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第105話 薬師の行方(実家:追手視点)

もっと前に入れる予定だったのですが、忘れてました(笑)

許してください!!

 時はアイリスがモスマンに着いた頃に遡る。


「それでは行って参ります」

「早急に探してくるのだぞ」

「分かっております」


 一人の男が早馬でグランドリア家を出発し、何頭もの馬を乗り換え、噂の薬師が現れたという西を目指して走っていた。


「凄い薬師の噂を知らないか?」

「あぁ、それならもっと西の街の話さ」

「そうか。礼を言う」


 馬を乗り換える際に薬師の噂話を聞いて、場所を絞り込みながら進む。


 最初は曖昧だった噂も徐々に具体的になり、聖女と呼ばれている薬師が西の国境前の街バンドールにいると分かった。


 そして、馬車なら二週間はかかる距離を昼夜問わずに走り続けることで、二日でバンドールへ辿り着く。


 これには男の疲労を軽減するスキルも関係していた。その力があるからこそ、ここまで短期間での移動が実現可能なのだ。彼が薬師探しに選ばれた理由でもある。


「はぁ……はぁ……ここがバンドールか……」


 無茶な移動を行なったため、疲労困憊である。しかし、休んでいる場合ではない。


 すぐに聖女と呼ばれる薬師を探し出し、グランドリア家に連れて帰らなければならない。


「建築現場では世話になったぜ」

「よく街の外の森に行ってるのを見かけたわ」

「聖女様? そういえば最近見ないねぇ……」


 話を聞くと、さすがに情報の噂の発生地点だけあってよりハッキリとした情報が集まっていく。


 ただ、情報を集めていくと、男が信じられない内容になってきた。


「白銀の髪の毛にエメラルドのような緑色の瞳。そして、アイリスという名前……まさかそんなことはありえない……あの子はこの前処刑されて死んだはずだ……」


 なぜなら、聞けば聞くほど、アイリス・グランドリアの容姿によく似ていたからだ。


 この男はグランドリア家に仕える家系の人間のため、アイリスは薬の調薬をやらされていたことは知っていた。


 しかし、アイリスはすでに処刑されていて、この世にはいない。何かの間違いだと頭を振って薬師の情報をさらに集めていく。


「とんでもなく良い子でねぇ、報酬の少ない引っ越しの依頼を受けてくれたんだ」

「うちの草むしりもしてくれたよぉ」

「料理を手伝ってくれてねぇ。少し手ほどきしてやったもんさ」


 アイリスは、実家では家族になじられ、薄汚れ、幽鬼のように光のない瞳でただ薬を調合し続けていた。


 その姿とは似ても似つかない。やはり他人の空似だろうと、頭から死んだはずの少女のことを追い出した。


「あんたか? 薬の聖女について聞きまわっている怪しい奴ってのは」


 しかし、急ぐあまり派手に情報を集めていたら、強面の老人を筆頭にした集団に取り囲まれてしまう。


「いえ、私は怪しい者では……」

「では、なぜ探しているんだ?」

「グランドリア家に招き、薬を作っていただけないかと思い、探していたのです」


 男は命の危険を感じながらも後ろ盾を仄めかしつつ老人の質問に答えた。


「なるほどな。あのグランドリア家か」

「そうです」


 老人は顎を擦りながら男を値踏みするように見つめている。


 グランドリア家といえば、近年薬によって力を伸ばしていた家だ。老人たちも当然知っているようだ。


 名前が効いたのか、老人が口を開く。


「残念だったな。聖女様はすでにここにはおらん」

「それでは、いったいどこへ……」

「国を出ると言っておった。随分前のことだからすでに別の国におるじゃろう」


 しかし、もたらされた情報は男を落胆させた。


 隣国ではグランドリア家の力も及ばない。それに、国境を越えるのには数日かかる上に、さらにその後どこに行ったのか探さなければならない。


 到底期限までにグランドリア家に連れて帰ることは不可能だ。薬師の数を集めることでワイズマン商会の納品はできるかもしれないが、その後もずっと同じペースで造らせ続けるのは難しい。


 薬の聖女がいなければ、いずれ破綻するだろう。そして、手ぶらで帰れば、どんな目に遭うか分からない。最悪、殺される可能性さえある。

 

 それを考えれば、連れて帰る以外の道はない。


「そうですか……情報ありがとうございます」


 そこでふと男は気づく。


 逆に言えば、今グランドリア家は回復ポーションの件に総出でかかりきりだ。誰かに追手を差し向けるような余裕はない。


 それなら自分がやることは決まっている。


「いや、気にするな……行くのか?」

「はい、それが《《唯一生き残れる道》》なので」

「そうか、気をつけてな」


 男が置かれている状況を察したのか、囲んでいた老人たちが道を開けた。


「それでは」


 男は老人たちに礼を言い、《《宿を取って一晩ゆっくりと体を休め、美味しいと評判の朝ごはんを食べてから、隣国への乗合馬車に乗りこんだ》》。


 おそらく隣国、ラビリス共和国の国境の街に着くには一週間ほどかかるだろう。


 もしかしたら、そこにも薬の聖女はいないかもしれない。しかし、それなら見つかるまで追い続けるだけだ。


 路銀は心許ないが、隣国はダンジョンがあると聞いている。そこなら稼ぐこともできるだろう。


 男は、グランドリア家を出た時とは違う、晴れやかな顔をしていた。

お読みいただき、誠にありがとうございます。


「面白い」

「続きが気になる」


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よろしければご協力いただければ幸いです。


引き続きどうぞよろしくお願いいたします。

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― 新着の感想 ―
第二の人生ですね。 状況的にグランドリア家が沈みかけてる事は理解しているからなー これからの自分の身を守ることも両立できる方法が目の前にあれば当然か。
今なら逃げ切れるよ~( ̄ー ̄)ニヤリ
この人、仲間になりそう。
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