第57話 スライム=〇〇〇〇
楕円形で半透明、そしてぷにぷにしてそうなゼリーみたいな質感。
そのどれをとってもゲームで最弱の名を欲しいままにしているスライムそのものの姿。体の真ん中に細胞の核みたいな球体が浮かんでる。
ただ、色合いが青っぽくなく、少しオレンジっぽい。
「この階層はスライムしかおらんようだな。我の鼻でも微かな匂いしかせん」
「スライムって匂いって薄いの?」
「うむ。こやつらはほとんど匂いがしないのだ」
「へぇ――おっとっ」
――ビュッ
暢気にアークと話していたら、スライムから何か液体みたいなのが飛んできた。
そんなに速くないので体を少し傾けて回避。
――ジュウッ
その液体が地面に落ちると、肉が焼けるような音がして溶けるように穴が開いた。
「もしかして……酸?」
「どうやら一階のモンスターはアシッドスライムらしいな」
「なるほどね」
対策のしてない普通の冒険者はヤバそうだね。もし当たったら、体は勿論だけど、装備もダメになってすぐに買い替えなきゃいけなくなりそう。
こんなモンスターがいるのなら、そりゃあ不人気にもなるよね。
「どうするのだ?」
「とりあえず攻撃してみるよ」
私は近くにあった石を拾ってアシッドスライムに投げつける。
――ジュウッ
石がスライムの体の中に入り込んだ瞬間、溶けて消えてしまった。
「うーん、ダメか……」
「体そのものが酸なのだ。そうなるのは当たり前であろう」
「でも、核を破壊しないと倒せないじゃん」
かといって剣を使ったら一瞬でボロボロになってしまうはず。酸に耐性のある武器を持っていないと倒すのが難しそうだ。
「溶けない物で攻撃すればいいであろう?」
分かってるよな、という声色でアークが私に尋ねた。
「それってもしかして……」
「そうだ。お前の体を使えばいい」
「それはそうだけど」
アークが言いたいのは、私には酸が効かないということ。勿論、その可能性は高いけど、いざやるとなると躊躇してしまう。
「門番の鼻を明かしてやるのではなかったのか?」
「はいはい。分かったよ、やればいいんでしょ、やれば」
それを持ち出されると痛い。
私は腕に着けた防具を外し、覚悟を決めてアシッドスライムに駆け出した。
――ビュッビュッ
「やっ!!」
飛んでくる酸を掻い潜り、スライムの核目掛けて手刀を振り下ろす。手にじっとりねっとりとスライムの体がまとわりついて手刀の速度が遅くなる。
でも超健康を持っている私にとってそのくらいは誤差みたいなもの。そのまま強引に床にたたきつけた。
――ドンッ!!
「ピギュッ!?」
可愛らしい悲鳴とともにアシッドスライムの核が半分に割れ、体も形を保っていられなくなって消え去った。
後に残ったのは割れた核だけ。
「ふぅ~」
アシッドスライムの体液に触れたにもかかわらず、わたしの手は酸の影響を受けているようには見えない。超健康のおかげだね。
「倒せたようだな」
「まぁね」
「実はスライムは食べると美味しいのだぞ」
「そうなの?」
「うむ。アシッドスライムはシュワシュワしたのど越しと、柑橘系の果実のような爽やかな味が他のモンスターでは味わえないのだ。良いアクセントになるのだ」
「へぇ~」
もしかして、酸が炭酸ジュースみたいになってることなのかな。
そう言われるとちょっと興味がある。この世界で炭酸ジュースなんて見たことがない。前世でもほとんど飲んだことないから、またいつか飲んでみたいと思っていた。
「おっ、結構沢山出てきたな」
先ほどの一匹を皮切りにどこからともなくアシッドスライムがわらわらと姿を現した。軽く数十匹はいる。
「ちょうどいいし、私も食べてみようかな」
「我も久しぶりに食べよう」
私たちはアシッドスライムの酸を回避しながら近づいた。なんとなくそのまま食ベるのは抵抗があるので浄化のオーブで綺麗にする。
「あーむ」
両手で抱える程のスライムを持ち上げ、私は体の端を齧った。
――シュワァアアアッ
「んっ!!」
口に入れた瞬間、シュワシュワパチパチと弾ける。そして、アークの言う通りオレンジジュースのような味がした。
のど越しもスッキリ爽やか。
「あぁっ、これこれ。懐かしいー!! あむあむ」
アシッドスライムはその全てがフ〇ンタそのものだった。一度だけ飲んだフ〇ンタ。あれは衝撃的な経験だった。その記憶が蘇る。
――ビュッビュッ!!
私は攻撃を躱しながら夢中になって何度も齧った。その度に体が再生してくれる。アシッドスライムは無限炭酸ジュース製造機だ。
美味しすぎる……どうにかしてスライムを手懐けられないかな。
私は抱えたアシッドスライムを見る。
そういえば、スライムの核を壊すんじゃなくて引き抜いたらどうなるんだろう。新しく体が再生し続けるのかな。そうすれば、酸に強い容器さえあれば炭酸ジュースを量産できる。
ふと気になって体の中から核を取り出してみた。
「ピギッ!?」
悲鳴のような声が聞こえた後、スライムは形を保てずに崩れてしまった。
どうやら核だけ残っていても再生しないみたい。とっても不思議。
「確かスライムの核は売り物になったはずだ。持って帰ったらいいのではないか?」
アークがそんなことを言いながら近づいてくる。その口元にはアシッドスライムの残骸がべっとりとついていた。
「全部食べちゃってるじゃん!! どれだけ食べたかったの!?」
周りを見渡すと、すでにスライムが一匹も残っていなかった。
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