第132話 再現
イードゥを出発し、私はアークの背に乗って、ヴェルナスを目指していた。
「ピィ〜、ピィ〜」
エアも私のすぐ前に座り、鼻歌でも歌うように鳴いている。
「モンスターもいないし、盗賊もいないし、のんびりしてるね、ほんと」
これまでの国と違い、どこまでも続く平原は、見晴らしが良すぎてモンスターも盗賊も見当たらない。
旅をするには最高のロケーションだと思う。でも、全く緊張感がないというのも退屈。
モンスターや盗賊に脅かされている人たちにしてみれば、迷惑な話かもしれないけど。
「食料が少し遠くにいかないと手に入らないのは面倒だがな」
「アークならそのくらい簡単でしょ」
「まぁ、多少離れていても我にかかれば、大したことではないがな」
アークは少し不満そうだったけど、少しおだてただけですっかり上機嫌になる。ちょろい。
「そろそろご飯にしようか」
「うむ。約束を果たしてもらわねばならんからな」
「はいはい、分かってるよ」
クラウンフォレストと戦った時に、アークにも頑張ってもらったので、今日は私が料理を作る。
もちろん作るのはあの料理だ。
私はコンロをいくつも用意して巨大な鍋と平鍋を取り出して乗せた。
「エア、野菜こんな感じに切ってくれる?」
「ピピィ!!」
ジャガイモやニンジン、それに玉ねぎに似た野菜を見本で一つ切った後、残りはエアにカットしてもらう。
平鍋でミノスで狩り貯めしておいたシモフリバイソンはアークに解体とカットしてもらって準備は完了。
「二人ともありがとね」
「ふんっ、この程度で礼など言われる筋合いはないわ」
「ピピピピィ!!」
まずはみじん切りにした玉ねぎもどきたちをひたすら飴色になるまで焼きまくる。
寸胴みたいな鍋に移し、下味をつけた肉も焼きまくって別皿に移し、そこに大きめに切った野菜を投入して焼くを繰り返したあと、鍋にバシバシ投入していった。
「肉の焼ける音と匂いは悪くないな」
「そりゃあ、高級肉だからね」
その後、水とローリエっぽいハーブを入れて火にかけ、にんにくやショウガなどを加える。
沸騰するまでにスパイスの味を確認。ある程度匂いと味を覚えた。
ラードに小麦を溶かして焦がさないように炒め、肉と野菜の煮汁を加えてルーを作っていく。
そこで、スパイスを少しずつ入れて味を見ながら、日本のカレーに近づけるように他のスパイスも足していった。辺りにスパイスのいい匂いが漂っていく。
匂いを嗅ぐと涎が出てくるのは、パブロフの犬みたいだよね。
「これはクアリとかいう料理に似ているな」
「うん。アレを私好みにアレンジしたやつを作ってるの」
「なるほどな」
煮汁の減った複数の寸胴の火を止め、ルーを少量ずつ加え、混ぜ合わせていく。
そして、再び火にかけて、いい感じになるまで煮詰め、すりおろした果物や蜂蜜を加え、塩で味を整える。
「完成かな」
味を見てみると、初めて作ったにしては悪くない。確かにカレーと呼べる味わいになっていた。
まだまだ改善点はあるけど、何度も作っていくうちに良くなっていくと思う。
私は大量のパンにカレーをぶっかけて、二人の前に器を置いた。
「どうぞ、召し上がれ」
「うむっ」
「ピヨピヨ!!」
二人はカレーを頬張った。
「「!?」」
目を大きく見開いてお互いの顔を見合わせ、器に顔を突っ込んでがっつき始める。
多分、イードゥで食べたクアリがイマイチだったから、あまり期待していなかったんだろうね。美味しくてビックリしたみたい。口にあったようで何より。
私も自分の分を準備してパンにつけて食べる。
「うん、美味しい。でも……」
パンの味にも負けず、お互いの良さを引き出している。美味しい。美味しいのは間違いない。間違いないんだよ……。
「やっぱりご飯が……ご飯が欲しい!!」
それだけが残念だ。
元日本人としては、切実に、そう、切実にそう思わざるを得なかった。
「もっと寄越せ!!」
「ピピィ!!」
「ちょっと待ってて」
落ち込む私の気持ちなんて知らずに二人はおかわりを所望する。
すぐにおかわりをよそってあげた。
これは由々しき事態。おかずや料理が美味しくなればなるほど、お米が欲しい気持ちが膨れ上がっていく。我慢できそうにない。
ナミビアを見て回ったら、お米を探すのが最優先事項になりそう。そうしないと元日本人の私は、発狂して虎になっちゃう。
「おかわり!!」
「ピピィ!!」
「おかわり!!」
「ピピィ!!」
「おかわり!!」
「ピピィ!!」
二人が競うようにおかわりをしたせいで、気づけばあれだけ用意していたカレーが跡形もなく消え去った。
よっぽどカレーが気に入ったらしい。山ほどスパイスを買い込んだけど、この調子じゃすぐになくなっちゃうかもね。
まぁ、最悪アークに乗って買いに行けばいいか、本気を出せば、イードゥなんて一瞬だからね。
カレーを堪能した後、私たちは再びヴェルナスに向けて移動を再開。
「おっ、海が見えてきたぞ」
「あれが海……」
アークの快足もあり、一泊して次の日には海が見える場所までやってきていた。
近づいていくと、そのスケールの大きさを実感する。
水平線が全て海、海、海。
あまりの雄大さに私は言葉を失った。
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