第134話 にんにん
冒険者ギルドに到着。
「いらっしゃいませ。どのようなご用件ですか?」
「クラーケン討伐の依頼を受けたいんですけど」
「は?」
掲示板からクラーケン討伐の依頼書を剥がして受付に持っていくと、受付嬢さんの目が点になる。
「クラーケンの討伐依頼を受けたいんです」
「あなたみたいなお嬢さんが?」
二度言うと、衝撃から戻ってきた受付嬢さんが訝しげな表情になった。
もうこういう対応は慣れてる。
「私はCランク冒険者のアイリスと言います。信じられないかもしれませんが、クラウンフォレストを討伐し、イードゥのギルドマスターと試合をして勝ちました。それなりに戦えるというお墨付きももらっています。もし必要なら誰かと戦っても構いませんが……」
ギルドカードを提示して実績を語る。
最悪信じてもらえずにまた誰かと戦うことになっても、この街に高ランク冒険者はいないらしいので、どうにかなるはず。
「えっと……私では判断できかねますので、ギルドマスターに確認いたしますね」
「よろしくお願いします」
今世の容姿は可愛いけど、なかなか話が進まないのが玉に瑕だよね。
いっそのこと全身甲冑でも着ようかな。もしくはどこかで昇格試験を受けるのも手かも。お米探しといい、やりたいことが次々湧いてきて本当に困る。
しばらく待っていると、ギルドマスターの執務室に通された。
「君がクラーケンを倒すと?」
ヴェルナスのギルドマスターは灰色の髪の五十代くらいの男の人。メガネを掛けていて、細身でいかに真面目そうな人物だ。
「はい。ガンドさんとも戦っていますし、戦闘力はあるつもりです」
「なるほど。確かにあいつの言う通り、一見したら強そうには見えないな」
「私を知っているんですか?」
「あぁ、ガンドから報告を受けてね。か弱そうに見えるがやたらと強い女の子がそっちに行ったから、何かあったら手伝って貰えって言われたよ」
二日くらいしか経っていないのに、すでに情報が届いているとは思わなかった。
もしかしたら、高速で情報を届ける手段があるのかもね。鳥型モンスターを使役してるとか。それならこんなに早く情報が伝わるの分かる。
「それじゃあ」
「あぁ、君にクラーケン討伐をお願いしてもいいかな?」
「任せてください」
私はあっさりとクラーケン討伐を任されることになった。
「それと、船はギルド側で用意するので、それで戦いに行ってくれるかな?」
「それは助――『我らだけで十分だ。他は足手まといだ』」
私が返事をしようとしたところでアークからの念話が邪魔をする。
『でも、船がないと沖に出られないよ?』
アークの言いたいことは分かる。動きが鈍い船と船員を守りながら戦うのは大変だと思う。
でも、クラーケンがいるのは港から少し離れた場所。そこまではなんらかの足がないと辿り着けない。
『問題あるまい。我がどうにかできる故な』
『え、ホント?』
『お前でもエアでもどうにかできるだろう』
『ピピィッ』
私? 泳ぐのも初めてなのに、どうにもできる気がしない。
『海に行けば分かる』
「いえ、船は大丈夫です。私たちだけで」
「大丈夫かい?」
「はい、どうにもならなかったら、船をお願いします」
「分かったよ。それじゃあ、お願いするね」
「分かりました」
私たちはクラーケン退治を引き受けた。
「それで? いったいどうするつもり?」
「こうするのだ」
私たちは再び砂浜にやってきていた。周りに誰もいないのでアークも普通に話している。
質問に答えるように、アークが海に向かって走り出した。
もしかして泳いでいくつもりなの?
「え……」
そう思ったのも束の間、アークが水の上を走り出した。
「足に魔力を集めれば海の上も走れるぞ」
「な、なるほど」
力技だった。
でも、海の上を走るのは興味がある。魔法は使えないけど、魔力を操るのは得意だ。魔力を足に集めて勢いをつけて走り出した。
――ドパァアアアアンッ
「しょっぱ!!」
でも、思い通りにはいかず、思い切りバランスを崩して海に頭からダイブしていた。
しかも初めて海の水を口に入れてしまった。思った以上に塩辛くてビックリした。
ぺっぺっと海水を吐き出す。
「力を入れ過ぎだ。ちゃんとバランスを取らないとそうなるぞ」
「最初からそう言ってよ!!」
「この程度できないほうが悪いのだ」
「私は海だって初めてなんだから優しくしてよね!!」
「知らん。できなければ、背中に乗ればいい」
アークは私に見せつけるように海の上を軽やかに走っている。
確かにアークの背中に乗れば解決する。でも、私は自分の足で走りたい。もう一度やり直す。一回目はちょっと力が入り過ぎた。
今度はちゃんとバランスが保てるように力で足を踏み出す。そして、その足が沈む前に逆の足を踏みだす。
魔力のおかげで反発力みたいなのが大きくなって、沈みにくくなっている。
「おおっ――あっ……」
――バシャアアアアンッ
そのおかげで、何歩か進んだが、再びバランスを崩して沈んだ。
それからもう何回か挑戦することで、ぎこちないけど海を上を走れるようになった。
しばらく練習していると少しずつ慣れてきて走り方も様になってくる。
「楽しいぃいいいいっ!!」
忍者にでもなったみたいだ。
海の上を走るのは地球では絶対体験できないこと。私は夢中になって走りまわった。
「ピピィ!!」
ちなみにエアは浮いていられるので、走る必要はなかった。
「いつまでやっている。さっさとクラーケンを倒しにいくぞ」
「分かったよ」
私たちはクラーケンが飛び出した辺りを目指して走り出した。
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