第93話 売り言葉に買い言葉(子供視点)
俺――ロビンたちは、アイリス姉ちゃんたちと分かれて孤児院に帰ってきていた。
「これマジで俺たちの力で買ったんだよな?」
「そうだよ。この杖で魔法使いたいなぁ」
「僕もこの盾使ってみたいな」
「私の早くこの弓で打ってみたい」
仲間たちが装備を見て喜ぶ中、俺も今日買ってきた真新しい剣を掲げた。
窓から射す太陽の光に照らされ、一段と輝いて見える。俺にとっては自分で稼いだお金で初めて買った新品の剣。嬉しさもひとしおだ。
まさかこんなに早く新品の剣を買えるなんて思わなかったし、俺たちだけでグレイウルフの群れを倒せるようになるなんて思わなかった。
だって、少し前までグレイウルフ一体を倒すのに必死だったから。
でもある日、その状況が一変した。
アイリス姉ちゃんに出会ったからだ。
姉ちゃんがグレイウルフに苦戦する俺たちの助けに入ってくれたおかげで、誰も死なずに済んだ。
その上、姉ちゃんは現役のCランク冒険者のシルドさんのパーティを連れてきて、一緒に指導してくれることになった。
それからは、姉ちゃんが作った謎の薬で疲れ知らずになった状態で、毎日ダンジョンに潜って、ダンジョン探索のいろはを教わる目まぐるしい日々。
俺たちは今まで得られなかった知識や技術、そして、経験を尋常じゃない密度で得ることで、メキメキと実力を伸ばしていった。
そして、一体のグレイウルフを簡単に倒せるようになり、二体、三体とその数を増やしていく。
そのおかげで、グレイウルフを売ってお金を少しずつ稼げるようになったし、食べ物に困らなくなった。
少しずつお金を貯め、そして遂に昨日、俺たちが今までずっと買えなかった新品の武具を手に入れたのがついさっきの出来事。
そのせいでお金がなくなったけど、今はちゃんと稼げる力がある。使った分、またこれから稼げば済むことだ。
「でも、全部アイリスお姉さんのおかげなんだから勘違いしないでよ」
ソフィーが俺に注意するように口を挟む。
「分かってるよ。ただ、俺たちだけでグレイウルフを複数倒せるようになったのは間違いないだろ?」
「そうだけど、私たちはアイリスお姉さんたちが見てくれてるからこそ、安心して戦えるし、沢山のグレイウルフを持って帰ってこられるの。慢心は良くないよ。シルドさんにも言われたでしょ」
「まぁ、そうだけどさぁ」
確かにソフィーの言う通りだ。
アグと会ってバカにされたことを思い出す。
あの時は言い返せなかったけど、今は自分たちだけで潜れるだけの力はついたと思う。
九階まではグレイウルフが群れでいるだけだから、俺たちだけで潜っても問題ないはずだ。
「ロビン、ソフィー、悪いんだけど、少し買い出しに行ってきてもらえないかしら?」
「分かった」
「任せて」
俺とソフィーは孤児院の外に出かける。
最近は俺たちが稼いでいることで孤児院も少し余裕ができてきて、買い出しを頼まれることも多い。
本当は子供だけで出るなと言われていたけど、買い物くらいなら問題ないはず。
案の定、なんの問題もなく、頼まれた物を買うことができた。
「げっ」
「ふん、あまちゃんじゃないか」
「俺たち、あまちゃんなんかじゃねぇ」
でも、嫌な奴と遭遇してしまった。
アグたちだ。いかにもダンジョン帰りという感じで、沢山の成果物を持っている。
「保護者つきでダンジョンに潜る奴は、あまちゃん以外の何者でもないだろ」
前の俺たちなら何も言い返せなかったけど、もう今は違う。
「おいおい、そんなこと言ってバカにしてていいのかよ」
「何?」
「俺たちは武具を新調したんだぜ? 明日にでも俺たちだけでダンジョンに行くぞ。お前たちに追いつくのなんて時間の問題だ」
「ふんっ、これを見ても同じことが言えるのか?」
アグはまだ俺たちを見下したまま、後ろの大きなやつが背負っていたものを俺たちの前におろした。
「これは……もしかしてファングボア!? お前ら、もう十階を越えてるのか!?」
それは十階より先の階層でしか出現しないモンスターの死体だった。
グレイウルフよりも攻撃力が高くて、危険なモンスターだ。需要が高くて、グレイウルフよりも高く売れる。
それはつまり、アグたちがすでに十階以上の階層で狩りをしていることを示していた。
くそっ、追いついたと思ったのに……。
「そういうことだ。お前らと違って俺たちはもっと先に進んでんだよ」
勝ち誇ったように笑うアグたち。
その顔を見るだけで悔しさが滲む。俺はここで引くことはできなかった。
「はっ、何をその程度で勝ち誇ってんだよ。俺たちなら、そのくらい明日にでも獲ってこれるっての」
「へぇ、その言葉本当なんだな?」
「当たり前だっての」
「じゃあ、獲ってこれなかったら、どうするつもりだ?」
「その時は裸で街を歩き回って謝罪してやるよ」
「言ったな? その言葉忘れるなよ」
「へいへい、さっさといけよ」
アグたちは俺が街中を裸で謝罪して回る姿でも思い浮かべているのか、ニヤけた表情を浮かべていた。
「ちょっと、何勝手に約束してんのよ」
「うるせぇ、明日ダンジョンに潜るぞ」
「えぇー、嫌だよ。アイリスお姉さんに怒られたくないもん」
「いいから行くぞ」
「はぁ、あんたを一人で行かせるわけにもいかないか……」
俺たちは翌日、アイリス姉ちゃんたちにも言わずにダンジョンに潜った。
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