第68話 価値
「どうかしましたか?」
不思議に思った私は尋ねた。
「いや、今仲間と攻略するのに何日掛かるかって話をしていたんだが、まさかほんの数時間で帰ってくるなんて誰も思ってなかったんだよ」
「なるほど」
普通ボスを倒すってなったら、しっかり準備した上で挑むものだもんね。そのくらいかかると思っていてもおかしくないか。
「それで? 踏破したのか? それとも引き返してきたのか?」
「ちゃんと最後まで踏破してきました。十階までありましたね。これが証拠です」
私は首に掛けたペンダントを持ち上げてみせる。
「これは……見覚えがある。確か、北のイエルドのダンジョンの攻略者が持ってたペンダントにそっくりだ。すげぇ……マジで踏破したのかよ……」
バルドスを筆頭に全員がペンダントに釘付けになっている。Bランク冒険者の彼らなら見たことがあると思ったけど、案の定だった。
私としては今回のこのダンジョンと相性が良すぎた結果だと思う。
モンスター弱くて、厄介なのは各階層の環境トラップだけ。状態異常にならない私に環境トラップは何の意味もない。
その上、階層も少なかったのも大きい。他のダンジョンならもっと階層があってモンスターも強くて時間が掛かったに違いない。
「あの……アイリスさんが持っているのって、もしかして幻獣の卵ですか?」
リースさんが、恐る恐る私に尋ねる。
「はい。ダンジョンの攻略報酬として宝箱に入っていました」
「初めて見ました……しかも、その模様って親として認められたってことですよね。幻獣の主になれるだけの魔力量があるなんて信じられません……」
空鳴の皆がさらに信じられないものを見るような目になった。
アークの言う通り、相当ヤバいみたい。
私は人間だよ?
「そんなに凄いんですか?」
「えぇ、幻獣を従えてる人なんて世界中探しても十人もいないと思いますよ?」
「またまた~、そんなの嘘ですよね?」
いくらレアなアイテムだからって流石に十人は盛りすぎだと思う。
「嘘ではありません。そもそも幻獣の卵はほとんど見つかりません。ダンジョン踏破したとしても百%手に入る物でもありませんし、ダンジョン以外で見つかったという話も聞きません。それに、幻獣を従えている人は必ず頭角を現しています。その名声は世界中に轟くほどです。幻獣というのはそれだけ強力な存在なのです」
「そ、そうなんですね」
説明の内容もそうだけど、説明するリースさんの熱の入りようにも困惑する。
リースさんの目が明らかに普通じゃない。
「こいつは幻獣とか精霊とか、そういう滅多に会えない存在が好きなんだよ」
「好きだとは失敬な。愛してるんです」
「お、そうだな」
こういうのが好きなタイプだったんだね。目の前にいるアークも多分そっち系の部類だと思うよ、多分。厄災とか自分で言ってたし。
「アイリスさん、まだ自分が置かれている状況が分からないみたいですが、幻獣の卵は絶対に人目につかないように隠しておいた方がいいです」
「そんなにですか?」
リースさんの真剣な表情に面食らう。
「さっきも言いましたが、幻獣は国家間の戦力差さえ覆す力があります。すでに卵の親になっているので盗られるようなことにはならないとは思いますが、確実に国の上層部や犯罪組織含む様々な組織から接触があることは間違いありません」
まさか幻獣の卵がそんなにもレアなアイテムだとは思わなかった。ダンジョンを初めて踏破すれば手に入るとばかり。
アークがいるから早々手出しはできないとは思うけど、交渉事は苦手だし、トラブルにも巻き込まれたくない。持ってるのは知られないほうが良さそう。
「それは嫌ですね……分かりました。リュックに入れて背負っておこうと思います」
今までは抱えて持ってきていたけど、使わなくなったリュックにクッションになりそうなタオルなんかを敷き詰めて中に入れて背負った。
アイテムバッグに入れられれば良かったけど、生き物は入らないという定番な設定によって入れられなかったんだよね。
「ちなみにこのバングルって何か分かりますか?」
「あぁ、それは結界バングルね。魔力を込めると、一定時間登録した人間以外中に入れない結界を張ることができるはずよ。私たちも持ってるわ。これとリースの魔法がなければ、助けがくるまで持たなかったわね」
魔力を登録できるのは五人まで、一度張った結界は解除しない限り、半日くらいは持つみたい。魔力は自動充電で空の状態から満タンになるまで四半日くらいかかるそうな。
外で自分が認めた人以外入ってこれない空間が作れるっていうのは大きい。それに卵を守るという面でもこのバングルを手に入れられて良かったと思う。
「これは分かりますか?」
最後に魔導銃を取り出して見せてみる。
その瞬間、空鳴の顔が曇った。
「あぁ~、残念だったな」
「なんでです?」
「それはエーテルブラスターと言って、一回使用するのにクソほど魔力を使うんだ。いくらアイリスの魔力が大きくても常用するのには向かないだろうよ」
「なるほど」
これは世間一般的に言う、外れ武器、と呼ばれるようなものだったみたい。
でも、むしろ私にとっては最高の武器だね。魔力は今のところ切れたことがない。どれだけ魔力をバカ食いしようと全く問題なし。
相性のいい武器を手に入れられてよかった。
「話はその辺で。アイリスも戻ってきたことだし、このダンジョンを脱出しよう」
「分かりました。ついてきてください」
セインさんが手を叩いて話をまとめ、私たちは先に進むことに。
『ぐわぁあああああっ!?』
しかし、六階に入った瞬間、空鳴のメンバー全員が地面に倒れ伏してしまった。
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