第04話 まだ見ぬ世界へ(実家視点あり)
「ねぇ、地上に出る道とか知らない?」
「そんなものここにはないぞ」
「そっかぁ……」
ここになら手がかりがあると思ったんだけど、振り出しに戻ってしまった。
さて、どうしたものか。
「なんだ? 外に出たいのか?」
「うん、国を出て世界を旅をしたいの。でも上に出る道はないんだよね?」
流石にロッククライミングするのは難しいだろうし、他の方法を考えなきゃ。
「ふむ、どうしてもと頼むのなら、我が連れて行ってやってもいいぞ?」
「ホント!? 神様、仏様、アーク様、どうか私を崖の上に連れて行ってください」
自信ありげなアークの物言いに、私は土下座してハハァと頭を下げた。
「だ、誰がそこまでしろと言ったのだ、この馬鹿者!!」
「え?」
「ふんっ、そこまで言うのなら連れていってやる。ほらっ、さっさと乗れ!!」
慌てたような声に顔を上げると、伏せをして乗りやすくしてくれるアーク。それでも体が大きいので、背中の上に登るまで毛をいっぱいを引っ張ってしまう。
「痛くない?」
「人間ごときが多少引っ張ったところで痛くも痒くもないわ。早くしろ」
「はーい」
私は毛をひっつかんで背中によじ登った。
「それでは、ゆくぞ。しっかり掴まってないと振り落としてしまうからな!」
「分かった。わっ!?」
アークの毛を手に巻き付けてしっかり掴む。走り出したアークの速度はすさまじく、景色があっという間に流れていった。
その速度は車と比べても比較にならない。
遺跡を飛び出したアークは、崖目掛けて直進し、ほとんど垂直の崖をものともせずに駆け上がっていく。
「アークって凄いねぇ!!」
「我は災厄と恐れられた存在ぞ。この程度で感心するな」
「へぇ、なんだか強そうだね」
「世界など、我に掛かれば一ひねりよ」
話している間に毒の霧を抜け、崖の終わりが見えてきた。そして、トンッと崖を蹴り上げると、遂に私たちは奈落の谷の外に飛び出す。
「綺麗……」
太陽が大地に降り注ぎ、世界が鮮やかに色づいている。
前世では、病院の窓から見える景色だけが、私の知る外の世界だった。でも、今世でこんなに美しい世界が見られるなんて、感動する他ない。
もっといろんな景色を見てみたい。
心からそう思う。
振り返ると、紫がかった毒の霧が立ち込める奈落の谷が、まるでこの世の地獄のように広がっている。
処刑前は気づかなかったけど、あんなにおどろおどろしい場所だったんだ……。
「それで、これからどうするつもりだ? 国を出るのだろ?」
地面に着地したアークが私に尋ねた。
「うーん、どうしよっか」
「おい、何も考えていなかったのか? 馬鹿なのではないか?」
「だって、私さっき処刑されたんだよ? 細かいことまで考えてないよ」
「なんだと!? どういうことだ?」
アークが驚いたように後ろを振り向く。
「あれ? 言ってなかったっけ? あの谷って、この辺りを治めている国では処刑に使われてるの。私は冤罪でさっき処刑されたんだよね」
「……お前、良く生きていたな」
アークの声のトーンが下がる。尻尾もシュンと垂れ下がった。
もしかしたら心配させてしまったのかも。
「まぁ、ほら、超健康スキルのおかげで、アークに噛まれても崖から落ちても無傷だったし、毒の霧も効かなかったから、問題ないよ」
私はできるだけテンションを上げて返事をした。勿論前世のことは伏せる。説明しても信じてもらえるか分からないしね。
「あ、あれは我が手加減してやっただけだ、生意気な奴め!!」
「分かってるよ。それに、おかげでこうしてアークと出会えたから私はなんとも思ってないよ。心配してくれてありがとね」
反論するアークの背中を、感謝を込めてワシャワシャと撫でる。
アークの毛はサラサラで至高だ。
「心配などしてないわ!! それより本当にこの先どうするつもりなんだ?」
「冤罪で私を処刑するような家族、いや、元家族に未練なんてない。だから、世界中を旅してみたい。けど、何をするにもお金が必要なんだよね……うーん、薬草でも集めようかな」
「ふんっ、金がなければ何もできないとは、人間とは不便なものだな」
着ている服以外には何も持ってない。だから、お金になるものがない。
でも、今までずっと薬作りをしてきたから、薬作りにはほんの少し自信がある。だけど、その薬作りに必要なものも、お金がなければ買えない。
まずは薬草を採集するか、冒険者になるしかないかな。
冒険者と言えば、病院で寝たきりだった時に読んだ作品にもよく出てきた。自由に世界を冒険する姿は、私の憧れでもある。
せっかくだから冒険者にもなりたい!!
テンプレみたいに、冒険者にいちゃもんをつけられたり、同い年くらいの冒険者と友達になったりするのかな。
今からワクワクしてきてしょーがない。
「よし、早速あの森で薬草を探そう!」
アークの背中から飛び降りて指を差す。その先には森が広がっていた。
「一応言っておくが、この辺りには毒草やモンスターがいる。気を付けろよ」
「心配してくれるんだ?」
「心配などしておらん!! 観察対象に死なれたら困ると思っただけだ!!」
「ふーん、それじゃあ、行くよ!!」
私は森へと駆け出していく。すぐ後ろをアークがついてきた。
ちょっと素直じゃないけど、この相棒とならきっと楽しい旅になる気がする。
◆ ◆ ◆
とある家の一室。
「暗殺がバレた時はヒヤヒヤしたが、まさか本当に処刑されるとはな」
「ふふ、"あの役立たず"が初めて役に立ったわ」
「いらないアレを残しておいて本当に良かったな。こちらから申し出たことで連座も免れた」
「ちょっと危なかったわねぇ」
「はぁ〜、せいせいした!! あの無能を見るの、ずっと苦痛だったの」
「あらあら、嫌な思いさせてごめんなさいね」
「そうだな。それじゃあ、これからお祝いのパーティでもしようか」
「それは良い考えね!」
「ホント? 楽しみ〜!」
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