第52話 懺悔(別視点)
私は取引先に頭を下げに行った後、気づけば、白く荘厳な建物の前に立っていた。
扇形に広がった階段を上り、開かれた入口を潜り抜けると、最奥には神を模した像があり、その前方には長椅子が二列になって整然と続いている。
像の後ろのステンドグラスから幻想的な光が差し込み、厳かなだけでなく、神秘的な雰囲気が包まれていた。
そう、私が訪れたのは教会だ。
どうしてもここに来たい理由があった。
ただの偶然か必然か、屋内には客が一人もいない。
像の前まで近づくと、神父がこちらを見て口を開いた。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか」
「懺悔をお願いしたく……」
「そうでしたか。こちらへどうぞ」
待つことなく、そのまま懺悔室へと通される。
内部は薄暗く、一人以上入るには狭い。そして、ひざまずくための台が置いてあった。
「赦しを求めに来られたのですか、哀れな子羊よ」
突然、正面の格子の向こうから人の声が。
顔は見えないが、うす布の先には、確かに人の気配がある。
私は返事をして跪いた。
「はい、私は罪を犯しました。神よ、どうかお許しください……」
「我が声は神の耳に通じます。あなたの罪をお話しください」
「実は数日前、馬車で山道を通った際に女の子にぶつかってしまいました」
「それがあなたの罪ですか?」
「それだけであれば、どんなによかったか」
当時、私は次の商談に間に合わせるために山道を走っていた。
崖側に女の子が居たが、私はスピードを緩めずにその傍を通り抜ける。ギリギリ大丈夫なはずだった。
――ドンッ
でも、すれ違った所で何かぶつかった感触が伝わってくる。もしやと思ったら、案の定、女の子の悲鳴が聞こえてくるではないか。
私はすぐに馬車を停めて、後ろを振り返った。しかし、女の子の姿はどこにもない。それはつまり、崖の下に落ちていった証明に他ならない。
怖くて崖下を覗くことができなかった。それに、商談に間に合わせるには、これ以上留まっているわけにもいかない。
私は後ろめたさを感じながらも先を急いだ。
しかし、そこから私は、不幸の連続に見舞われることになった。
車輪が溝にハマって動けなくなったり、きちんと詰めていたはずの荷物が荷崩れを起こしたり、馬が急に言うことを聞かなくなったり、道を間違えたり。
本当に偶然と呼ぶにはあり得ない頻度でトラブルが起こる。
その時、私は悟った。これは、少女を殺してしまった私に対する罰なのだと。
それから私は、毎日夜に懺悔をしながら先へと進んだ。それでもトラブルは続き、結局取引予定の日時は完全に過ぎてしまった。
だからと言って、取引先に謝罪もせずに戻るわけにもいかない。
どうにかトラブルを退けながら馬車を走らせていると、最大のトラブルが舞い降りた。
それは巨大な落石。
両脇を岸壁で挟み込まれた道に巨大な石が落ちてきて進路を塞いでしまった。
あぁ、そういうことか。
この時、私は理解した。神は私を許してくださらないのだと。
岩の前で立ち往生していると、人が集まってくる。どうしようか迷っていると、なんだか聞き覚えのある声に話しかけられ、返事をして振り返った。
「あの、どうされたんですか?」
「どうにもこうにもこの岩のせいで通れ――」
その瞬間、言葉を失う。
だって、目の前に現れたのは、死んだはずの女の子だったのだから。
この子は確かに崖下の落ちた。生きてた? そんなバカな。あの崖は下まで何十メートルもある。落ちたらまず助からない。
「はっ!?」
その瞬間、理解した。
そうか、神様は私を試しているんだ、と。
女の子は私の制止も効かず、岩の前に向かい、軽々持ち上げてしまった。十メートル以上ある大岩だ。筋力向上などのスキルを持っている人でも無理だ。
それなのに、女の子は涼しい顔でことを成している。その事実が私の予想をより確固たるものにした。
この子は神が遣わした使いなのだと。
山を下りてから、自分ができるだけの償いをしてきたつもりだ。しかし、どうしても私が轢いてしまったことは、最後まで女の子に告げることはできなかった。
罪滅ぼしではないけれど、少しでも罪悪感から逃れたくて、自然とここに足が向いたのだろう。
話し終えた後、格子越しから尋ねられた。
「……確認しますが、女の子は生きている。そうですね?」
「はい。最初に通りがかった時に見た服装と同じだったので、間違いないかと」
「なるほど。それであれば、神もお見逃しくださるかもしれません」
「本当ですか!?」
言葉を聞いた瞬間、私は飛びついていた。
「はい。ただし、それには心を入れ替えて清く正しく生きていく必要があるでしょう。そして、今後はその女の子に報いなければなりません」
確かにこれまでにあくどいこともやってきた。
でも、これからは誠実をモットーした商売をしていこうと思う。そして、女の子の素晴らしさを世界に広めていきたい。
私は決意を新たに教会を後にした。
◆ ◆ ◆
一方、高級宿の一室。
「すっごーい!! めちゃくちゃ広いし、豪華すぎない!? ねぇ、アーク?」
「ふんっ、宿のことなど知らぬが、我を外に置かぬことだけは賞賛してやろう」
「この宿、絶対料理美味しいよね?」
「じゅる――ど、どの程度か我が判断してやろうではないか」
「あっ、トイレとお風呂もついてる!! 後で洗ってあげるね?」
「あ゛っ?」
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