのは嫌なはず。
「あなたもいつか、良い人を見つけるだろうけど。その時は、真っ先に私に教えてくださいね」
そう、手紙に綴っていく。
本当は、なんだか『嫌だ』と言う気持ちがあった。だけれど、彼に直接言える訳がなかった。
「(私と彼は、ただのペンフレンドなのよ。私がどうこう言える立場にないのだわ)」
メフィストがフェリシアと元婚約者との関係に口出ししてこなかったように、フェリシアもメフィストと彼の婚約者との関係に口出しする権利はない。
小さく息を吐き、封筒を閉じた。
×
「お嬢様、どうかなさったのですか?」
部屋から出たフェリシアに、マリーは気づかわし気な目線を向ける。
「いつかは、マリーもどこかへ行ってしまうのでしょうね」
「へ?」
ぱちくり、と瞬きをした後。
「私はずっと、お嬢様と一緒に居ますよ。結婚もするつもりはありません。貴族ではありませんし、お嬢様以外に仕える予定もありませんので」
「……マリー」
マリーは毅然とした態度で、フェリシアの目を真っ直ぐに見た。
仮にそれがお世辞でも、事実でもどちらでも良かった。なんだか嬉しい気持ちが湧きあがって、涙が零れそうになる。
だが、実際に涙は零さなかった。なぜなら、フェリシアは貴族だから。意地と矜持があるのだ。人前では泣いていけないと教育されていたし、フェリシア自身もそれに従うつもりがあった。




