第29話 同行する先輩冒険者
「いや、お前の話をしようとしていたところだ」
「そうかい。間に合ってよかったよ」
部屋に入って来たのは、日焼けした肌が眩しい長身の女性。虎やライオンを思わせる鋭い瞳を持ち、燃えるような赤い髪をポニーテールにまとめている。
露出の多い服装に、いかにも冒険者らしい各部位の防具を身に着けていて、ところどころから覗く鍛え上げられた体が、戦士の風格を漂わせていた。
めちゃくちゃカッコいい!! これが冒険者なんだ!!
なんだかんだ、こうやってちゃんと冒険者と対峙するのは初めてだ。
「まずは紹介しよう。こいつはマリンダだ」
「Cランク冒険者のマリンダだ。よろしくな」
「私はEランク冒険者のアイリスです」
手を差し出されたので、私は興奮を抑えて握手する。
その手はごつごつとしていて硬かった。相当な訓練を積んでいる証拠だ。Cランク冒険者は伊達じゃないってことだね。
「こいつがアタイが指導する後輩かい?」
「そうだ」
マリンダさんが私をあちこちからジロジロと見回してくる。
『悪意はなさそうだが、大丈夫か?』
『だ、大丈夫だよ』
念話してくるアークにはそう言ったものの、ちょっと居心地が悪い。
「えっと……指導というのは?」
「あぁ。この街では、初めて遠出の依頼をする冒険者に、先輩冒険者を一人サポートとしてつけることにしているんだ。お前さんは今回が初めてだから、暇そうにしていたこいつを呼んだってわけだ」
なるほど。指導ってそういうことだったんだ……って、それってつまり、私が依頼を最初から断らないと思っていたってこと?
なんだか見透かされちゃってる気がするなぁ。
「おいおい、大層な言い草じゃないか。こっちは大きな仕事を片付けたばっかりだってのに」
「はははは、悪い悪い。まぁ、そういうことだから、こいつに冒険者としてのいろはを教わるといい」
マリンダさんはギルドマスターと仲が良さそうだし、悪い人じゃないみたいだね。アークも問題ないと言っているし、大丈夫かな。
「分かりました。マリンダさん、よろしくお願いします」
「あぁっ、任せときな」
「詳しい依頼内容を説明するぞ」
出発は明後日の朝。
場所は一日半くらいの場所にある開拓村。そこまでは支援物資を積んだ馬車を使って移動するらしい。
途中でモンスターが多くいる森の近くを通るので、注意が必要なんだとか。
私にはアークがいるから大丈夫だね。
「それじゃあ、明後日から頼むな」
「こちらこそよろしくお願いします」
説明を聞き終えた後、冒険者ギルドの前でマリンダさんと別れた。
『よくあの依頼を受けたな』
宿への帰り道。
アークがポツリと呟く。
『まぁね。信頼に応えたいと思ったし、困ってるなら助けたいって思ったのは当然だけど、これから旅に出るつもりだったでしょ? だから、遠出は練習しとくべきかなって思ったの』
私はこれからゆっくり気ままに世界を見て回るつもり。
多分国外への旅は一日二日じゃすまないと思う。一週間以上かかっても全然おかしくない。
だから、先に経験できるならしておいた方がいいし、教われるものは教わっておいた方がいい。
『ふんっ、人間はすぐに失敗するからな。せいぜい今回の依頼で学ぶといい』
『そうだね。先輩冒険者もいるから、色々教えてもらおうね』
翌日。
「嬢ちゃん、世話になったな」
「いえ、こちらこそありがとうございました」
今日で建築現場のお手伝いが終了。
「うぉおお、嬢ちゃんのいない現場なんてオアシスのない砂漠みたいなもんだ!!」
「荒野に咲く、一凛の花。それがなくなったら、俺たちはどうすればいいんだ!?」
「明日から嬢ちゃんの逞しい姿が見れないと思うと、心が張り裂けそうだ!!」
仕事が終わった後、作業仲間たちが依頼を終えたことを悲しんでくれる。
大げさだな。そんなに仕事が嫌なのかな。まぁ、私がいることで毎日の仕事時間が減っていたから、明日からの仕事が億劫なのかも。
「お前らはちっと黙ってろ!!」
現場監督さんが、作業員たちを怒鳴りつけた。
「えぇ~、現場監督だって悲しいくせに!!」
「そうだそうだ、娘みたいだって言ってたじゃねぇか!!」
「最初はあんなにいびろうとしてたのになぁ」
でも、皆元々屈強な男の人たち。怒鳴られた程度では止まらない。
「うるせぇ!!」
「あはははははははっ」
やり取りが面白くてつい笑ってしまった。
「まぁ、なんだ。もし仕事がなくなったら、ここに来い。歓迎してやる」
「分かりました。その時はお願いしますね!!」
挨拶を済ませると、私たちは街に向かって歩き出す。
「これからどうするつもりだ?」
「明日に向けて買い物するよ」
街に戻った後、お婆さんのお店で一番おっきなリュックを購入し、必要そうなものを手当たり次第に買い込んでから宿に戻った。
そして、翌日。
遂に今日から遠出の依頼だ。旅の予行演習みたいなものだから楽しみ。
私とアークはるんるん気分で待ち合わせ場所にやってきた。
「おはようございます!!」
そこにはすでにマリンダさんの姿が。そして、開口一番――
「なんだ、そのデカいリュックは。やり直しだ」
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