第112話 傾国
「はぁ……はぁ……いったいどういう体力してますの……」
「はぁ……はぁ……まさか、一度も当てられないなんて……」
エリアとカリヤさんが、ネグリジェをはだけさせて私の前に横たわる。
顔が上気していて、肌に浮かぶ汗と張り付くネグリジェがすごくエッチだ。
結果は当然ながら私の圧勝。掠りもさせなかったよ、ぶい。
こうやって体を動かして誰かと遊ぶことなんてなかったから、夢中になってちょっと調子に乗りすぎた。
「まだまだ甘いね。ほらっ、これ飲んで」
「ありがとうございますわ」
「ありがとうございます」
反省しながら水を渡すと、二人は一気に飲み干す。
「はぁ、本当に凄いんですのね。お見それしましたわ」
「その華奢な体のどこに、あんな素早い動きをする力が秘められてるんでしょうか」
「よく言われるよ」
見た目が弱そうなのは、自分ではどうしようもない。
筋トレして筋肉つけたり、女騎士団長みたいないかつい鎧でも着てれば、少しくらいは強そうに見えるかな?
「せっかくお風呂に入ったのに汗だくになってしまいましたわね。もう一度入りましょうか」
「そうだね」
落ち着いたところで、私たちはもう一度お風呂を堪能した。
明日の出発は早朝。早めに到着したけど、そろそろ寝ないと二人は明日に響くので、急いで髪を乾かす。
「あら? いい匂いですわね、これはお香ですの?」
「うん、二人には無理させちゃったから、少しでも疲れがとれるように焚いたの」
二人がベッドに入る中、私は罪滅ぼしもかねて、リラックス効果や疲労回復効果のあるお香を焚いた。
煙もそんなに出ないし、香りも仄かに香る程度だから敏感な人も気にならないと思う。
これは私の自作。薬草などの植物には香りの良いものが結構ある。薬に使えなかったり、質が悪くなっていたりして省いた部分を利用して作った。
一人で薬を作っていた頃、心休まるお香の匂いが、心の支えになっていたのを思い出して作ったんだよね。
「本当に……いい匂い……ですわ……」
「疲れが……消える……」
「二人とも疲れていたみたいだね」
お香の匂いを嗅いでほどなくして、二人は寝息を立て始めた。
結構気を張っていて疲れたのかも。いざとなったらアークが起きるだろうし、私も目覚めがいいから気にせずに眠ることにした。
翌日。
「おはようございますわ!!」
エリアの張りのある声が、テント内に響き渡った。
「おはよう。調子はどう?」
「頗る快調ですわ!! 肩こりが悩みだったのですが、乗っていた石がなくなったかのように軽いんですの!! アイリスさんのお香のおかげですわね!!」
エリアの笑顔に元気が漲っている。後ろに立っているカリヤさんも肌つやが良い。
「少しでも効いたなら良かったよ」
「ありがとうございますわ!! もうすぐ朝食の時間になりますので、身支度を済ませましょう!!」
「分かった」
私は旅装に着替え、防具を身につけてあっという間に準備完了。
エリアの方を見ると、着替えた後でカリヤさんに化粧をしてもらっていた。
「エリアはお化粧してるんだ」
後ろから声をかけると、エリアは視線だけ私の方を向けて返事をする。
「えぇ、職業柄たくさんの人と会いますから。お化粧は必須ですわ」
「なるほどね」
エリアは大きな商会の娘。家族が貴族や有力者のパーティに連れていかれることもあるはず。確かにそういうところに出向くなら化粧はしていかないといけないよね。
「アイリスさんはお化粧に興味ありますの?」
「うん、したことないから少し興味あるよ」
前世でも今世でも化粧をするという習慣がなかったから、今まで気にも留めなかった。でも、見てると、やってみたいなという気持ちはある。
「そうですの。それでしたら、私が終わった後にカリヤにやってもらいます?」
「いいの?」
私はエリアの化粧をしているカリヤさんに視線を送る。
「私は構いません」
「それならお願いしちゃおっかなぁ」
「お任せください」
私はお化粧をしてもらえることになった。
「カリヤさん、お願いします」
「かしこまりました」
エリアが終わったあと、備え付けの化粧台の前に座り、お化粧をしてもらい、髪の毛もいつもとは違う感じにまとめてもらう。
「完成いたしました」
ナチュラルメイクをした私が完成した。いつもの私とは全然違って見える。これがお化粧の力なんだ。凄いなぁ。
「エリア、どう……かな?」
「殿方には見せられませんわ!!」
「え、私がブスすぎるってこと?」
川や鏡に写った私は自分で言うのもなんだけど、かなりの美少女だった。この世界って、もしかして美醜の基準も違うのかな。
「違いますわ。可愛すぎて外に出せませんの」
「今の状態のアイリス様を外に出したら、非常に危険です」
エリアは困惑しつつ、カリヤさんは真剣な表情で言った。
「どういうこと?」
私には意味が理解できない。可愛く仕上がったのならいいんじゃないの?
「男たちがアイリスさんに魅力されて仕事にならなくなってしまいますわ」
「そんな大袈裟な……」
確かに良い感じに仕上がってるとは思うけど、そんなことになるはずがない。
「大袈裟でもなんでもありませんことよ!! 今のアイリスさんの姿にはそれだけの力がありますの。アイリスさんはもっと自分の容姿に自覚を持つべきですわ」
「わ、分かったよ。でも、それじゃあ、どうすればいいの?」
ズズ、ズイーッと私に顔を近づけてくるエリアに狼狽えながら尋ねた。
「一度お化粧を落として、整えるだけにしましょう」
「別にそこまでしなくても……」
「「ダメです(わ)」」
有無を言わさず、刈谷さんの手で本当に最低限のお化粧だけに直されることに。
二人にはどうしても必要な時以外、決してお化粧はしないようにきつく言われた。
うーん、流石にそこまでじゃないと思うんだけど……。
私は納得できないまま朝食へと向かった。
いつもお読みいただき、誠にありがとうございます。
「面白い」
「続きが気になる」
と思っていただけたら、ブクマや★評価をつけていただけますと作者が泣いて喜びます。
よろしければご協力いただければ幸いです。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。