第121話 いったいどうしてこうなった?
「城壁が低い?」
見えてきたのは、これまで見てきた街と違い、あまり頑丈そうじゃない城壁に囲まれた街だった。
モンスターにあっさり突破されてしまいそうだけど、大丈夫なのかな。
「マナビアは平地が多くてモンスターが棲む場所が少なく、弱いモンスターばかりなので、強固な城壁は必要ないんですのよ。もちろん海は別ですが」
「へぇ~、そうなんだ」
私の心配を払しょくするように、エリアが説明してくれる。
場所が変わればモンスターも変わる。当然といえば、当然かな。
城門を潜り抜けると、街並みもこれまでの街とは違っていた。
淡い黄土色や灰色の石積みの壁に、赤茶色の瓦屋根の家が並び、石畳みや固めた土で舗装されている。交易が盛んな国だから道幅も広い。
YoTTubeで見た南欧や中東の内陸部の街の雰囲気に近いように感じる。
街中は綺麗だし、人たちは薄着の人が多くて笑顔が多い。それに、女性や小さな子供も行き交っていて、今まで見てきた街の中で一番治安も良さそう。
マナビアは思った以上に平和な国なのかもしれない。
『ここは沢山の匂いが漂っているな?』
街中を進んでいくと、アークがヒクヒクと鼻を鳴らす。
『そうなの?』
『うむ。ピリピリとした匂いが漂っている』
思い切り空気を吸い込んでみるけど、私には分からない。
『エアは分かる?』
『ピピィ?』
エアも良く分からないみたい。
アークは嗅覚が鋭い。だから、何か感じるものがあるんだろうね。
「アークがピリピリした匂いがするって言ってるんだけど、心当たりある?」
「ここはマナビアの三つの独立都市の一つ、イードゥという街ですわ。この辺りでは香辛料の栽培が盛んで、ここには様々の香辛料が集まってきておりますの。その匂いじゃありませんこと?」
「香辛料!!」
エリアの答えを聞いて私のテンションが上がる。
香辛料がそんなに沢山集まってるなら、アークがその匂いに気づくのも分かる。
「興味があるんですか?」
「うん」
バンドールにもモスマンやミノスにも、香辛料はある。でも、私が食べたいと思っている料理を作るための香辛料は売ってなかった。
もしかしたらここでなら見つかるかもしれない。
「それでしたら、私が信頼できるお店をご紹介しますわ」
「いいの?」
「構いませんわ」
「ありがとう」
私はエリアの言葉に甘えて、香辛料のお店に連れていってもらうことに。
これで俄然あの料理を作れる可能性が高まった。
その前にまず、冒険者ギルドで依頼達成の手続きを済ませる。これでエリアの護衛依頼は完了だ。
初めての護衛依頼だったけど、長かったような短かったような。初めての友達ができたり、クラウンフォレストに襲われたり、色々あった。
思い返すと、感慨深い気持ちになる。
クラウンフォレストの件もあり、報酬を上乗せしてもらえた。懐が温かくなったけど、そのまま解放とはいかず、ギルドマスターの部屋に呼び出されることに。
クラウンフォレストは国の一大事。詳細をきちんと報告しなきゃいけないみたい。
「俺はこの街のギルドマスターのガンドだ。よろしくな。それで、国境にクラウンフォレストが出たと聞いたが?」
ガンドさんは、ムキムキで、スキンヘッドに金色の口ひげを生やした、碧眼のおじさん。漫画に出てくるキャラクターにいそう。
「はい。実は――」
代表してヒイロさんが、クラウンフォレストと遭遇し、倒してイードゥにやってくるまでの経緯を説明していく。
「まさかこんな嬢ちゃんたちがな。俄かには信じがたいが――」
ギルドマスターが私たちを値踏みするような目で見つめてきた。
もう慣れたので気にならない。
「見かけで判断するな、というのは駆け出しの頃に口を酸っぱくして教わることでは?」
「まぁな。ただ、クラウンフォレストと言えば、国を挙げて討伐するような化け物だ。嬢ちゃんがCランクの実力があるのは認めるが、さすがにクラウンフォレストを倒せるほどか、というと、それはちょっとな。話を聞いただけでは判断できん」
ガンドさんの言う通り、私みたいな小娘が国家規模の災害を起こすモンスターを倒したと言われても、誰も信じられないのは当然の話。
私がガンドさんの立場でも信じられないもん。
「俺たちの言葉が信用できないと?」
「そういうわけじゃねぇが、これが伝聞で済ませられることじゃねぇからな」
Bランク冒険者は試験を受けてようやくなることができる高位冒険者。
その言葉には一定の信憑性がある。でも、クラウンフォレストの件は、ガンドさんの言う通り、鵜呑みにすることはできないと思う。
鵜呑みにするようなギルドマスターは逆に信用できない。
「まぁ、それもそうですね。それではどうするおつもりですか?」
「俺がじきじきに相手するしかねぇだろうな」
「そうなりますよね……」
なんでもガンドさんはなんと『鉄壁』と呼ばれた元S冒険者で、引退を機にギルドマスターになったんだとか。
その戦闘力は引退した今でも健在で、現役の時に近い力があるらしい。だから、ガンド自身が実力が確かめれば、何よりの証拠になる、ということみたい。
あれよあれよという間に話が進み、私はガンドさんと模擬戦をすることになった。
いったいどうしてこうなった?
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