第117話 蹂躙
ポーションを飲ませて移動を再開。案の定、しばらく歩いたところでまたトレントの群れに襲われることになった。
「うぉおおおっ!! 邪魔だぁああああ!!」
「死に晒せぇええええっ!!」
「駆逐してやる!!」
「ひぃいいいいはぁああああっ!!」
でも、冒険者たちは、トレントへと果敢に挑んでいく。動きが良くなり、頭がスッキリとしたおかげで、木の根の奇襲攻撃をものとものしない。
「アイアンシールド!!」
「ディバインソード!!」
「ライトニング!!」
「マジックアロー!!」
「クリティカルエッジ!!」
「フリージング!!」
さらに、マナポーションで魔力が回復したことで、ヒイロさんたち光輝の剣を筆頭に、技や魔法を連発。次々とトレントたちを倒していった。
「皆張り切ってるね」
薬がちゃんと効果を発揮してる。これならトレントにも負けなさそう。
「いやいやいや、それだけじゃすみませんことよ!! あなたはヒイロさんたちに何を飲ませたんですの!?」
馬車の窓から身を乗り出し、エリアが血相を変えて私を問い詰める。
私はエリアを馬車の中に押し戻しながら答えた。
「あぶないから止めた方がいいよ。飲んでもらったのは回復ポーションとスタミナポーションとスッキリポーションとマナポーションだよ?」
「ポーションであんな効果が出るはずないでしょう!?」
「ん? あれが普通だよね?」
「あんなに劇的な効果のあるポーションは初めて見ましたわよ!!」
「そうなんだ……」
エリアの反応を見る限り、私のポーションは他の人とは違うみたい。そういえば、バンドールの薬屋のお爺さんにもそんなことを言われた気がする。
あの時は冗談だと思っていたけど、もしかして本当のことだったのかな?
「今なら何発でも技が打てるぞ!!」
「魔法を使っても使っても魔力が減らないわ!!」
「全部狙い通りに当たるわ!!」
「二十四時間、戦えます!!」
気づけば、冒険者たちは圧倒的な数の差を跳ね返し、トレントを駆逐していた。
「いやぁ、アイリスさんからもらったポーションは凄いね!!」
ヒイロさんが戻ってくるなり、目を輝かせながら言う。
後ろの冒険者たちも同意するようにぶんぶんと頭を縦に振っている。まるでヘビィメタルのヘドバンみたいで少し怖くなった。
「お役に立てたみたいで良かったです」
「お役に立てたなんてもんじゃないよ!! あの薬のおかげでやっと俺たちも護衛らしい仕事ができたんだからね」
ポーションのせいか、ヒイロさんのカッコよさにも磨きがかかっている気がする。にこりと笑うと、ヒイロさんの周りだけ輝き、白い歯がキラリと光った。
エリアもヒイロさんたちもちょっと大袈裟な気がするけど、作った薬を褒めてもらえるのは嬉しい。
「このまま進んで問題なさそうですの?」
「うん、今なら何体トレントが来ても返り討ちにしてみせるよ!!」
エリアの言葉にヒイロたち護衛冒険者たちはしっかりと頷いた。
その言葉通り、何度もトレントの群れに遭遇することになったけど、全部冒険者たちだけで対処できている。
おかげで、私たちはその光景を後ろで見ているだけの置物と化していた。
『戦わなくてもいいのであれば、それが一番いいであろう』
そのことをアークに言ったら、こんな風に返された。
『それはそうだけど、自分だけ何もしないのは居心地が悪いよ』
『それがお前の役目だ。それに、お前はもうやることはやった。ドンと構えていればいいではないか』
『そうできるほど私は図太くないの!!』
確かに私はポーションを提供したし、エリアの護衛かもしれない。でも、ただ見ているだけなのは心苦しい。
「それにしても、アイリスさんのお薬の効果が切れませんわね」
アークと話していると、エリアがポツリと呟いた。
「丸一日は効果があると思うよ?」
「丸一日!?」
「うん」
家で実験した時は、少なくともそのくらいの持続時間があることは確認済み。
「はぁ……スタミナポーションもスッキリポーションも、普通は二、三時間程度で効果が切れるものですわ」
「そうなの?」
回復ポーションと同じように、他の人の薬を見たことがないから知らなかった。
「はい……これは口留めしたほうが良さそうですわね」
「ん? なんだって?」
「いえ、何でもありませんわ。そろそろ決着がつきそうですわね。このまま抜けられるということはありませんの? 本当にトレントの上位種がくるんですの?」
エリアの言う通り、もう何匹のトレントを倒したか分からないのに、上位種が出てくる気配が一向にない。
『来るだろうな』
「アークが来るって」
でも、アークは来ると確信してるみたい。
「あの状態の皆さんなら撃退してしまいそうな気もしますが……」
「そうだね」
ただ、エリアの言う通り、ヒイロさんたちを見ていると負ける姿が想像できない。
――ゴゴゴゴゴゴゴッ
そう思った矢先、地鳴りとともに地面が大きく揺れた。私たちはエリアを守るように周りを警戒する。
『うわぁああああああああああああっ!?』
次の瞬間、地面が割れて、中から巨大な何かが姿を現す。
冒険者たちは突き上げられて舞い上がった。
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