第145話 海神様VS屋台
人だかりができて身動きが取れない。
「海神様、ありがとうございました!!」
「海神様、助かりました!!」
「神の戦いを見させてもらいました!!」
「あの雷撃も海神様のお力なんですね!!」
お礼を言いたい気持ちはわかるけど、少しは相手の都合も考えて欲しい。
「排除いたしますか?」
「いやいや、ダメだからね?」
「かしこまりました」
レインがなんか剣呑な雰囲気を出して、手を剣に変化させる。
危険すぎるのですぐやめさせた。
『我に任せておけ』
『何をするつもり?』
『こうするのだ』
自信満々に念話してきた後、アークが吠えた。
「ウォオオオオオオンッ!!」
空気の振動が周囲に広がり、取り囲んでいた人たちは足をガクガクと震わせて一気に顔を青ざめさせる。
『ちょっとやりすぎだよ』
『ふんっ、迷惑をかけるような輩には仕置きが必要であろう』
『気持ちは分かるけど、もう少し抑えてよ』
『これが最弱だ』
『もうっ』
アークはこれ以上は知らんとばかりにそっぽを向いた。さすがにここまで憔悴してる姿を見ると申し訳ない気持ちになる。
「ちょっと通してもらうわよ」
固まった人たちの間をすり抜け、四十代くらいの身なりの整った女性がやってきた。
「ほらほら、散った散った。海神様の邪魔をしないでちょうだい」
女性が手を叩くと、我に返ったようにハッとして人だかりが消えていく。
「ありがとうございます」
「お礼を言われるようなことじゃないわ。むしろ、私の住民が迷惑をかけてごめんなさいね。ここしばらくの絶望感の反動でタガが外れちゃったみたいで」
「そうみたいですね。それで、あなたは?」
自然と割り込んできたけど、会ったこともないし、見たこともない人だ。
警戒するに越したことはない。
「自己紹介が遅れたわね。私はマリーナ。住民を纏める立場にある者よ」
「私はアイリスと言います。アークとエアとレインです。よろしくお願いします」
「こちらこそよろしくお願いするわね」
「それで、なぜマリーナさんはここに?」
クラーケンを倒したとはいえ、ただギルドの依頼をこなしただけ。
そんな偉い人が直接私のところに来る理由が分からない。
「海神様であるアイリスさんに晩餐会に参加してもらえないかと思ってね」
「晩餐会……ですか?」
思い浮かべるのは、よくある立食形式のパーティで、貴族や富豪の相手をさせられるイメージ。
あまり良い印象がない。
「大丈夫よ。あくまで個人的にお礼をさせてもらいたいだけだから。変な人は来ないし、マナーとかも気にせず、純粋に食事を楽しんでもらえばいいわ」
「それなら大丈夫です」
面倒なことがないのなら参加するしかない。
だって、いろんな料理が食べられそうだから。
「ありがとう。それじゃあ夕方くらいに迎えに来るわ。皆には私から迷惑かけないように言っておくから」
「分かりました」
マリーナさんが去った後、私たちの邪魔をする人たちはいなくなった。
それがマリーナさんのおかげなのか、アークのおかげなのかは分からない。
「海神様、これ食べとくれ!!」
「狼様、これ食ってくれ!!」
「ひよこ様、これあげるよ!!」
その代わり、屋台をやってる人たちから次々と料理を渡してくるようになった。
「レインも食べてね」
料理を渡そうとすると、レインは首を横に振る。
「私に食事は必要ありません」
「食べられないの?」
「いえ、効率は良くありませんが、食事からエネルギーを摂取することも可能です」
「それならお願いね」
私はレインに料理の一部を渡した。
どんどん渡されるので、食べてもらわないとむしろ困る。もちろん亜空間倉庫に仕舞っておくこともできるけど、それはなんか違う気がするしね。
「これは!!」
「美味しい?」
ゴーレムらしく無表情のレインだけど、料理を口に入れた瞬間、目をパチパチと瞬きさせて驚いているのが分かった。
「これが美味しいという感覚なのでしょうか。次を口に入れようとしてしまいます」
「それが美味しいってことだと思うよ。次々くるからドンドン食べてね」
「かしこまりました」
初めての食事で衝撃を受けたみたい。レインも私たちに負けず劣らず、凄い勢いで料理を食べ始めた。相当美味しかったみたいだね。
食いしん坊がまた一人増えたかな?
渡される料理は新鮮な食材を使っていることもあってどれも美味しい。
焼き物がメインで、貝類や甲殻類を焼いたものから、魚の串焼きや切り身を焼いたものがドンドン手渡される。
せっかくの好意を無碍にするわけにもいかない。
全員で分けてドンドン食べていく。
『この甲殻類はパリパリとした食感がたまらんな』
『ピィピィ!!』
アークとエアがエビやカニっぽい甲殻類をそのままパリパリとかみ砕く。レインは全くの無表情で次々と料理を処理していった。
私も料理を無駄にしないように一生懸命食べる。
「おいおい、いったいどれだけ食うんだ?」
「あれだけ食べてもスピードが落ちないなんて本当に人間か?」
「いや、違うぞ、海神様だ」
「私は人間ですよ?」
『あっ、はい』
さっきまではもらう速度の方が勝っていたのに、レインが参加してから逆転。でも、それが屋台の店主たちを奮起させた。
そのせいで私たちと屋台店主たちの熱いバトルが繰り広げられることに。
「海神様……負けたぜ」
「燃え尽きだぜ、真っ白によ……」
「海神様……あんたたちが一番だ」
その結果、店主たちがギブアップ。真っ白に燃え尽きていた。
こうやって巡っていると、屋台に焼きそばもお好み焼きもたこ焼きもない。ちょっと残念だ。とりあえず、お好み焼きは作れそうだからその内作ろうかな。
そして、気づけば、辺りはすっかり茜色に染まっていた。
前方にマリーナさんが馬車で迎えにきていて、困惑の表情を浮かべている。
「えっと、まだ食べられるかしら?」
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