第158話 お大尽
「それじゃあ、市場から見て回ろっか」
今は朝食を食べたばかりの時間帯。どこにいくにしてもまだ開いていない店が多い。
街に到着した頃よりも少ない人の間をすり抜けて市場を目指す。
昨日宿を探して歩き回ったからある程度どこに何があるのかはもう把握済み。迷うことなく市場に到着した。
「うわぁ、すんごい人だね」
市場は人で溢れかえっていた。
元々交易で栄えている国だけあって大盛況。私と同じ考えの人たちが集まっているんだろうね。
流れに従って露店を見ていく。
ここには香辛料や魚介類の他に、私たちが目指している農業大国ハーベストからの輸入品である野菜や果物、そして穀物類が多く売られていた。
「あっ、あった!! 良かったぁ」
でも、私がここに来た一番の目的は、お米がないかを確認するため。
だって、私が譲ってもらったお米の量はそんなに多くなかったし、皆の胃袋がブラックホールすぎて想定よりも遥かに早くなくなってしまいそうなんだもん。
このままじゃ、ハーベストに着くまでもちそうにないからね。補充しなきゃいけない。
元々ハーベストからの輸入品だという話だったのであるんじゃないかと思っていたけど、予想通りお米を販売しているお店を発見できて良かった。
「すみません」
「おや、いらっしゃい」
「お店にあるお米全部もらえませんか?」
「米を? 全部?」
店主のおばちゃんが目をパチクリさせる。この反応も慣れたもの。どこでもお店顔負けの量の商品を仕入れていくからね。
「はい。ダメなら大丈夫なだけください」
「まさか、米がこんなに好きな人が私らの国以外にもいるとはね。分かったよ。好きなだけ持っていきな」
「いいんですか? ありがとうございます!!」
他にも買いたい人はいたかもしれないのに、おばちゃんは気前よく売ってくれた。
中にはパエリアで使ったお米だけじゃなくて、日本のお米っぽいのもある。
『じゅるっ』
炊き立てを想像するだけでお腹が空いてくる。
料理を作ったわけじゃないのに、皆の涎の音が重なったのは偶然じゃないよね。
今から楽しみ!!
多分、数百キロは買ったはずだから、ハーベストまでは持つはず。
「あんたたち、そんなに米が好きなのかい?」
完全に顔に出ていたのか、おばちゃんが不思議そうな顔で尋ねる。
「はい。それはもう」
「そうかい。この街の後、お嬢ちゃんたちはもしかしてハーベストに行くつもりかい?」
「はい。お米がたくさん欲しくて」
「これでもまだ足りないのかい?」
おばちゃんは今買ったばかりの米の袋の山を見てから目を大きく見開いた。
おばちゃんの気持ちはよく分かる。前世の私なら一緒に驚いていたと思う。
「そうですね。もっともっと……それこそ一生食べても困らないくらい欲しいですね」
レインの亜空間倉庫があるし、食材はいくらあってもいい。劣化しないからね。
「そりゃあ、たまげたね。分かった。もしハーベストに行ったら、これを持ってコメスキー商会に行きな。一生分は厳しいけど、一年分くらいならどうにかできるはずだよ」
おばちゃんが米が描かれた紋章がついた鈴を私に差し出した。
「いいんですか?」
「これだけ買ってくれたら立派な上客さね。しかも、一生分買いたいって言ってくれるほどの、ね。これくらい融通を効かせるってもんだよ」
「ありがとうございます。有り難く受け取らせてもらいますね」
私はおばちゃんから鈴を受け取った。
でも、凄いのはここからだった。
「嬢ちゃん!! ウチにも米があるぞ!!」
「こっちにもだ」
「私んとこにもあるよ!!」
私とおばちゃんの話を聞いていた米を扱っている店主たちがこぞって売り込んできた。
「全部買わせていただきますね」
『うぉおおおおっ!!』
もちろん調子に乗って全部買ったけどね。
「これは味噌だ!!」
他の食材を扱うお店は悔しがっていたけど、味噌の香りに釣られて醤油の実みたいな木の実を買い込んだことで、他の食材も売り込んでくるもんだから、さぁ大変。
「肉はどうだい!!」
「こっちは魚だよ!!」
「うちは野菜さ!!」
不要な物は買わなかったけど、食材基本的に購入した。相当な量になったと思う。
『ありがとうございましたぁ!!』
市場から出る時には、皆さんから大変感謝された。
これでしばらく食材には困らないはず。散財してしまったけど、皆笑顔になったし……こ、これで良かったよね?
昨日カジノで稼いだお金は綺麗さっぱり消え去ってしまった……とほほっ。
気持ちを切り替えて改めて街を散策。
「あっ、劇場だ」
石材を切り出して造りあげた神殿のような立派な建物が見えてくる。
女将さんによれば、そこがこの街の劇場らしい。
市場でもみくちゃにされてもういい時間になった。劇場の開館時間は過ぎている。
最初のお芝居はあと十分位で始まるらしい。
『災厄の獣に攫われし姫君』
そして、今日公演される作品の名前がとても気になった。
なんでも数百年前に起こった事件を元にして作られた物語なんだとか。
災厄といえば──。
『アーク、これってもしかして?』
『我かもしれぬな』
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
「面白い」
「続きが気になる」
と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。
よろしければご協力いただければ幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。




