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第130話 大きくなる火種(バーバラ視点)

「聖女様、ありがとうございました!!」

「聖女様、バンザーイ!!」

「聖女様、最高!!」


 人々が、崇敬を浮かべた顔でバーバラの乗る馬車を見送っている。


 自分の力の影響力を自覚したバーバラは、表向きは父の言いつけ通りに慰問を続けながら、病気や怪我をした人物を治療して回っていた。


 スキルを鍛えていなかったせいで、数は多くなかったが、治らないと諦められていた怪我や病気を治して回ることで、評判はうなぎのぼり。


 さらに、魔力不足ゆえに青い顔で本当に辛そうに治療場所から退出する姿が良かった。


 スキルの使用に代償があるにも関わらず、困った人を放っておけない優しさ。  

 例え自分が辛くても、その辛さを押して治してくださる自己犠牲精神。

 人を身分で差別しない平等な態度。


 など、まさに聖女と呼ぶにふさわしい人物として、その勇名が広がっていったのである。


 そのおかげで、バーバラ個人を支持する勢力がその大きさを増していった。


 勿論、バーバラ本人は、まったくそのような精神性を持ち合わせていない。彼女にとって民衆は、自分の言いなりになる駒でしかない。


 完全なる棚からぼたもちであった。


「はぁ、なぜこの崇高なる聖女である私が、金をたかる虫や、あんな下賤の平民の治療をしなければならないのかしら。全く汚らわしい。早く穢れを落としたいわ」

「おっしゃる通りかと」


 バーバラは身に着けてたグローブを外し、汚いものをつまむようにして床に落とす。それは民と握手をした際に見つけていたものだった。


 今回の旅に同行した付き人が、バーバラの言葉に頷く。


 彼女は元々バーバラ付きの侍女で、当主によって雇われていたが、すでに落ちぶれ寸前の当主に見切りをつけ、勢いのあるバーバラに乗り換えていた。


 治療された人から見れば、バーバラの行為がまさしく聖女のように見えただろう。バーバラの内面は関係ない。治してくれたという事実が大事なのである。


 神でもなく、貴族でもなく、分かりやすく自分たちに利益を齎してくれる存在として、聖女のバーバラが人気になるのも当然だと言える。


 バーバラも貴族の令嬢ではあるが、もはや関係ない。


「はぁ、民衆なんてちょっと治してやればこれなんだから。全く愚かね」


 バーバラは窓のカーテンの隙間から覗き、疑いなんて微塵もない顔で自分を崇める民衆の姿を見ながら、肩を竦める。


 その顔は、自分の思い通りに動く民衆たちを見下す嘲笑で歪んでいた。


「はい。おっしゃる通りでございます」

「次はどこかしら?」

「クラスミ商会でございます」

「分かったわ」


 バーバラは面倒だと思いながらも、各地で聖女として啓蒙活動も同時並行で行っていく、自分の勢力をより大きくするために。


「聖女様、ありがとうございました」

「いえいえ、ご無事で何よりですわ」


 そして、今日もまた一人堕ちていく。


「いやぁ、《《あなたは》》優秀な方のようだ。それより、お話は伺っておりますよ。ぜひ、我が商会も協力させていただきましょう」

「あらあら、なんのことでしょうか」

「最近、派手にやられてるではありませんか。そういうことでございましょう?」

「いったい何のことか分かりかねますわ」


 バーバラは口元を扇で隠し、素知らぬ顔をし続けた。


「ははははっ、そうですね。お互いに何も知らない。そういうことにしておきましょう」


 満足の行く回答が聞けたバーバラはニッコリと笑う。


 それから数週間、バーバラの勢力は雪だるま式に増えていった。


 まさに彼女の容姿と、聖女のごとき行いの賜物と言わざるを得ないだろう。




 

「そろそろ、お父様に手紙が届いたころかしら」


 バーバラは宿の豪華な一室で、風呂で侍女のマッサージを受けながら寛いでいた。


「そうでございますね。一週間以上経っているので、間違いなく届いているかと」

「お父様の喜ぶ顔が見れないのが残念だわぁ」

「さぞ喜んでいることでございましょう」


 バーバラが、全く残念じゃなさそうな、それどころか喜びを露わにするかのような様子で返事をすると、侍女も同調するように意地の悪い笑みを浮かべる。


 最近、各地からグランドリア家に次々と送られたクレームの数々は、バーバラが煽ったものだった。そのおかげで、いまや、グランドリア家は火の車だ。


 ただ、バーバラにはすでに個人的に支援しようという貴族の家がいくつもあり、慰問と治療の甲斐あって、グランドリア家がどうなろうと困らないだけの基盤ができつつあった。


 父から何度もとりなしてくれ、という手紙が来ていたが、すべて無視。そして、最後に送った手紙で、グランドリア家の家督を譲るように迫っていた。


 もし拒否するなら、民衆たちが暴動を起こすかもしれないと、直接的な表現は一切せずに、読んでも一見して分からない程に迂遠な表現で書かれている。


「さてさて、お父様はどうされるのかしら。本当に楽しみだわぁ」


 バーバラにとってもうグランドリア家など些末なこと。自分が当主になった方がより便利になる程度のものだ。別に取り潰しになったとしてもかまわない。


 バーバラはニヤニヤとした笑みを浮かべながらマッサージを受け続けた。

いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。


よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
バーバラさんも自爆して反省女(笑)になりそうです
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