第09話 ぼったくりにはご用心
「わぁ~、これが街……」
門を潜り抜けると、いろんな創作物を見て、読んで、想像を膨らませてきた街並みが目に飛び込んできた。
あまりに衝撃的な光景に私は言葉を失う。
創作物の世界にしかなかったような雰囲気の建物が立ち並び、いかにもファンタジー風の服装をした住人たちが目の前を歩いている。
見ているだけでテンションが上がる。
『おいっ、立ち止ってないでさっさと行くぞ』
『あっ、うん、ごめんね』
アークに声を掛けられて我を取り戻した私は街の中を進む。
こうやって街を歩けるなんて夢みたい。
『まずはどこに行くんだ?』
『薬屋かな。買い取ってもらわないと何もできないし、入街税も払えないから』
『ふむ。それなら何軒かある』
多分薬品の匂いを嗅ぎ分けてるのかな。
『それなら一番近いところに案内して』
『ふんっ、全く世話が焼ける。我は寛大だから案内してやろう』
『ありがとう』
アークが少し前を歩いて薬屋に向かう。
『ここだ』
『え、ここ?』
『そうだ』
アークが止まったのはやたらと派手な見た目のお店。薬屋というにはちょっとけばけばしい気がする。
見た目で判断するのも違うと思うし、とりあえず入ってみよう。
「こんにちはー」
「はい、いらっしゃいませ!!」
中に入ると、いかにも人の好さそうなおじさんの糸目の店主さんが私を出迎えた。
アークも一緒に入ってきたけど、何も言われないところを見ると、従魔の入店は大丈夫ってことかな。
それにしても内装も派手で、置いてある商品もゴテゴテとした装飾が施されている。こんなお店が本当に薬屋なのかな。
少し不信感が募る。
「本日はどのようなご用件で?」
「薬草を買い取ってもらいたいんですが」
「はいはい、勿論です。こちらへどうぞ」
店主さんは私の懸念とは裏腹に物腰が柔らかく、年若い私に対しても丁寧。もう少し様子を見てみよう。
私は店主さんに連れられてカウンターの前に案内された。
「それで、今日はどのようなものをお持ちになったのでしょうか?」
店主さんが揉み手をしながら尋ねる。
「えっと、薬草を買い取って欲しいんですけど……」
『ちょっと待て』
『え、何?』
カゴから薬草を取り出そうとすると、アークが私の体をつっついて止める。
『お前は薬草の価値は分かるのか?』
『希少かどうかは分かるけど、相場まで分からないかな』
私はずっと調合部屋にいて実物を見たり、図鑑を見たりしていただけなので、薬草がどのくらいの値段で買い取ってもらえるのかまでは分からない。
『じゃあ、一番希少じゃない物だけ出せ』
『どういうこと?』
『後で説明してやる』
『わ、分かった』
よく分からないけど、アークなりの考えがあるみたい。
言われるがままに、一番価値の低い薬草を取り出してカウンターに載せた。
「おおっ、これはミルフォーゼですね。風邪薬の材料になって重宝されていて、いつでも需要のある薬草ですね。この分量だと銀貨五枚でいかがでしょうか?」
鉄貨が一枚一円、銅貨は一枚百円、銀貨が一枚千円、金貨が一枚一万円くらいの価値だったはず。
だから、銀貨五枚だと五千円か。うーん、安いのか高いのか分からない。そういえば、これから必要なアイテムにどれくらい費用がかかるのかも知らない。
これならいろんな店を見て回ってから来た方が良かったかな。
『こいつは嘘をついている。ここで売るのは止めておけ』
悩んでいると、アークの念話が飛んでくる。
『え、なんでそんなこと分かるの?』
『我の鼻には嘘はすぐ分かる。こいつはずっと嘘をついてきた臭いがする』
『そんなことが分かるなんて凄いね!!』
『ふん、人間が低能なだけだ。この程度のこともできぬとはな』
『はいはい、ありがと』
まさかアークにそんな力があるとは思わなかった。私一人だったら、完全にぼったくられてたね。
妖精の雫なんて出してたら、どうなっていたか……想像するだけでゾッとする。
「これは結構希少な薬草だと思います。もう少し高くなりませんか?」
あまり売る気はないけど、すぐに取引を止めると怪しまれるし、もしかしたら適性価格を提示してくれる可能性もなくはないので、少し値段交渉してみる。
「そうですねぇ、銀貨六枚、いや、七枚が限界ですね」
「うーん、そうですか。分かりました」
アークは首を横に振った。
また嘘をついているみたい。何度も嘘をつくなんて信用ならない。ここで売るのは止めた方がよさそうだね。
「それでは銀貨七枚で買取いたしますね」
「いえ、買い取ってもらうのを止めにします」
勘違いした店主がお金を出そうとしたけど、私はカウンターの上に置いたミルフォーゼを回収して踵を返す。
「な!? ちょ、ちょっと待ってください!!」
「ぐるるるるるるるっ」
「ひっ」
カウンターから出てきて私に追いすがろうとする店主。
アークが割り込んで威嚇した。
店主がひるんで尻餅をついてる間に、私たちは店の外に出た。
それからいくつかの店を回って話を持ち込んだけど、ぼったくる店多すぎ。
『次で終わりだな』
『ここはぼったくりじゃないといいなぁ』
そして、最後に一縷の望みをかけて、私たちは落ち着いた店構えの薬屋へと足を踏み入れた。
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