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第94話 順調な冒険(子供視点)

 翌日。


 俺たちは真新しい装備に着替えて先生に声をかける。


「先生、ダンジョンに行ってくるから」

「あら、今日はアイリスさんは迎えに来ないのかしら?」


 その質問にドキリとした。


 だって、今日は本当は休みだからだ。アイリス姉ちゃんが来るはずない。


「うん、ダンジョンの前で待ち合わせしてるんだ」


 俺はできるだけ平静を装って嘘を吐いた。


「そう。装備が新しくなったみたいだけど、気をつけて行ってくるのよ? こういう時が一番危ないんですからね?」

「分かってる。それじゃあ、行ってきます」

「いってらっしゃい」


 心配そうにしている先生の顔を見ると、少し胸がチクリと痛む。


 だけど、アグたちには負けるわけにはいかない。


 俺はその気持ちを振り払って孤児院を出た。


 今日はアグと遭遇することもなく、無事にダンジョンの前までやってきた。


「本当に僕たちだけで行くの?」


 盾役のロンが不安そうな顔をする。


「当たり前だろ。昨日さんざん言ったじゃないか」

「……仕方ないよ。諦めよう? ロビンが言い出したら止まらないんだから」

「はぁ……一人で行かせるわけにもいかないしね」

「まったく、傍迷惑なリーダーだよね」

「ほんとほんと」

「うるせぇ。さっさと行くぞ!」


 呆れる仲間たちを放って、俺は先に歩き出す。


 そして、後から追い付いてきた仲間たちと一緒に、ダンジョンの入口を通り抜けた。


「なんだか怖いね……」


 ソフィーがポツリと呟いた。


 確かにその通りだ。シルドさんたちと姉ちゃんがいないだけで、毎日通っていたダンジョンが、まるで違う場所のように感じられた。


 急に一人でダンジョンに放置されたみたいに心細くなって、足がすくみそうになる。


 ――パンッ


 俺は両手で頬を張り、外に出たくなる気持ちを抑えて自分を奮い立たせた。


「大丈夫だ。いつもと変わんねぇよ」


 俺たちは気を引き締めて、人が溢れている階層を通り抜ける。


 数時間ほどかけて、ようやく人が少なくなる階層に到着した。


「こっからが本番だな」

「皆、慎重に行くよ」

『了解』


 ソフィーの声に頷き合って先へ進む。


「ウォオオオンッ」


 歩いていると、前からグレイウルフが二体やってきた。


 二体なら毎日倒しているので全く問題ない。でも、その想いとは裏腹に思うように動かなかった。


「プチロック!!」

「やっ」


 ソフィが魔法を唱えて石の礫を飛ばし、弓使いのミザリーが矢を放つ。


「キャインキャインッ」

「ガウッ」


 一体は直撃して足を止め、もう一体は矢が掠って少し傷を負った程度。


 そのまま勢いを失わずに突っ込んでくる。


「僕が出るよ!!」


 ロンが前に出て狼を受け止めた。


「ふぅ、落ち着け。大丈夫だ……俺に任せろ!!」


 気持ちを落ち着けて盾で押さえている狼の側面に素早く回り込み、手に入れたばかりの剣を振り下ろした。


 ――ザクッ


 昨日まで使っていた剣とは比べ物にならないくらい切れ味がいい。グレイウルフの体を深々と切り裂いた


「ギャウッ!?」


 深手を負った狼はフラフラとよろけた。腹部から血がドクドクと流れ出ている。放っておいても死ぬほどの致命傷だ。


 ――ザクッ


 でも、トドメを刺すまで油断できない。後方からミザリーの矢が飛んできてしっかりとグレイウルフの目に突き刺さって俺を見失う。


 トドメとばかりに俺はグレイウルフの首元に剣を振り下ろした。


「これで決める!! うぉおおおおっ!!」


 しっかりとした手ごたえとともに、首が切り離され、床に落ちる。


「ガウッ!!」


 仲間が死んだ後だというのに、もう一体のグレイウルフが気にせずに突っ込んできた。


「任せて」

「グォオオオオンッ!!」

「はっ」


 ロンがグレイウルフの進行を盾を使って防ぐ。グレイウルフの攻撃ではもう揺るぎもしない。随分成長している。


 ソフィとミザリーが牽制している間に、俺と斥候役のベイスがめった刺しにする。


「グォオオオ……」


 グレイウルフはすぐに息絶えた。


「ふぅ、やっぱり俺たちだけでも全然潜れるな」


 最初こそ緊張で思うように体が動かなかったものの、途中から普段通り動くことができた。


 これならグレイウルフに負けたりしない。


「だから、慢心しちゃダメだって。本当に何が起こるか分からないんだからね?」

「大丈夫だって。さっさと十階に行こうぜ」

「もうっ、ちょっと待ちなさいよ!!」

 

 ソフィーの忠告をいなし、次々とグレイウルフを倒して先へと進んでいく。


 マジックバッグみたいな収納道具は持っていないので、やむなく放置した。俺たちの目的はファングボアだ。


 それ以外は一番高く売れる魔石だけ体内から取り出して残りは放置して先に潜っていく。


 しっかり力がついていたのは事実で、時間は掛かったけど、十階にたどり着いた。


「ブルゥアアアアアアアアッ!!」

「うっ」


 ロンがファングボアに押される。


「大丈夫か!?」

「だ、大丈夫。耐えられないことはないよ!! 早く攻撃して」


 押されているかと思いきや、しっかりと動きを封じていたようだ。


「分かった!! ソフィ、頼む」

「任せて。ウィンドカッター!!」

「ピギイイイイイッ!!」


 ソフィーの杖から無数の緑色の小さな刃がファングボアを切り刻む。


 効果は抜群だ。


「ヘイズ、行くぞ!!」

「おうっ」

「グヘッ」


 隙を見逃すはずもなく、二人で側面から首に剣を差し込んだ。それだけでファングボアは沈黙。あっさりと倒すことができた。


「やっぱり、大したことなかったな」

「全くもう、無茶ばっかりして。やめてよね」

「別にいいだろ、勝ったんだから」


 他のメンバーには呆れられたけど、今日の目標は達成することができた。これで、街を裸で徘徊しながら謝罪する必要はない。


 俺たちは意気揚々とした気分で帰路に就く。


 この時の俺は、この後待ち受けている未来に何も気づいていなかった。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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