第44話 約束
「よし、準備万端!!」
最後の確認を終えた私は部屋を出る。
「お世話になりました」
「いーや、こちらこそ。元気でね」
「体に気を付けるんだよ」
「ありがとうございます。それでは、また」
店主のおじさんとアンナさんに別れを告げ、宿を後にした。
外にはアークがお座りして待っている。
『ほらっ、さっさと行くぞ』
『もうっ、ちょっと待ってよ』
私は先を急ごうとするアークを止め、振り返って宿を見上げる。
いつかまた来るとしても、しばらくは見納め。
しっかりとその姿を目に焼き付ける。
初めて来た時は異世界の宿屋に興奮したなぁ。前世の記憶が戻ってから一番長く滞在した拠点だから、少し名残惜しい。
『まだか』
『はいはい、分かったよ。全くもうっ、少しくらい感傷に浸らせてくれてもいいのに』
気持ちを切り替えて、街を歩き出した。
初めて過ごした街をこのまま去るのはちょっと寂しい。
『ちょっと遠回りするね』
『やれやれ、仕方のないやつだ……』
少し遠回りをして過ごした場所を見て回る。
朝の空気が気持ちいい。
街の朝は早く、依頼を受ける冒険者たちが行き交い、市場も沢山の人で賑わう。
私はこれから街を出るけど、様子はいつもと変わらない。当たり前のことなんだけど、少し不思議な気持ちになる。
どこを見ても、懐かしさがこみ上げてきた。
そんなに長くいたわけじゃないんだけどな。
遠回りしても終わりはやってくる。気づけば、街の入口が見えてきた。
いつもは街の東側から出入りしていたけど、今日は国境を超えるため、西の門から外に向かう。
こっちはあまり来なかったから少し新鮮。
感傷に浸る私にアークは何も言わなかった。
「あれ?」
門が近づいてくると、沢山の人の姿が見える。
もしかして今日は誰か偉い人や有名人でも来るのかな?
不思議に思いながら進んでいくと、集まっている人たちの顔が見えてきた。
「皆さん、今日はどうされたんですか?」
そこには、建築現場の人たちや冒険者ギルドの人たちに、薬師や孤児院の皆にマリンダさん、街で関わった人たちが勢ぞろいしていた。
それだけじゃない。私が知らない人たちも集まっている。
もう挨拶は済ませたはずだけど……。
「おいおい、嬢ちゃん、寂しいこと言うな。見送りに来たに決まってるじゃねぇか」
「そうだぞ、この街の人がどれだけお前さんに世話になったと思っている。見送りの一つもするのは当然だろう」
「アイリスさんは孤児院の恩人ですからね。寂しく旅立たせたりしませんよ」
「冒険者のイロハを教えたのはアタイなんだぜ? 教え子の旅立ちくらい見送るさ」
「え……」
皆それぞれ仕事があるはずなのに、私なんかの見送りに来てくれたことに驚く。
「俺たちはそんなに薄情に見えてたのか?」
現場監督さんが心外だとばかりに肩を竦めた。
他の人たちも同じような反応だ。
「いえ、私はまだここにきたばかりですし、付き合いも長くありませんから……」
「長さなんか関係ねぇよ。ここにいる奴らはそれだけ嬢ちゃんに感謝してるってことさ」
「そう……なんですか?」
私は基本的に依頼をこなして自分ができることをやってきただけ。ここまでのことをされるようなことをした覚えがない。
「当たり前だろう。ここに来れない奴らも沢山いるが、お前さんに助けられたやつは多い。崩落事件の時、どれだけの人間がお前さんのおかげで助かったか……」
「村の奴らも感謝してたぞ」
「孤児院もどれだけあなたに助けられているか……」
でも、私のやったことは想像以上に誰かの役に立てていたみたいだ。
「お姉さん……」
「ミミちゃん、どうしたの?」
困惑していると、孤児院で私が病気を治した女の子が一歩前に出てくる。
「これ……」
彼女が手に持っていた花を私に差し出した。
「貰っていいの?」
「うん。助けてくれて本当にありがとう」
「どういたしまして」
花を受け取ると、ミミちゃんはもじもじしながら言葉を続けた。
「それで、あのね、私、夢ができたの」
「どんな?」
ミミちゃんが未来を思い描けるようになったことがとても嬉しい。
でも、次の言葉を聞いた時、思考が止まった。
「私、お姉さんみたいな薬師になりたいの」
「え……」
私がやったことが誰かにこんなに影響を与えてるなんて思ってもみなかった。
他の人でもできたことだけど、確かに私がやったことなんだと実感する。
ミミちゃんはそのままさらに言葉を続けた。
「そして、私みたいな人を……助けたい」
その瞳には決意がありありと浮かんでいた。
「そっか……応援してるね」
自分で言うのもなんだけど、薬師になるのって本当に大変だと思う。
でも、私はその気持ちを尊重したい。
「うん、だから……また、あ゛い゛に゛き゛て゛く゛れ゛る゛?」
ミミちゃんは我慢できなくなって涙を流しながら尋ねた。
「きっと会いに来るから。その時は、ちゃんと勉強してるか確認するからね?」
「う゛ん゛っ、わ゛か゛っ゛た゛!!」
私が視線を合わせて頭を撫でると、ミミちゃんは涙を拭った後、ニッコリと笑った。
「それでは皆さん、本当にお世話になりました!!」
ミミちゃんが落ち着いた後、私は頭を下げる。
「元気でな!!」
「いつでも帰ってこいよ!!」
「達者でな!!」
掛けられる言葉はどれも温かい。
すぐに涙が出そうになる。でも、必死にこらえて頭を上げた。
「はい、行ってきます!!」
私はできるだけ笑顔に作って別れを告げ、街を後にした。
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