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第14話 冒険者登録の危機

「ようやく来れた……ここが冒険者ギルド……」


 私は冒険者ギルドを前に立ち尽くしてしまう。


 レンガ造りの外観に盾の上に剣が乗っている木製の看板、そしてスイングドア。


 見た目はいかにも冒険者ギルドって感じ。


 前世で自分が転生して冒険者として活動する光景を何度妄想したことか。一度や二度では全然足りない。何十回も何百回も妄想してきた。


 夢にまで見た建物が目の前にある。


 それだけでどうしようもなく湧き上がってくる気持ちを抑えることができない。


『いつまで見上げてるつもりだ』


 感動に水を差すのはアーク。


「もう少しくらい感傷に浸らせてくれても良くない?」

『そんなことしていたら日が暮れるであろう』

「分かったよ。行けばいいんでしょ、行けば」


 アークの言うことは尤もだ。


「お邪魔しまーす」


 私は気持ちを落ち着かせてこそこそと中に入った。


「わぁああ……」


 併設された酒場で日中から飲み明かす人たち、依頼書が張り出された場所の前で吟味する冒険者、木製のカウンターの奥に座る見目麗しい受付嬢。


 そこには私が求める理想が詰まっていた。


 どれをとってもまさに冒険者ギルドそのもの。


 奈落の谷を飛び出してから本当に感動の連続で、こんなに楽しくていいのかな、と少し不安になるくらいだ。


 転生して本当に良かった。


『さっさと登録を済ませて外に行くぞ』

『わ、分かったよ』


 まだお腹が空いているらしく、外に出て目一杯モンスターを食べたいみたい。やっぱり昨日の量では足りなかったか。


 私は誰も並んでいない受付嬢さんのカウンターまで歩く。


 なんだか周りから見られているような気がする。ちゃんと冒険者らしい恰好をしてきたはずだよ? 何もおかしくないよね?


 ちょっとソワソワしちゃうね。


「こんにちは。ようこそいらっしゃいました。本日はどのようなご用件ですか?」

「新規で冒険者登録したいんですが、お願いできますか?」

「かしこまりました。それではこちらの登録用紙にご記入お願いいたします」


 差し出された紙の内容を埋めていく。


 受付嬢さんは金髪碧眼でとてもきれいなお姉さん。ザ・受付嬢って感じ。


 対応は親切で丁寧。身だしなみもしっかりしていて、仕事ができる人みたい。


「これって全部埋めないとだめですか?」

「名前さえ記載されていれば、他は空欄でも構いませんよ」

「分かりました」


 受付嬢さんに言われた通り、名前と書けるところだけ記入して渡す。


 名前は家名を取ってアイリスだけにしておく。


「はい、ご記入ありがとうございます……それでは最後に、こちらのカードに血を一滴垂らしてください」


 そう言って受付嬢さんはギルドカードと針を差し出した。


 アイリスは針を受け取り、指先に針を当て、ためらいなく押し込んだが、痛みも、傷も、血も……なかった。


「あぁ~、そうだった……」


 私はアークに噛みつかれても無傷だったことを思い出す。


 一応もう一度少し強めに押す。角度を変えて、力を込めて、爪の根元を突いてみても、やっぱり皮膚はかすり傷すらつかない。むしろ針が折れてしまった。


「えっと、あの……血が、出ないみたいです」


 受付嬢が目を瞬き、困惑の色を浮かべる。


「では、こちらの新品の針で……」


 針を交換して再挑戦。


 ――ダンッ


 思い切り振り下ろしたけど、結果は変わらない。私自身の力をもってしても針は折れ曲がってしまった。


「すみません、やっぱり刺さらないみたいです」

「ひっ!? あの、ちょっと待ってくださいね!!」


 受付嬢の声が悲鳴が聞こえたせいで近くにいた冒険者たちが振り向いた。


「……今、針が刺さらないとか言った?」

「見てたけど、思い切り針を手に振り下ろしてたぞ?」

「何それ、やっば!!」

「あれって特別製だったよな。それでも刺さらないとか体どうなってんだ!?」


 ざわつく声が微かに広がっていく。


 やっばい……目立っちゃった……。ちょっとやり過ぎたかも……。


「……た、体質か何かでしょうか? と、とにかく、体液であれば認証は可能ですので……たとえば唾液などでも」


 受付嬢さんがマニュアルみたいなのを調べた後で、頬を引くつかせながら私に向き直る。


 完全に怯えられちゃった……。


「そうなんですか?」


 とりあえず、知らんぷりをしてこのままやり過ごそう。


「精度が低く、登録エラーがおきやすいので推奨しておりませんが、登録される可能性はあります」

「分かりました。やってみますね」


 カードのくぼみを指先で持ち上げ、ぺろりと舐めると、カードが淡く輝いた。


「問題なかったみたいですね。それで登録は完了です。それでは、このまま従魔登録に移りますか?」

「よろしくお願いします」


 なんとか登録できて安心した。血がなければ登録できないと言われたら落ち込んでしばらく寝込んでしまったかも。


 アークの登録も無事に終わった後、ギルドの制度についての説明を聞く。


「依頼にはランク制限があります。特に、素性がハッキリしていない方は最低のGランクからのスタートになります」


 よくあるランク制で、上からS、A、B、C、D、E、F、Gという八段階。実績を積み重ねていくことで徐々にランクが上がっていく仕組みなんだって。


 Cランクに上がる時からより一層厳しく審査されるみたい。


 それと、素性や為人が分かっている人、もしくは保護者や保証人がいる人はFランクからスタートできる。でも、どっちもいない人はGランクからってことみたい。


 当然、私はGランク。


 実績も信頼もないGランクは、受けられる依頼が限られていて、何か悪さを働いたとしても影響がないような仕事ばかりなんだとか。


「ふふふっ、これで私も冒険者になったよ」


 説明を聞き終えた私は、受け取ったギルドカードをアークに見せびらかす。


 自慢せずにはいられない。


『ふんっ、ただのひよっこだろうが。その程度で嬉しそうにするな』

「いいじゃん。嬉しいんだもん」


 ずっと夢見ていたから、遂に冒険者になれたと思うと嬉しさもひとしお。


「それじゃあ、早速掲示板を見に行こ!!」


 私は初依頼を選ぶため、依頼書が張り出されている掲示板の前に向かった。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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