第146話 実物と手がかり
マリーナさんに物凄く心配された。
「本当に大丈夫なの? 無理してないかしら」
「はい、大丈夫です。私の胃腸はもの凄く頑丈なので」
体が結構大きいからアークは別として、エアは明らかに自分の体積以上の料理を食べていたし、私とレインも一般人の胃の容量を遥かに超えていた。
心配されるのも無理ないよね。
「いったい華奢な体のどこに入ってるのかしら」
「あはははっ、私も分かりません」
「まぁいいわ。乗ってちょうだい」
「分かりました」
マリーナさんのあとに続き、大きな馬車に乗り込んだ。
しばらく揺られていると大きな屋敷に到着。
私たちは、そのまま長ーいテーブルのある食堂に通された。アニメや漫画で貴族の家によく見かけるやつだ。
煌びやかなシャンデリアぶら下がり、真っ白なテーブルクロスが敷かれた食卓の上には、所狭しと色とりどりの料理が乗せられている。
そして、二列の席の内、片側には数人の人間が座っていた。
「こちらの席に座ってちょうだい」
私たちは反対側の席に着く。アークは座れないから私の側に控える。
「紹介するわね。こっちから――」
マリーナさんが反対側の一番上座に座って隣の人から紹介していく。
全員マリーナさんの子供たち。二男二女の子だくさん。皆マリーナさんによく似ていた。
旦那さんが亡くなって、マリーナさんが街の長を務めることになったらしい。
「ありがとう。君のおかげで街は滅びずに済んだよ」
「母を助けてくれてありがとう」
「ありがとうございます」
「本当に助かりました」
マリーナさんの子どもたちから感謝される。
貴族のような傲慢さはなく、気安くて話しやすい人たちだった。
少し大げさな気がしたけど、ずっと漁に出られなければ、漁業で栄えているこの街は、本当に滅んでいたかもしれない。
「いえ、どういたしまして」
感謝はきちんと受け取っておく。
「それじゃあ、料理が冷める前にいただきましょう。アイリスさんたちへの感謝を込めて沢山用意したわ。好きものを取り分けて食べてちょうだい」
「ありがとうございます」
私たちは早速料理をいただくことにした。
席に座っているのは最初だけで、自分たちで取り分けて食べていいみたい。
並んでいる料理は見たことがある物からないものまでさまざま。
『全部持ってくるのだ』
『ピピィ』
「……」
アークとエアは全部食べたいらしい。レインも無表情ながら目で同じように訴えかけている。
仕方がないので、せっせと皆の分をとりわけ始める。
「私どもにお任せください」
壁際に控えていたメイドがやってきて、私の代わりに料理を取り分けてくれた。
ちょっと大変だったので助かる。
アークたちは料理が届くと、すぐにバクバクと食べ始めた。屋台では遠慮していたんじゃないかと思うくらいの勢いがある。
「アイリスさんのお仲間はよく食べるわね」
「すみません。食い意地が張っていて……」
「いえいえ、むしろここまで食べていただけるなんて気持ちがいいくらいだわ」
「そう言っていただけると助かります」
テーブルの上の料理が瞬く間に消えていく。
私もなくなる前に食べないと。
仲間のことはメイドさんたちに任せて、私も料理に手を付ける。
特に見覚えがあるのは、ソテーや蒸し焼きなどの焼き料理に、アクアパッツァやブイヤベースっぽい煮込み料理、そして、魚のフライなどの揚げ料理。
どれも前世であまり食べられなかった料理ばかりだ。
私はここぞとばかりに頬張る。
「美味しい……」
この屋敷で料理を任されている人が作っているだけあって、その味は上品で格別だった。
ついついいろんな料理に手が伸びてしまう。
「あれだけ食べたのに、本当に食べられるのね……」
「え、あ、あまりに美味しくてつい……」
「いえ、いいのよ。信じられないだけだから」
「あははは……」
私は皆とは違うと思っていたけど、同じカテゴリに放り込まれた気がする。
まぁ、私の前から消えていった料理の数々を思えば、それも仕方ないかも。
屋台の店主たちと同じように料理人たちが奮起したのか、次々と料理が運ばれてくる。
見たことがないものが多かったけど、たった一つ……たった一つだけ見逃すことができない料理が目の前の空の皿と交換で出された。
「パエリア……」
それはどう見てもYoTTubeやネットで見たことがあるパエリアそのものだった。
パエリアには米が使用されている。
そう。それはつまり、この世界にも米があるということだ。世界中を巡る覚悟もしていたというのに、あっさりと手がかりを見つけた。
出所が気になるところだけど、ひとまず目の前の料理を楽しもう。
気づけば、私たちは料理を食べつくしてしまった。
「あはははは……百キロ以上の食材はあったはずなのだけどね」
「本当にすみません……」
「いえ、気にしないで。あなたたちが成したことはこの程度では足りないもの。それで、すでに冒険者ギルドから報酬はもらっているでしょうけど、何か欲しいものはないかしら?」
まさかそんなことを言ってもらえるとは思わなかった。
お言葉に甘えてお願いしよう。
当然、私が望むものはたった一つ。
お米だ。
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