第15話 資格の証明
『なんの依頼を受けるつもりだ?』
依頼書は掲示板に貼ってあり、主に討伐系や採取系、それとお手伝い系が多い。
報酬は、現金払いか、冒険者登録時に開設されるギルドの銀行口座に振り込んでおくこともできる。
ギルドカードは口座と連携していて、カードで支払いをすることもできて便利。本人しか使えないし、現金を持ち歩かなくて済むので、盗難リスクが少ない。
『まぁ、初心者だし、街で困ったことを解決するとか、近場で取れるアイテムの採集依頼とかかな。後、昨日少し他の冒険者の人が話していた城壁の増築工事の作業員募集の事も気になる』
『ふむ。さっさと仕事を決めるぞ』
『ま、待ってよ』
アークに連れられて依頼を求めて掲示板の前に向かった。
「いろんな依頼があるねぇ……」
掲示板に薬草の採取から、ドラゴンの討伐まで本当に多くの依頼が張り出されている。でも、ほとんどの依頼がランク制限で私は受けられない。
Gランクの私が受けられそうなのは、薬草採取、ビービーバードの肉の納品、城壁増築工事の作業員、スライムやゴブリンの討伐、そして、水路の掃除。
この中で水路の掃除は真っ先に除外。
別に汚いのや臭いのが嫌だって言ってるわけじゃなくて、現在の収入とアークの食事を考えたら、外に出て自分で狩ってきてもらった方がいいんだよね。
だから、街の中で完結してしまう依頼は真っ先に弾かれる。
他の依頼は街の外に出て、そのまま狩りにいけるチャンスがある。
でも薬草採取に関しては、自分の薬を作るのに薬草を使うので受けるつもりはない。
ビービーバードの肉の納品は、そもそも戦闘慣れしてないし、血抜きとかできないから却下。スライムやゴブリンの討伐も同じ理由で避けたい。
そうなると、初めて残るのは必然的に城壁の増築工事の作業員になる。
体力には自信がある。
「すみません、この依頼をお願いします」
「増築工事の作業員ですね。かなり体力と力がお仕事ですが、大丈夫ですか?」
「大丈夫です」
受付嬢さんの気遣いに感謝しつつ、そのまま依頼を受ける。
「でも、現場を取り仕切ってる方、割と厳しいことで有名なので……アイリスさんみたいな可憐な女性ですと……」
あっ、もしかして私の力が疑われてる? 私自身もどのくらい力があるかわからない。どうしよう……あっ、そうだ!!
『アーク、ちょっとごめんね』
良いことを思いついた私はアークの後ろに回る。
『な、何をする!? お、下ろせ!!』
アークを持ち上げてみた。
思ったよりも全然軽い。
力も強化されていると思っていたけど、アークも簡単に持ち上げられた。
超健康ってやっぱりすごい!!
「えぇええええええっ!?」
受付嬢さんがとんでもなく目を見開いている。
「おいっ、やっぱりあいつただ者じゃなかったな!!」
「さっき登録したばかりの新人なのに、あんなデカい狼を軽々と持ち上げてるぞ?」
「どこにあんな力が?」
「絡まなくてよかったぁ……」
あれ? 周りも騒がしくなってる。いい考えだと思ったけど、もしかしたら、またやってしまったのかも……。
受付嬢さんは数秒くらい、赤べこみたいに私とアークを交互に見つめていた。
それから我に返ったように顔を引きつらせながら無理に笑顔を作る。
「……あ、あの、大丈夫です。十分です……というか、もう下ろしていただいて……!!」
受付嬢さんの手の動きがぎこちなくて、まるで爆弾を扱ってるみたいだった。
『おい、何をしてくれてるんだ!?』
『ごめんごめん』
床に下ろすと、アークが唸ってくるけど、ひとまず話を進める。
「ギ、ギルドカードをお貸しいただけますか?」
「分かりました」
専用のカードホルダーを取り出して渡した。
実は昨日気に入ったデザインのカードホルダーを見つけて買っちゃったんだよね。本当に色々買ってしまったので節制しなきゃ。
Gランクの依頼の中では一番割がいいし、終わった後に薬草の採集にもいける。依頼と薬の販売の両方で頑張れば、お金が貯まるのも早いはず。
「受理しました。特に必要な荷物はありませんので、お時間までに外壁工事の建設現場に向かってください。業務の振り分けはその時にしてくれると思うので」
「分かりました」
ギルドカードを返してもらい、現場に向かう。
『またあんなことをしたら許さんからな!!』
『ごめんて』
アークが持ち上げられたことにずっとご立腹だった。
建築現場の仕事ってどこから始めるんだろう。
いきなり屋根の上に登るのかな。それとも穴掘り?
わからないことだらけだけど、ちょっと楽しみでもある。
二十分くらい歩くとようやくその建設現場にたどり着いた。私と同じように依頼を受けた冒険者たちが集まっていて、朝から活気づいている。
皆私とそう変わらない年齢の人が多い。Gランクというくらいだから皆駆け出しなんだろうね。ただ、男の人ばかりで女の人がいない。
私が近づくと視線が集まる。
「おいおい、女かよ……嬢ちゃん、ここは給仕のお手伝いじゃねぇんだぞ?」
偉そうな雰囲気のスキンヘッドのおじさんに、私は高圧的な態度で出迎えられた。
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