第16話 仕事をこなしただけなのに
「ここは女が来るような場所じゃないぞ!!」
「音を上げるに決まってる!!」
「力仕事なんてできるはずねぇ!!」
周りに集まっている人たちも私を非難する。その声は大きくなっていった。
「グルルルルッ」
『……』
しかし、アークが威嚇した途端に声が止む。
「お仕事の内容は把握しています。お試しでも構いませんのでやらせてもらえませんか? 役に立たなかったらすぐに首にしてもらって構いません」
この仕事ができなくなったからと言って、他の仕事がないわけじゃない。
大変だけど、最弱モンスターの駆除や肉の納品の依頼を済ませればいい。
「ふんっ、それじゃあ試させてもらう。おめえさんにはそこの袋をあそこに運んでもらう」
そう言って指し示されたのは、三十キロのお米くらいの袋。アークを持てたんだから楽勝。
「分かりました」
私は指示に従って、屈んで袋を持ち上げてみる。すぐに袋を持ち上げて、既定の場所まで持っていって戻ってきた。
「ふんっ、いいだろう。とりあえず合格だ。仕事はさっき言った通り、指示に従って袋を運んでくれりゃあいい」
「分かりました」
「よし、お前ら、作業を始めるぞ」
『おー!!』
「おー」
皆につられて私も手を上げた。
アークは邪魔にならないところで周囲に睨みを利かせている。
他の作業員はアークの前を通ると、ビクッと肩を跳ねさせていた。
『くっくっくっ、これが普通の反応よ』
『仕事の邪魔しないでよ』
『ふんっ、そんなことしておらん!!』
袋はめちゃくちゃ軽いし、一個ずつだと効率も悪い。持てるだけ持っていこうかな。
「十個くらいはいけそうだね」
私はズタ袋を重ねて持ち上げて既定の場所に持ち運ぶ。それでも全く重さを感じない。こんなに簡単でいいのかな。
淡々と往復を繰り返す。
単純作業は調合で慣れているし、体を動かすのは全然苦じゃない。むしろ、こういう経験をしたことがないから凄く楽しい。
これが肉体労働ってやつなんだね!!
私はスキップしながら運んでいく。
「おいおい、二個持つのも大変なのに十個も持てるなんてどうなってるんだ?」
「さっきから一度も休んでないぞ? いったいどんな体力だ?」
「見てみろ。汗一つかいてないぞ?」
作業仲間たちの声が聞こえるけど、仕事に夢中で右から左に通り抜けていく。
「ふぅ、これで最後」
ものの十分くらいで全ての袋を運び終えてしまった。
「ん? 嬢ちゃん、どうしたんだ?」
別の場所で指揮を執っていた人の所に次の仕事を求めにやってきた。
「袋を運び終えました」
「はぁっ!? まだそれほど時間たってねぇじゃねぇか。嘘じゃねぇだろうな?」
まぁ、他の人たちが二つずつ運ぶのに対して、私は十個持っていたから、さぞかし異常に映ったと思う。
やっぱり超健康は凄いね。
「確認してもらって構いませんよ?」
「お前ら、ちゃんと作業しとけよ」
『うぃーっす』
この人を現場に連れていく。
「マジかよ……」
「次のお仕事を貰えますか?」
「ふぅ、次はあのレンガをあっちに持っていってくれるか?」
「分かりました」
次に与えられた仕事も一瞬でこなした。
「すみません」
「もしかして……」
呆れるような顔をする現場監督さん。
言いたいことは分かる。でも、軽すぎて終わっちゃったからしょうがない。
「はい、終わりました」
「マジかよ……分かった。あいつらと一緒にあの木材を運んでもらえるか?」
「分かりました」
私は木材置き場に向かう。
かなり太い木材を数人がかりで運んでいる。私もその流れに混ざって木材を持つ。
「おいおい、一人は無理だから止めとけって」
作業仲間が心配そうに声を掛けてくれた。
「無理そうだったら手伝ってください。よっとっ」
でも、私はそう言って木材を持ち上げる。
うん、全然大丈夫そう。
私は両肩に一本ずつ担いで指示された場所に木材を運んでいく。
「ありえねぇだろ……」
声を掛けてくれた人は呆然としていた。
『そいつ、ちょっと距離が近いな。殺すか?』
『心配してくれてただけでしょ』
アークが物騒なことを言うのでやめさせる。
周囲の作業員たちは、私が通るたびにそっと道を開け、目が合うと慌てて視線を逸らされた。
楽しくなってちょっとやり過ぎたっぽい。
「すみません」
「報告は来ている。見くびって悪かった。お前さん、とんでもない力と体力だな」
また現場監督さんのところに行くと、呆れ顔で肩をすくめられてしまった。
「私も驚いています」
私自身、ここまで身体能力が強化されるとは思わなかった。
ここまで全く疲れてない。
「次は足場板の設置作業を頼む。あの板を足場の上に張っていくんだ」
「分かりました」
私は高所作業用の足場を作っている場所に向かい、足場板を持って仮設階段を上り、板を設置して固定していく。
結構簡単だね。
慣れてきた私は速度を上げていく。
「あっ」
でも、楽しくて調子に乗りすぎたみたい。私はうっかり足を滑らせて足場の上から落ちてしまった。
――ガツンッ
いつぞやと同じように地面に激突。
でも、やっぱり痛くない。私が死ななかったのは超健康のおかげだ。
「うわぁあああっ、嬢ちゃんが落ちたぞぉおおっ!!」
「あんなん死んだに決まってるぞ!?」
「嬢ちゃん、大丈夫か!! 誰か、医者を呼んで来い!!」
なんだか皆が慌ててる。
「すみません、足を踏み外しちゃいました」
『……』
すぐに体を起こすと、全員がブリキ人形みたいな動きで私を見て動きを止めた。
一瞬、現場全体から音が消えた。
まるで世界が一時停止したかのようだった。
「どうかしましたか?」
『なんで生きてるんだよ!!』
なぜか全員からツッコミを入れられてしまった。
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