第119話 決定打
「わおぉおおおおおんっ!!」
アークが遠吠えをすると、クラウンフォレストの幹を全部吸い込むほどの、巨大な雷がクラウンフォレストの頭上から降り注いだ。
枝葉が消し飛んで、幹は黒焦げになる。
「やりすぎじゃない?」
『あれだけの再生能力があるのだ。問題あるまい』
死んでしまわないか心配だったけど、それは杞憂だった。
今までと同じように、炭化した表皮がボロボロと崩れ落ちて新しい幹が姿を現し、枝葉もすぐに生え変わる。
すぐに元気になって今まで以上に激しい攻撃を仕掛けてきた。アークは器用に根っこを躱して足場にしながら空中を駆け回る。
うーん、どうにかしてトレントごと倒す方法はないのかな……。
ふと心配になって冒険者たちの様子を見る。エアの援護もあって、トレントたちを倒しまくっているみたいだ。
「くそ、いったいこれはいつまで続くんだ!?」
「疲れないけど、さすがにこれじゃあ……」
「あと何匹倒せばいいの?」
「もう少し頑張るんだ!! アイリスさんがどうにかしてくれる」
ただ、ヒイロさんたちはまだ元気そうだけど、いつまでも続く増援に他の冒険者たちの心がまいってきている。
これは早くどうにかしないと。
いよいよヤバそうなので、迎撃を止めて全体を観察する。
――パァンッ
――パァンッ
――パァンッ
私に当たった根は勝手に破壊されていく。
『お前の体は本当にどうなってるんだ?』
『ちょっと防御力が高いだけだよ』
『そんなわけあるか』
アークと軽口を叩きつつ、戦場を見回していると、あることに気づく。
「ん? あれは」
『どうした?』
「いや、新しいトレントが生まれる瞬間を見たんだけど、それが気になって」
思えば、トレントたちがどうやって増えているのか全然知らなかった。
よく見ると、木々がトレントに変化して動きだす個体と、クラウンフォレストの根っこがトレントへと姿を変えてる個体がいるのが見える。
木々をトレントに変えるだけじゃなくて、クラウンフォレスト自体が新しい個体を生み出していたんだね。
道理で森の木々がなかなか減らないなと思ってたんだよね。
それなら、もしかして……。
「ねぇ」
『なんだ?』
「クラウンフォレストってどうやってトレントを生み出しているの?」
『奴の木の根を木々に繋げることで変化させたり、自分の体の一部をトレントに変化させたりして数を増やす』
やっぱり……。
「それってつまり、トレントたちはクラウンフォレストと繋がってるってこと?」
『支配領域にいるトレントは全て奴と繋がっていると見ていいだろう』
私の考えが正しければ、トレントごと倒す方法が分かったかもしれない。
「それならなんとかなるかも。私をクラウンフォレストの口の中に投げ込んで」
『正気か!?』
「それが一番早そうだからね」
『死ぬかもしれんぞ?』
「心配してくれるの?」
『ふんっ、心配などしておらん』
「私は死なないから大丈夫だよ」
なんてったって、女神様から直々に貰った超健康があるからね!!
『……はぁっ、分かった。何があっても知らんからな』
「うん、よろしくね」
アークは一度地面に降りると、まるでハンマー投げみたいにして、器用に私をクラウンフォレストの方に放り投げた。
クラウンフォレストの口に向かって一直線に飛んでいく。
途中根っこや枝葉が襲い掛かってくるけど、適当に払うだけで消滅していくので私の道を阻めない。
そのままクラウンフォレストの口の中に飛び込んだ。
「何も見えないね」
クラウンフォレストの中は真っ暗で何も見えない。ミントみたいな強い匂いが鼻につく。
でも、体内に入れればこっちのもの。後はカバンからある物を取り出すだけ。
――ズンッ
私を咀嚼しようとしているのか、急に上から重みが加わった。
でも、そのくらいで私の動きは止まらない。
――シュルシュルシュルッ
行動を阻むように私に何かが絡みついた。
でも、そのくらいで私の動きは阻害できない。
「テーレッテレー!! 除草剤~」
私に巻き付いた何かを引きちぎりながら、どこかの未来のロボットみたいな声真似をして取り出したのは除草剤。
実は、護衛依頼が始まるまでに時間を持て余していた時に作っていた。まさかこんなところで役立つとは思わなかった。
――キュポンッ
栓を開けて辺りに薬をまき散らす。
根っこで他のトレントたちと繋がっているのなら、クラウンフォレストの中で除草剤を使えば、トレントたちまでいきわたるはず。
上手くいけば一網打尽にできる。
「おわわわ!?」
その効果は劇的だった。
『ギャアアアアアアアアアアッ!!』
クラウンフォレストが大暴れ。
私はバランスを取りながらありったけの除草剤をまき散らした。
しばらくすると、クラウンフォレストが動きを止め、外から光が差し込んで視界が開ける。
――ゴゴゴゴゴゴゴッ!!
地鳴りのような音が鳴り、クラウンフォレストが炭のようになって崩れ落ちた。
「おわっ!?」
当然だけど、足場が消える。
私は地面に向かって落下していく。もうこれで落ちるのは三度目かな?
二度あることは三度ある。
『ふん、全く世話が焼ける』
「ありがと」
でも、落下が急に止まる。
三度目は落ちる前にアークに助けられていた。
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