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第03話 封印されし獣

 私は崩れた柱の陰に隠れて様子を窺う。


 え、なんなの? 寝てただけ?


「人間、お前は何者だ?」


 狼さんは億劫そうな口調で尋ねる。


 もしかしたら、あの縛り付けている鎖のせいで弱体化しているのかもしれない。


 門の扉を殴ったら壊れたことを説明すると、狼さんは目を細めた。


「誰も開けられぬ扉を、拳で砕く者など聞いたことがない」

「簡単に崩れ落ちたので、見た目はともかく、多分中身がボロボロだったのかと」


 そうでなければ、あんなに頑丈そうな扉が私のパンチで壊れるのはおかしい。


「そんなはずはないのだが……まぁいい。それよりこの鎖もどうにかできないか?」

「え? できないと思いますけど……」


 扉はどうにかなったけど、流石にこんなに重厚で巨大な鎖は壊せないと思う。


「扉を壊したお前なら壊せるかもしれん。殴ってくれるだけでいい」

「いや、でも……」


 それに、明らかに封印されている存在を解き放ってしまうのもどうかと思う。


「礼はするから頼む……」

「わ、分かりました」


 でも、情けなく懇願する狼さんが可哀想で、つい引き受けてしまった。


 ――パキンッ!!


「え、砕けた!?」


 言われるがままに殴りつけると、門の扉と同じように鎖が粉々に砕け散る。


 いったいどういうこと? 鎖が壊れる理由はどこにもなかった。そのはずなのに、壊れてしまった。訳が分からない。


「……残りも頼む」

「分かりました」


 氷が砕けるような澄んだ音。二本目、三本目も同じ。鎖は砂のように崩れ、床に黒い粉を撒き散らす。


「まさか……本当に全て壊してしまうとはな」


 解放された巨体が、ゆっくり背を伸ばす。石床がきしみ、私は思わず後ずさった。


「鎖もボロボロだったんですかね?」


 何度も続くとその言い訳も苦しい。なんらかの力が働いていると考えるのが自然だ。


 多分、これも超健康の効果の可能性が高い。私の体がダメージを受けないくらい頑丈すぎて、壊してしまったのかも。


「ふっふっふっ、そんなことはもうどうでもいい。我を封印から解放してくれて礼を言う。褒美にお前を喰らってやろうではないか、がぁっはっはっはっ!!」

「えぇえええええっ!?」


 がぶっ。


 ……?


「……あれ、痛くない」


 仮説を裏付けるように、私は無傷だった。


「ぐがぁあああ!? は、歯がっ!? な、なんだこの硬さはぁっ!!」


 狼さんが飛び退ってのたうち回る。まるで、アニメのギャグキャラみたいだ。


 私の体は狼の牙よりも硬いらしい。


「大丈夫ですか?」

「人間!! お前は何者だっ!?」


 ちょっと可哀そうになって話しかけると、牙をむいた狼さんが、逆に距離を取る。

初めて見る生き物に出会った時のような、本能的な反応だった。


「ただの一般人ですけど?」


 私は、とにかく健康なだけの一般人。それ以上でもそれ以下でもない。


「そんなはずあるか!! お前はどんなスキルを持っているんだ!!」

「超健康ですけど?」

「ん? 聞いたことのないスキルだな……」

「自分でもよく分かりません……今分かってるのは体が異常に頑丈になって、身体能力も向上することですかね」


 狼さんは、しばらく黙り込んだ後、深くため息を吐いた。


「……よかろう。我を解放したおまえについていってやる。感謝するがいい」

「えっ、嫌ですけど……」

「なんだと!!」


 むしろ、なんで感謝されると思ったのか……。


「自分を食べようとした相手と一緒に行くのはちょっと……」

「ふんっ、まぁ、何と言われようと我はついていくがな!!」


 今度は開き直ってしまった。


「えぇ……なんでですか?」

「お前のような奇妙なスキルを持つ存在を監視するためだ」

「……勝手にしてください」


 こうなると、相手を止める方法がない。


 この世界にはストーカーに関する法律なんてないし、相手はモンスター。人間の都合なんて関係ない。


 流石に殴って分からせるのは可哀そうだし、諦めて好きにさせることにした。


 それに、一人旅は寂しいと思っていたので、話し相手ができるのはちょうどいい。それに、もっともふもふしたいと思ってたんだよね。


 食べられそうになったばかりだけど、本気で痛がってたし、超健康があれば全然怖くない。丸呑みにされても、体内で大暴れすればどうにかなると思う。


「勘違いするなよ、人間。決してお前自身に興味なんてないからな」

「分かってますよ」


 威圧的に振舞われても、噛みつかれた時の印象が強いせいでむしろ可愛く見える。


「それと、その堅苦しい喋り方を止めろ。そういう口調は好かん」

「……分かった。そういえば、なんて呼んだらいいの?」


 これから一緒に旅をするのなら、名前がないと不便だ。


「ふんっ、好きに呼べ」

「うーん、それじゃあ、アークって言うのはどう?」


 アークというのは、YoTTube(ヨッチューブ)でよく見ていた動画チャンネルに出てくる、私の好きな犬の名前。


 なんだか雰囲気が似てるんだよね。


「ふんっ、それでいい」

「やった」

「な、主従契約だと!? そんなバカな!?」


 私とアークの間に突然光の線が繋がって消えた。


 それだけなのに、アークがひどく狼狽えているので気になった。


「どうしたの?」

「し、知らん」

「え、教えてよ」


 言いたくなさそうな顔をされると、余計に聞きたくなる。


「ぐっ、おまえが我の主になる主従契約が結ばれてしまったのだ。災厄と呼ばれた我と契約などありえん……ありえんはずなのだがな!!」


 言いたくないけど、体が勝手に喋ってしまう。


 そんな顔でアークが話す。


「えぇ〜、主従契約!? 聞いてないんだけど?」


 主従契約ってあれでしょ? 異世界職業のテイマーがモンスターを従えるやつ。


「こっちが聞きたいくらいだ!!」

「そうなんだ。でも、いいよね、私を食べようとしたんだし」

「よくないわ!!」


 奈落の底での奇妙な出会い。


 それが、私とアークの長い旅の始まりだった。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
 因果応報だよ(笑)
狼は邪悪なんだろうけど何してもつうじなくて狼にとってよくない方になってて(主人公にはラッキー)おもしろいです(≧▽≦)
無理に世界観を作ろうとしてなくて、自然な感じのほのぼの感で好きです
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