第103話 別れと出会い
商会の依頼を受けた次の日。
この街でお世話になった人たちにも挨拶をして回る。
「そうか、行っちまうのか……寂しくなるな。なぁ、ロビン?」
「なんで俺に聞くんだよ!! 俺は別に寂しくなんかねぇよ!!」
シルドさんが残念そうな顔をしたあと、ニヤニヤした様子でロビン君に問いかけた。ロビン君が腕を組んで不機嫌そうにそっぽを向く。
アークにそっくり。ロビン君もツンデレだからしょうがない。少しは別れを惜しんでくれるなら嬉しいね。
「ほんとかぁ?」
「ふんっ、本当だっての!!」
シルドさんがほっぺを突っつくと、ロビン君はその手を払ってなおさら不機嫌そうに顔を背ける。
「ふーん、まぁ、いいか。アイリス嬢ちゃんはこれからどこに行くつもりなんだ?」
「南の国マナビアに行こうと思っています」
私が次に向かうのは、マナビア自由都市連合という国。いくつかの都市が緩く結びついてひとつの国を成しているみたい。
温暖な気候で、南側が海に面しているのが最大の特徴だ。
都市それぞれが独立しているため、南国という統一性はありつつも、各々の都市に独自の色があるんだとか。
「そうか。あっちは南国だけあって賑やかで良いところだぞ。香辛料とか踊りが有名だな。あと、何より魚が美味い」
「それは楽しみですね」
やっぱり一番楽しみなのは海。実物はまだ一度も見たことがないからね。
そして、海で獲れる魚介類。
私は醤油を手に入れた。当然、お刺身を食べられる。ショウガに続き、ワサビもどきも採集済みだから今から楽しみだなぁ。
「本当にアイリス嬢ちゃんには世話になったな。子どもたちは俺たちに任せとけ。仲のいい冒険者にも声を掛けて面倒みてやるからよ」
「ありがとうございます。助かります。こちらこそお世話になりました」
シルドさんたちと握手を交わした。
最初こそ助けたのは私だったけど、ロビン君たちのこと含めて、色々お世話になった。
彼らには感謝しかない。
「よし、ここは盛大に送別会でもやるか」
「いやいや、そんなのしなくていいですよ」
「何言ってんだ。こういう時はパーッとやって送り出すのが冒険者の流儀ってもんよ。嬢ちゃんに拒否権はない!!」
「はぁ……わかりましたよ」
出発の前日に孤児院で送別会を開いてもらえることになった。
そこで私は衝撃的な話を聞くことに。
「え、死んじゃったの!?」
「うん、仲間の一人が辛うじて生き残ったんだって」
「そっか……」
ロビン君が少し気分が沈んだ顔をしていると思ったら、アグ君たち――スラム街の少年たちのパーティがほぼ壊滅したらしい。
十五階になれば、ボアはもちろん、他の種類のモンスターも一緒の群れを作って襲ってくる、Dランクになった冒険者たちが活動するような階層。
アグ君たちはつい先日Eランクに昇格したらしく、調子に乗って先に進み過ぎたのかもしれない。
これが冒険者。これからロビン君たちが生きていく厳しい世界だ。でも、ロビン君は運が良かった。私が助けに入れたし、初心者狩りからも守れたから。
もし、私たちがいなかったらもう死んでいたと思う。
「俺、絶対に無謀なことだけはしないから……」
アグ君にはなかったけど、ロビン君には後悔する時間もやり直す機会もあった。
これからこのチャンスを活かすも殺すもロビン君たち次第だ。
それに、シルドさんたちのように、いくら気をつけていても避けようのないイレギュラーが起こることもある。
今後はどんな困難も自分たちで切り抜けるしかない。できれば、またこの街を訪れるその時まで、生きていてくれることを願うばかりだ。
宴もたけなわというところで、仲間を引き連れたロビン君が話しかけてきた。
「姉ちゃん、本当に行っちまうのか?」
「うん、ここには南の国に行く途中で寄っただけだからね」
「俺たち、姉ちゃんにまだなんにも返せてないのに……」
子どもたちが悲しげに俯く。
私は、暗い雰囲気を吹き飛ばすように手をパンパンと叩いた。
「そんな顔をしないの。元々お返しなんて期待してないし、それはロビン君たちよりも小さい子たちに返してあげてよ。今は初心者狩りがいないみたいだけど、そういう人たちはまた必ず現れる。その時に子どもたちを守ってあげて」
いくら排除したところで、悪人はどこからともなく湧いてくる。誰かが見守っていかなきゃ、いつまで経っても初心者狩りがいなくなることはないと思う。
私はロビン君の前に小指を差し出した。
「……うん、分かったよ。俺たち、今よりずっと強くなって、子どもの冒険者が一人前になれるようにサポートする」
「約束だからね」
ロビン君が少し考え込んだあと、私の指に自分の小指を絡める。
「姉ちゃんも約束してくれよ」
「何を?」
「またこの街に来てくれるって。そん時までに俺たち、もっと成長してるから」
「分かった。約束するよ」
私とロビン君は指切りを交わした。
翌日。
集合場所に向かうと、たくさんの人たちの姿が。
その中に、ひと際目立つ、私と同い年くらいの美少女が立っていた。
私の姿を捉えた少女が口を開く。
「あらっ、あなたがアイリスさんかしら?」
「はい、そうです」
「私はエリア・グレオス。よろしくお願いいたしますわ」
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