第110話 格差社会
「アイリスさんは何も出さなくてもよろしくてよ」
マジックテントを出そうとすると、エリアに止められた。
「どうして?」
「私にはこれがありますの」
エリアが何かを放り投げると、私の持っているものよりも大きなテントが出現。入り口は立ったまま入れるほどの高さがあった。
「マジックテント?」
「はい。でも、アイリスさんがお持ちの物とはちょっと違うと思いますわよ? 入ってみてくださいな」
「いいけど……」
自信ありげなエリアに促され、テントの中に足を踏み入れる。
「うわぁ……広い」
YoTTubeで見たグランピングのドームテントみたいな空間が広がっていた。
四人分のベッドが二列に並んでいて、宿と比べても遜色ない。
「でしょう。これなら全員で寝られますわ」
「確かに」
「それに、お風呂とトイレもついておりますの」
「え? それ、ほんと? 私も欲しいなぁ」
これがあれば、アークとも一緒に寝れるし、テントから出てお風呂とトイレに行く必要もなくなる。
「さすがにこれは差し上げられませんわ。これほど高機能なマジックテントとなると、オークションでしか手に入らないんですの。それから、世の中にはこのテントよりもさらに高機能なマジックハウスなんてものも存在しますのよ。キッチンもついていてもはや家と言っても過言ではありませんわ」
「そんなものまであるんだ」
私が前から欲しいと思っていたアイテムの一つだ。それに、オークションと言えば、ファンタジーの定番イベント。ぜひ参加してみたい。
でも、そうなるとお金が必要になる。今まで使い道がなくて寄付してきたから、少し心許ない。オークションのためにがっつり稼いでもいいかも。
「それでは、まずお風呂に入りましょうか」
ほとんど何もしなかったけど、今日は天気が良かったから汗だく。早く流したい。
でも、その前に気になることがある。
「護衛はいいの?」
私は一応エリアの護衛だ。それなのに、一緒にお風呂になんて入っていいのかな。
「ここは、目と鼻の先に兵士たちの目がありますし、護衛はヒイロさんたちがいます。基本的にアイリスさんは予備戦力扱いなので構いませんよ」
それなら、とお言葉に甘えさせてもらうことにする。
「それじゃあ、後は入る順番だね」
「必要ございませんわ。四人で入れるくらい広いんですのよ」
てっきり宿の個人用の大きさかと思っていた。
『アーク、お風呂は?』
『不要だ』
『分かった』
念のため、アークに確認すると予想通りの答えが返ってくる。
アークはお風呂嫌いだし、さすがにアークまで一緒に入るには狭いと思うから今回はちょうどいい。まぁ、次の宿に着いたら洗ってあげよう。
『!?』
口端を吊り上げると、アークは私に背中を向けて体をぶるっと震わせた。
「エアは一緒に入ろうね」
「ピピッ」
エアはお風呂が好きだし、小さいので一緒に入っても大丈夫だと思う。
思えば、同年代の誰かと一緒にお風呂に入るという経験は初めて。前世でも修学旅行なんていけなかったし、部活もできなかったから合宿だってしたことない。
アニメを見てずっと憧れていた。
「これはお風呂回ってやつでは?」
「お風呂かい?」
「いや、なんでもないよ。早く入ろ」
思いがけずここで実現してしまうみたい。
楽しみ!!
「わ、分かりましたから押さないでくださいまし!!」
私はお風呂だと言われた扉の方にエリアを押していく。
脱衣所もあって至れり尽くせりって感じ。一刻も早く欲しいアイテムだ。
「でっか」
「どこ見て言ってるんですの!?」
服を脱いだエリアとカリヤさんの体をまじまじと見てしまう。
エリアは肉付きが良くて、丸みを帯びた女性的なラインが美しい体。豊かな胸はまるでメロンのような存在感を放っている。まさにお胸様と呼ぶにふさわしい。
一方で、終始澄ました態度のカリヤさんも、引き締まった体にハリのある形のいい立派なものをお持ちだ。思わず目が吸い寄せられてしまう。
なむ。
思わず、手を合わせて拝んでしまった。
「何を拝んでいますの、何を!! あなたにもついていますでしょう?」
エリアが腕で胸を隠す。腕から溢れさせて逆にその大きさを強調していた。
「いや、私とはレベルが違うし、余りに立派だから……」
どうにも前世の体のぺったんなセルフイメージがついているせいか、今世の体は自分の体じゃないみたいな感じなんだよね。
それなりの大きさはあるけど、二人と比べると雲泥の差だ。
「いいから、さっさと入りますわよ!!」
「はーい」
恥ずかしそうに先に浴場に行くエリアの後を追いかけた。
四人が入るには十分な広さの湯船と、四人同時に体を洗える洗い場がある。
「私が背中を流してあげるね」
「仕方ありませんわね。私もして差し上げますわ」
「お嬢様、私にお任せを」
エア、私、エリア、カリヤさんで並んで、背中の流し合いっこをする。
これも前世でできなかったからやってみたかったことの一つ。人に体を洗ってもらうのは前世で慣れているけど、それとはまた違った感覚。なんだか心が温かくなる。
体を綺麗にした私たちは、お風呂に浸かった。
「「「あぁ~」」」
「ピピ~」
湯船に浸かった時に声が出るのは万国共通みたい。クールなカリヤさんさえ声を漏らしている。やっぱり、お風呂は気持ちがいい。
今日一日の精神的な疲れがお湯の中に溶けだしていくよう。
「!?」
そして、しばらく気持ち良さを堪能した後に目を開くと、信じられない光景を目撃した。私の視界にプカプカと浮かぶ四つの白い島。
それは紛れもないエリアとカリヤさんの母性の象徴だった。
浮くという話は本当だったみたい。一方で、自分の胸を見下ろす。
「これが格差社会か……」
私の胸は巨乳というほど大きくないので浮くほどじゃなかった。
私はその差を目撃して愕然とした。
「なんですの?」
「なんでもないよ。わがままボディはこうしてやる!!」
「ちょ、ちょっとやめてくださいな!!」
私はスススーッとエリアの背後に回り込み、その二つのメロンを揉みしだく。
まるでマシュマロのように柔らかい。
「どうやったらこんなに大きくなるの!!」
「知りませんわよ!! お母様も大きいですし、家系では?」
「ズルい!!」
遺伝と言われてしまえば何も言えない。
「やめてくださいまし!!」
「えぇ~、いいじゃん、減るもんじゃないし」
「もうっ!! 私もこうしてやりますわ!!」
「きゃーっ」
「お嬢様、やめてくださいませ!!」
私たちは三人でじゃれあいながらお風呂を楽しんだ。
「ピピーッ!!」
エアは、私たちを気にすることなく、楽しそうに湯船の中を泳ぎまわっていた。
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