第159話 おコネは大事だよ〜
『ちょっと見てみようよ』
あんまりそういう話はしてなかったので、気になった。
『ふんっ、よかろう。我も少し興味がある』
『ピピッ』
アークとエアからはオッケーを貰えたので、最後にレインに確認を取る。
「レイン、劇場に入ってもいい?」
「もちろんです。私はマスターの行くところならどこへでもついていきます」
「ありがとう」
早速劇場に入った。
屋内は老舗の高級ホテルのロビーのように床に絨毯が敷かれ、暖色の淡い灯りが温かみと落ち着きを演出している。
そして、ハイステータスな雰囲気を纏う人たちで賑わっていた。
「申し訳ございませんお客様。従魔と一緒のご来館はちょっと……服装もきちんとしていただきませんと……」
「そうですか……」
歩いていたら、スタッフに止められてしまった。一緒に見られないみたい。
それはつまらないので、劇場を出ることに。
いつもこういうところにばかり泊まってきたせいで感覚がバグってた気がする。本当は凄い場所だから着飾って当然なんだよね。今まで入れたお店の方が特別なんだろうな。
「お嬢さん、お待ちくだされ」
「はい?」
出入り口に向かっている途中で誰かから声をかけられて振り返る。
そこに立っていたのは、シルクハットに黒のスーツ、そしてモノクルを身につけた英国紳士然とした雰囲気の白髪のご老人だ。
ただ、こんな人に会った覚えが全然ない。
「えっと、どちら様ですか?」
「昨日お会いしたのですが、覚えておられませぬか?」
「……あっ、もしかして一緒にポーカーをした?」
記憶の中にある隣でポーカーをしていた人と姿が重なった。
服装や雰囲気が違ったので気づかなかった。
「そうです。そちらのワンちゃんにはたくさん稼がせていただきました」
『我は犬ではないぞ!!』
『少し黙ってて』
『ぐぬぅうううううっ!?』
唸るアークにデコピンをして黙らせる。
「いえいえ、どういたしまして。この子も良い教訓になったと思います」
「ははははっ、豪気な方だ」
「それで、何か御用でしょうか?」
この人が誰か分かったけど、私に声を掛けてきた理由が分からない。
「いえ、残念そうに帰る姿が目に入りましてな。お力になれるのではないかと思い、お声がけさせていただいた次第です」
「どういうことです?」
「私はここのオーナーなんですよ」
「え? そうなんですか!?」
まさか昨日一緒にポーカーした人がそんなに凄い人だとは思わなかった。
「はい。もしご迷惑でなければ、あなた様方を特別にVIPルームにご招待したいのですが、いかがでしょうか?」
「いいんですか?」
ドレスコードも守れていないし、従魔もいるんだけど。
「はい。私がルールですし、あなた様がドレスアップすると騒ぎになってしまいますからね」
「どういうことですか?」
後半の言ってる意味が分からない。いや、前半も言ってること自体はヤバいんだけどね?
「あなた様はもっと自分の容姿を自覚なさった方がよろしいですな。昨日カジノでは全員あなた様方に釘付けになっておりましたぞ」
「え、そうだったんですか!?」
なんか視線を感じるなぁとは思っていたんだけど、まさか私たちの容姿が原因だったとは思わなかった。
そういえば、エリアもそんなことを言っていたような気がする。大袈裟だと思っていたけど、本当のことだったらしい。
私自身、今世の顔は可愛いとは思う。
でも、精神が前世のままのせいで未だに自分の顔っていう実感が薄いんだよね。
こうやって面と向かって注意してくれたおかげで自覚できた。とても助かる。
「はい。あなた様方が帰った後、どこの家のご令嬢なのかという話で持ちきりになっておりましたよ?」
「はぇ〜、残念ながらただの平民の冒険者ですよ?」
一応元貴族の令嬢ではあるけど、戸籍に載っていたのか分からないし、すでに死んだ身。
貴族のご令嬢とは言えないよね。
「そのようでごさいますな。それでいかがでしょうか? 招待を受けていただけますかな?」
「それでは、お言葉に甘えさせていただきます」
「かしこまりました。それでは君、こちらの方をVIP席にご案内して」
「か、かかかか、かしこまりました!!」
側にいたスタッフが、突然のオーナーの出現にガチガチになって青ざめている。
そりゃあ、そうだよね。追い出そうとした相手がオーナーの知り合いだったんだもん。
私のせいでクビになったりしたら寝覚めが悪い。ちょっとフォローしておいてもいいよね?
「彼は仕事を全うしただけなので、くれぐれもお願いしますね」
「分かっておりますとも」
これで変に罰されたりしないといいな。
私はスタッフによってVIP席へと通された。
映画館みたいな造りになっていて、VIP席はとても見やすい位置にあり、半個室みたいになっている。
これならアークたちと一緒でも他の人たちの迷惑にはならないはず。
「皆様、当劇場へようこそお越しくださいました──」
私たちが席に座ったあと、すぐに会場が暗くなり、挨拶から始まった。
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