第127話 最後の夜
私たちは今、寝間着に着替え、それぞれのベッドの上に腰を下ろしている。
宿を取った私たちはまず食事を食べた。
エリアがお昼にクアリを食べたの知っていたからか、カレーっぽい料理は出てこなかった。
スパイスをふんだんに使った料理や、港町が近いこともあり、いくつかの魚介料理が出てきた。
主に煮るか焼く料理が多かった。生で出された料理は一つもない。
時間を遅延する不思議なバッグがあるとは言え、ここから港町のヴェルナスまでもそれなりに距離はあるみたいなので、どうしても鮮度が落ちてしまうから仕方ないのかもね。
クアリはイマイチだったけど、他の料理はとても美味しかった。
食事を終えたら、しばらくお腹を休め、旅の途中で入ったみたいに、皆でお風呂へ。
『やめろぉおおおおっ!!』
『ピィピィ!!』
エリアが奮発したのか、今日の宿はもの凄くいい部屋でお風呂が大きかったので、アークも一緒に入った。
国境越えでしばらくお風呂に入ってなかったので念入りに洗う。おかげでピッカピカになったと思う。
「今回は本当に助かりましたわ」
「私からも感謝を」
「もうやめてよ」
「本当に感謝しているんですのよ?」
「私もたくさんお世話になったから十分だよ」
ようやく落ち着いたところで、エリアとカリヤさんが改めて私に頭を下げる。何度もお礼を言ってもらったし、お世話になったからさすがにもうお腹いっぱい。
確かにクラウンフォレストは客観的に見れば、ヤバい敵だったのかもしれない。
でも、私たちにしてみれば、手下のトレントまで根こそぎ倒すのが少し面倒だったものの、除草剤を振りかけただけで倒せてしまう程度の存在だ。
あの魔石が相当高値で売れるみたいだし、これ以上のお礼は不要。
「アイリスさんは旅をしてるんですのよね?」
無駄だと思ったのか、エリアは話題を変える。
「うん」
「どこか目的地はございますの?」
「うーん、これといって特には。旅そのものが目的みたいなものだからね。エリアは、なにか面白そうな場所知らない?」
私はずっと薬小屋に閉じ込められていたから外のことを全く知らない。でも、エリアは育った環境からいろんなことを見聞きしているはず。
私が知らない場所もたくさん知っているに違いない。これからの行き先を考えるためにも教えたもらおう。
「そうですわねぇ。まずマナビアから北西には魔術国家ベントーリオがありますわね。魔法の研究者たちが国を治めてるんですの。魔法や魔道具などの最新の研究が行われておりますわ」
「面白そうだね」
私は魔力を流し込んだり、魔力をかき混ぜたりはできるけど、魔法は使えない。だから、魔法を学ぶために行ってみるのも面白そうだ。
「あとは、ヴェルナスから出ている船で南の大陸に行くと、エルフやドワーフ、獣人などといった異種族の国がありますわね。エルフの国で有名なのは大樹都市ユグドラ。巨大な木の枝の上に街があるんですのよ。ドワーフの国なら全てが水晶のような透明な鉱石で造られた街クリスタリオ、武術が盛んな獣人の国では、年中戦いに明け暮れている街バトルピアが有名ですわ。強者同士の戦いが巨大なコロシアムで毎日のように催されているようですのよ」
「どれも気になるなぁ」
私が思った通り、エリアは物知りで沢山の名所を知っていた。
他にも出るわ出るわ。
空にある国や年中ハロウィンみたいな町とか、空中に川が浮かび、至る所に水球が浮かんでるような街とか、カジノだらけの街。
それから、一年中見た目が変わらない森や水が空の彼方まで舞い上がる山、まるで音楽を奏でているような音が鳴る渓谷、七色に光る湖などなど、本当に沢山の場所の名前が出てくる。
ちょっと覚えきれないのでメモしておいた。
どれもこれも実際に見てみたいところばかりで目移りしてしまう。でも、順当に行くなら、まず、次は魔術国家ベントーリオかなぁ。その後、海を渡って異種族の大陸に行こう。
こういう時、転移魔法とか空を飛べたら便利だと思うけど、旅そのものが好きだから、一回行った場所や通った道じゃない限りは歩いていきたいよね。
「エリアは商会継ぐんだよね?」
私の話をしたのでエリアのことを聞く。
「えぇ、そうなると思いますわ。お兄様はどこをほっつき歩いているか分かりませんし、お姉さまは嫁いでしまわれましたから」
「エリアはそれでいいの?」
「そうですわね。他の女性のように結婚して家のことをしたり、アイリスさんのように旅をしたりする生活にも憧れますが、商品を買ってくださったお客様の笑顔を見るのが好きですから、この仕事が一番合っていると思いますわ」
「そうなんだ。それじゃ、エリアの目標は?」
「そうですわね。グレオス商会を継いだ暁には大陸中に名の轟く商会を目指したいですわね」
「いいね」
私が世界中を見て回ることが目的のように、エリアにもどでかい夢がある。
陰ながら応援したいと思った。
「それはそうと、アイリスさんはどなたか、良い人はいらっしゃらんですの?」
「うーん、いないなぁ。エリアは?」
私は前世も今世もそういうのに関りがなかったせいで、そういう感情が完全に死んでる。
この世界で会った男性の中で一番イケメンなのはヒイロさんだけど、ちょっと眩しすぎるというか、側にいると落ち着かない。
他の人たちにもそういう感情を抱いたことがない。
もし、仮に一緒にいるのなら、気持ちが落ち着く人が良いと思う。
「そうですわねぇ、商売柄男性を見る目が厳しくなり、なかなか。カリヤはどなたいらっしゃいませんの?」
「私はですか? そうですね――」
それからカリヤさん含め、自分たちの理想の男性像について話したり、逆にこういう男性は嫌だとか、こういうシチュエーションで告白されたいとか、そんな話で盛り上がった。
思えば、こうやって恋バナをするのも初めて。やっぱり異世界でも女の子は恋バナが好きなんだね。
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