第30話 先輩冒険者の教え
「なんだ、そのデカいリュックは。やり直しだ」
「え? どういうことですか?」
マリンダさんに、突然そんなことを言われて私は戸惑ってしまう。
「そんなに荷物を持っていったら、疲れやすくなるし、動きにくくなるんだよ。冒険者は、常に体力や機動力を気にしておかなきゃいけないからね。本当に必要なもの以外の道具は省くものなんだ」
「なるほど」
私に限ってはどっちも当てはまらないけど、普通の冒険者は疲れもするし、動きにくくもなる。マリンダさんの話は理にかなっていた。
それに、モンスターに襲われた時に、標的として大きくなることに気づいた。
リュックに攻撃が当たって穴が開いたら、荷物を捨てなきゃいけなくなる。それを考えたら、荷物は小さいにこしたことはないと思う。
「ちょっと荷物を見せてみなよ」
「分かりました」
私は背負っていたリュックを手渡す。
「おわっ!? な、なんだこれは、重すぎるだろ!? いったい何が入ってるんだ!? いや、それよりもなんでこれを持てるんだ!?」
マリンダさんはリュックを持った瞬間、よろめいてリュックを地面に落とした。動かそうとしてるけど、びくともしない。
割れるものはないからセーフ。
鍛えたマリンダさんなら持てると思ってたけど、流石に詰め込み過ぎたかも。
「私、結構力持ちなんですよ」
私はリュックをヒョイっと持ち上げてみせる。
一瞬、驚いた顔をしたマリンダさんだけど、すぐにハッと何か気づいた表情になる。
「なるほど。スキルかい」
「そんな感じです」
「ちょうどいい。冒険者にスキルのことを尋ねるのは基本的に御法度なんだ。覚えときな」
「分かりました」
おおっ、なんか今物凄く冒険者っぽい会話をした気がする。なんだか感動……。
「それで? 一体何が入ってるんだい?」
「えっと、そうですね、テントやお布団。調理器具一式に、毛布、調薬道具に、後は――」
「もういい。一旦全部荷物を出して並べるよ。一度宿屋のお前の部屋に案内しな」
「わ、分かりました。こっちです」
アークには厩舎に戻ってもらい、私の部屋に向かった。
「まさか何も知らないとは思わなかったよ」
「すみません。冒険者になったばかりで」
「道理で。まぁいい。それを教えるのもアタイの仕事だ。荷物を出しとくれ」
「分かりました」
私はリュックの中に入っていた物を部屋全体を使って並べる。
「まさかこんなに入ってるとはね。拠点でも移すつもりかい?」
「そんなつもりはないですけど……」
「全部の荷物を持っていくのはそういうことなんだよ」
「なるほど」
冒険者は、その名前とは裏腹に、拠点にしている街から出る機会が少ないそう。だから、余程のことがない限りは拠点の宿に不要な荷物は置いておくらしい。
ただ、ふと疑問に思った。
「マジックバッグがあれば、荷物のことはそんなに考えなくてもいいんじゃ?」
この世界には重さも質量も物理法則を逸脱している道具がある。それがあれば、荷物の量や内容を考える必要はない気がする。
「マジックバックはそもそも初心者が持てるような代物じゃない。それに、そのマジックバッグがなんらかの理由で使えなくなったり、盗まれたりしたら?」
「困りますね……」
「そうだ。それに、入っている物が多すぎると、咄嗟に取りだすのが遅れるんだ。それは致命的な隙になる可能性がある。だから、基本的にバッグに頼らなくても済むように考えるのが基本だ。きちんと必要なものを選ぶ癖はつけておいた方がいい」
「なるほど」
常に盗難などのリスクは付きまとうし、中身が多すぎてアイテムを取り出すのに時間がかかるのも怖い。
マリンダさんの言う通り、収納魔法みたいな魔法でもない限りは、できるだけ荷物を少なくする意識は持っていた方がいいかも。
「それじゃあ、いらない物を指摘していくぞ」
「分かりました」
ここからが本題みたいだ。
「ツッコミどころが多すぎて迷うがよ。毛布五枚と敷布団に掛布団はやりすぎだろ!?」
「快適な睡眠をとるには必要かなと思って。毛布も無くなったら困りますし」
「そんなもの旅に求めるなよ。毛布一枚にしておけ!!」
「分かりました」
寝るならちゃんと寝たいと思っていたら、リュックの中に詰め込んでいた。
反省。
「なんだ、この嵩張る調理道具一式は。鉄製のダッチオーブンなんてもはや鈍器だろ」
「今料理の勉強をしてて、野営の時に美味しい料理を作れないかなって」
「そんなものは旅ではなく、キャンプでやれ!! 食材はどうするつもりだ? 保存は?」
「なるほど」
確かに食材のことはあまり考えてなかった。漠然と現地調達すればいいかなと。
それに沢山作ってアークが食べてくれればどうにかなるかなって。
でも、そうだよね、何も採れない可能性や手間を考えたら、保存食で済ませるのが基本だよね。
「すり鉢に……薬研? この調薬道具はなんだ?」
「あれば、現地で薬が作れて便利かなと思いまして」
「最初からできてるやつを持っていけ」
「そ、そうですね……」
これは、マリンダさんの言うとおりなんだけど、薬師の本能というか、癖というか、気づいたら、リュックに入れてんだよね。
これはしょうがない。
「そして、これはなんだ?」
「ぬいぐるみです」
「ぬいぐるみだぁ?」
「そうです。ぬいぐるみは可愛いので」
「却下だ、却下!! いらないものは全部無くすよ!!」
「……わかりました」
癒しも大事だと思うんだけど、完全否定されてしまった。
気づけば、荷物は最初の十分の一くらいになっていた。
「ふぅ〜、やっと行けますね!!」
元々の予定からすでに1時間以上過ぎていた。
「誰のせいだ!?」
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