第46話 旅の始まり
「ふぅ、やっと窮屈な生活からおさらばか」
「ごめんね、嫌な思いさせて」
「べ、別に嫌だなんて言っておらぬだろう!! ちょっと肩が凝っただけだ!!」
「後でブラッシングとマッサージしてあげる」
私とアークは国境に向けてのんびりと歩く。
ここから国境の関所まで半日から一日程度だと聞いている。今から向かえば、日が暮れる前に着くはず。
そこで一泊したら、国境の山越え。大体三日から四日程度かかるみたい。
山越えとかしたことないから今から楽しみ。
「それで、次に向かう国はどんなところなんだ?」
「それはね――」
それに、次の国にはなんと、ダンジョンがある!!
ダンジョンと言えば、モンスターがどこからともなく湧き出てきて襲い掛かってきたり、誰が置いたか分からないけど宝箱が置いてあったり、様々なアイテムや素材を手に入れられる資源の宝庫。
ウェブ小説ではもはや定番とも言える迷宮だ。
私が生まれたムーノ王国にはダンジョンがほとんどない。でも、次のラブリス共和国には複数のダンジョンがあり、ダンジョンの周りはダンジョン都市として栄えているらしい。
冒険者になったからには、一度くらいは潜ってワクワクドキドキのアドベンチャーは体験したいよね。
「それでは、モンスターを倒すのに慣れた方がいいのではないか?」
「それもそうかぁ」
ダンジョンに潜るのならモンスターとの戦いは必至。避けては通れない。ダンジョンだけでなく、これから先モンスターと対峙することは沢山ある。
ここまでずっと避けてきたけど、そうも言ってられない。それに、アークに頼ってばかりなのも心苦しい。
異世界に来たのなら、それくらい慣れないとね。
「ふむ、ちょうどよくこちらを狙っているモンスターがいる」
「え?」
――ガサガサッ
街道の傍の林の中から何かが飛び出してきた。
「ニードルマウスだ。モンスターの中でも最弱と言っていいほど弱い。我が気配を押さえているゆえ、寄ってきたようだな。人間の練習相手にはもってこいだろう」
「なるほどね」
ハリネズミを想像しそうな名前だけど、見た目は角の生えたネズミ。
割と凶悪な顔をしている。もう少しデフォルメされた可愛い感じでもよかったのに。でも、それじゃあ、逆に倒しにくそう。これでよかったのかもね。
私は腰に付けたホルダーから短刀を抜いて構える。
このホルダーと短刀は街を救ったお礼にと武具屋さんがくれた物。早速お披露目の機会がやってきた。
「ヂュウウウウウッ!!」
ネズミさんは凄まじい形相で私に突進してくる。
「おそっ」
でも、その速度は私の目で見ても認識できるくらいに遅い。
すれ違いざまに短刀を振り下ろした。
「やぁっ!!」
「ピュギッ!?」
初めての戦闘で少し狙いが外れたけど、首元を大きく切り裂く。ニードルマウスは体を動かせなくなって、地面に頭から突っ込んで倒れた。
思った以上に呆気ない。
そもそも、私は確かに戦闘や解体の経験はないものの、薬の調合に生物やその内臓の乾物を扱うこともあった。
そのせいか、あまりモンスターを殺すことに抵抗を感じない。
「なんか、もっとこうあると思ったのに……」
初めてモンスターを殺すことへの葛藤とか、殺してしまったことに対する罪悪感とか、嫌悪感が襲ってくるとかあると思ったのに拍子抜けしてしまう。
私の心は完全に凪いでいた。
「まぁ、妥当な結果だな。どうだ、モンスターとは戦えそうか?」
「うん、問題ないみたい」
そんな自分に少しショックを受けながら頷く。
それから、何度かアークにモンスターを連れてきてもらって戦ったけど、全く躊躇することなく、倒すことができた。
自分の体なのに、ちょっと恐怖を覚えずにはいられない。
「躊躇わないのは大した問題ではないだろう。気にし過ぎではないか?」
「まぁ、そうなんだけどね」
前世の自分との違いにちょっと不安になった。
「おいっ、何してる!?」
「ちょっと試そうと思って」
それと、超健康の効果も検証も忘れない。無防備にニードルマウスの攻撃を受けてみた。でも、少しも私にダメージはなかった。
「全く……はらはらさせおって」
「あれぇ? 心配してくれたのぉ?」
「そんなわけあるか!!」
アークをからかったりしながら、ひとしきり練習して旅を再開。
超健康のおかげで疲れは全くない。
国境に向かうまでに、貰った便利アイテムが大活躍した。
モンスターとの戦闘で汚れた服や汗を浄化のオーブで綺麗にしてサッパリ。
それに、長旅だとどうしても避けては通れないのがトイレ問題。日本人としての感覚だと、やっぱりトイレはしっかりしていないと落ち着かないからね。
マジックトイレは音も匂いも漏らさず、排泄物も魔法的に処理して全てを解決してくれた。
そして、清浄の水袋で綺麗で美味しい水を気兼ねなく飲めるのもよかった。多分超健康なら川の水もお腹を壊さずに飲めるけど、できれば美味しい水の方がいい。
村長さんは本当にいい物をくれたと思う。
心の中の村長さんに感謝を告げる。
『ほっほっほっ、いいんですよ』
心の中の村長さんはまるで菩薩のように笑っていた。
私の旅はとても良いスタートを切れたと言ってもいいはず。
それからアークと話しながら歩くこと数時間、
「あれが国境の関所のようだな」
「そうみたいだね」
灰色の石壁と見張りの塔が見えてきた。
頑丈そうな関所の門の前には数組か人が列を作っている。
門の先には別の世界が広がっている――そんな期待に胸を弾ませながら、私たちは関所に近づいていった。
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