第141話 遺跡探訪
「うむっ、満足した」
「ピピッ」
「それじゃあ、探検してみよっか」
「よかろう」
腹ごしらえを済ませた私たちは、早速この海底の遺跡を探索し始める。
──タッタッタッタッ。
道を歩くと、足音が無音の街に響き渡る。人間らしい気配はどこにも感じられない。完全に無人の街みたい。
でも、海の中でも街全体が昼間みたいに明るいし、酸素もあることを考えると、ライフラインの施設は生きてるのかもしれない。
辺りを一通り見て回ると、やっぱり気になるのは建物の中。近くで比較的原型をとどめている建物の入り口の前に立つ。
ただ、どこにも取っ手が見当たらない。
『■■■■』
突然、機械音が鳴り、どこからともなく人の声が聞こえてくる。
言葉の意味は分からないけど、クイズを間違った時みたいな少し不快感のある音がした。多分『この家の住民じゃないから開かないよ』みたいなことを言ってるんじゃないかな。
自動で家の住人かどうか判別してロックを解除するシステムになっているっぽい。家が壊れてるのに機能がまだ残ってるなんて驚き。
「お邪魔しまーす」
玄関から入るのを諦め、崩れている場所から家の中に足を踏み入れる。
「誰もいないのにお前は何をやってるのだ?」
「いや、なんとなく。誰かの家に入るんだから、お断りの言葉を言った方がいいかなって」
もう誰も住んでいないとはいえ、元は誰かの家。なにも言わずに中に入るのはなんとなく盗人みたいで後ろめたい。
断りを入れておけば、少し気持ちが軽くなる気がする。
「今とはだいぶ違う造りだな」
「そうだね」
屋内は表と違い、模様などはなく、かなり洗練された造りになっていた。言ってしまえば、地球の日本の家を近未来っぽくした感じ。
取るものも取らずに引っ越ししたのか、家具や電化製品みたいなものがそのまま残されている。
テレビとか冷蔵庫とか、よく似ている。AIで制御されていたのか、リモコンの類は見当たらない。いや、魔法があるんだから、魔法で制御していたのかな。
家の入り口や内装、それに家具なんかを見る限り、私たち人間と同じような体の構造を持つ存在が住んでいたっぽい。
結局、人間みたいな生物が快適に暮らすとなると、最終的にたどり着くところは似てしまうんだろうね。
家の中にある扉の前に立つと、勝手に扉が開いた。ぬいぐるみや人形が置いてある。誰かの個室かな。
「タブレット?」
本や雑誌がないところを見ると全てが電子化というか魔道具化されていたのかも。
私も病院でずっとタブレットで漫画や動画を見ていた。少し懐かしい気分になる。
タブレットを持つと魔力が少し吸われ、画面が起動した。可愛らしくデフォルメされた動物が表示される。でも、ロックが掛かっているのか、それ以上先に進むことができなかった。
この都市は電力の代わりに魔力で機能していた可能性が高いね。今の魔道具をより発展させた感じかな。今よりもはるかに高い技術力を持っていたみたい。
それに、家電をよく見るとダンジョンで手に入る魔道具に似ているような気がする。もしかしたら、ダンジョンは古代人が残した遺産だったりするのかな。
そう考えると、ただでさえロマンだらけのファンタジー世界が、さらにロマンが加速する。
他の部屋も色々見て回ったけど、それ以上面白そうなものはなかった。
外に出て奥にある高層建築物を目指して歩く。
「え?」
突然、歩くのとは別に体が進行方向に移動し始めた。一歩で進む距離を逸脱している。なのに、バランスを崩す様子はない。
試しに足を止めてみると、体が勝手に移動している。向かっているのは、私が目指した高層建築物がある方向だ。
もしかしたら、自分の意思で進んだり止まったりできるのかも。試しに『止まれ』と念じると思った通りに止まり、『動け』と念じたら動いた。
「これは便利だな」
「そうだね。でも、あんまり便利すぎると体が鈍っちゃいそう」
「確かにな。楽すぎるのも問題だ」
アークもおすわりしたままで私の横に並ぶ。エアも飛ぶのをやめて地面に着地し、勝手に進む感覚を楽しんでいる。
第三者から見れば、とても不思議な光景に違いない。
結構遠くに見えた高層建築物があっという間に近づいてきた。なんとなくビジネス街を彷彿とさせる。
とはいえ、タブレットや電子化が進んでいたのなら、研究職でもない限り、在宅で仕事してそう。
いや、そもそもこれほど高度な文明になると、働かなくても良くなってたりするのかな?
移動速度を落としながら辺りを観察していく。海中なのに、なんか自然でいっぱいの公園があったり、川があったりする。いったいこの都市はどんな場所だったんだろう。
街を見て回っていると、中央になんだかいかにも研究所です、と言わんばかりの建物が見えてくる。
どんなことが研究されているの気になるので、行ってみよう。
私たちは壊れた門の中に足を踏み入れる。
──ウゥウウウウウウン!!
しかし、敷地内に入った瞬間、警報みたいなけたたましい音が鳴り響いた。
研究所の上部からドローンを大きくしたロボットみたいなものが飛び出し、入り口付近から無骨な二足歩行のゴーレムみたいなものが出てくる。
私たちあっという間には取り囲まれてしまった。
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