第166話 オークション参加登録
私たちが通されたのは非常に高そうな部屋だった。
大理石みたいな光沢のある材質の壁に黒いシックな棚。中に調度品が並んでいて、真ん中にオシャレなテーブルとソファが置いてある。
ヴェルナスで泊まった最高級ホテルと比べても遜色ない。
「こちらへおかけください」
「ありがとうございます」
少し恐縮しながら腰を下ろす。エアは私が抱え、レインが隣に腰を下ろし、アークは床にソファの横に座った。
「レプス・クライトン様からのご紹介とのことですが、今回は売りと買い、どちらでご参加されるご予定ですか?」
「両方でお願いします」
名前を聞いて一瞬誰かと思ってしまった。
オーナーさんはレプス・クライトンさんというらしい。
「かしこまりました。出品物は何を出されるおつもりでしょうか」
「メインはクラウンフォレストとクラーケンの魔石です。他に過去の名品を数点になります」
返事を聞いた受付さんは目を大きく見開く。
「……!? それは素晴らしい商品ですね。鑑定させていただくことになりますが、問題ございませんでしょうか」
「もちろんです」
クラウンフォレストとクラーケンの魔石は自分で獲ったものだからいいんだけど、蚤の市で買った商品こ詳しい内容が分からない。
むしろ鑑定してもらった方が良い。
「承知しました。鑑定士を呼んでまいりますので商品を出してお待ちいただけますか?」
「分かりました」
私はクラウンフォレストとクラーケンの魔石と、今日蚤の市で買ってきた品物をテーブルの上に並べた。
「お待たせしました」
受付嬢さんが、何やら明らかに偉そうな雰囲気の白髭がもじゃもじゃの、どこかの魔法学校の校長みたいなお爺さんを連れてきた。
「ふぉっふぉっふぉっ、お待たせしてしまいましたかな。ワシが今回鑑定を請け負わせていただくフォクセンと申します。どうぞよしなに」
「Cランク冒険者のアイリスです。よろしくお願いします」
フォクセンさんが丁寧に自己紹介してくれたので、私も立ち上がって自己紹介をする。
「なんとCランク冒険者ですと!? ワシにも見通せぬほどの力の持ち主でありながら? それだけの従魔を従えているというのに?」
もしかして鑑定したのかな?
「まだ登録したばかりなので……」
「なるほど。そういうことございましたか……不躾に鑑定してしまい、誠に申し訳ございませんでした」
「いえいえ」
フォクセンさんが深々と頭を下げる。
見えていなかったのなら何も問題ないと思うんだけど、律儀な人だな。
受付嬢さんが驚いている顔をしているんだけど、どうしたんだろう。
「こちらが鑑定の必要な品物ですかな?」
「はい。そうです。よろしくお願いします」
「お任せください」
フォクセンさんが品物をルーペみたいなものを取り出して手袋をはめて、魔石を自分の顔の高さまで持ち上げてしっかりと見始める。
目で見るだけよりも詳しく見える感じなのかな。
「おおっ、これは素晴らしい!! 紛れもなくクラウンフォレストの魔石でございますな。しかもつい最近討伐されたばかり。いったいどちらでこちらを?」
フォクセンさんが魔石を持ちながら目を見開いた。
「ラビリス共和国からこっちの国に来る途中で遭遇して討伐したんです」
「なんと……流石でございますな」
説明を聞いたフォクセンさんが感心するようにふんふんと首を縦に振る。
「こちらのクラーケンの魔石も最近獲られたものでございますな……もしや、先日ヴェルナスで猛威を振るっていた個体のものでございますか?」
「はい、そうです」
ヴェルナスのクラーケンの話はこっちまで伝わってるんだ。
「やはり。街の人たちも大層喜んだことでしょう」
フォクセンさんが好々爺然とした優しい笑みを浮かべる。
「そうですね。なぜか海神様なんて祭り上げられてしまって」
「然もありなん。クラーケンとは都市を破壊するような災害。アイリス様がその場にいらっしゃったことは、まさに神の差配というしかありませぬな」
「いやいや、たまたまですよ」
「ふふふっ、ご謙遜を」
さっきからフォクセンさんの私上げが止まらない。なんでこんなに持ち上げられているんだろう。
「こちらの品物は――」
終始フォクセンさんに持ち上げられ続けた。
「これは……」
「どうかしましたか?」
フォクセンさんが魔導書を見た後、動きを止める。
「こちらの本はアイリス様がお持ちになられた方がよろしいかと」
「そうなんですか?」
「はい。アイリス様は旅をされていますな? これは"思い出の書"という持ち主の旅の思い出を自動的に記録する本なのです」
「へぇ~、それは面白そうですね」
そんな本があるなんてやっぱりファンタジー。どういう感じになるのか気になる。
「お返ししておきますね」
「分かりました」
私は本だけ受け取って他は出品してもらうことになった。
「それでは買いで参加される際は、こちらの参加状をお持ちください」
「ありがとうございます」
参加の際の注意事項などの説明を受け、私はその場を後にした。
◆ ◆ ◆
「マリー君、アイリス様とは絶対に敵対しないように」
アイリスを見送った後、フォクセンが呟いた。
「会長、それほどの方なんですか?」
「うむ。あの方もそうだが、供の方も、従魔の方も誰一人鑑定できぬ。ワシの力量を遥かに超えた方々だ。くれぐれも周知させておけ」
「ゴクリッ……かしこまりました」
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