第100話 実食
100話到達!!
ふと、シルドさんたちと子どもたちの姿が思い浮かんだ。
美味しい料理を私たちだけで堪能するのも悪い。知り合った皆にも食べさせてあげよう。これだけ大きなボアならそれなりの人数に食べさせても大丈夫だよね。
「エア、このお肉、皆で食べてもいい?」
「ピピッ」
「ありがと」
許可を得た私は、借りっぱなしのマジックバッグにボアを詰め込んで街に戻った。
シルドさんを探すために冒険者ギルドに寄る。
「おっ、アイリス嬢ちゃん。昨日より顔色が良くなったな」
「あっ、シルドさん。すみません、ご心配をお掛けしました」
でも、ちょうどいいことに、その途中でシルドさんたちと遭遇した。
「いや、遅かれ早かれ通る道だからな。元気になってよかったよ。それはそうと、どこかに行ってたのか?」
「はい。ちょっと外に薬草の採集に」
「……まぁ、アイリス嬢ちゃんなら大丈夫か」
「何か含みがありそうですけど、まぁいいや。ちょうど探してたんですよ」
シルドさんの目に不穏なものを感じたけど、それ以上追及しても誰も幸せにならない気がしたので、無視して本題を切り出す。
「ん? 俺たちになんか用か?」
「孤児院で私の故郷の料理を作るので、ご一緒にどうかと思いまして」
「おうっ、そりゃあいいな。ちょうど腹が減ってたところなんだ」
「それはよかった。それじゃあ、行きましょうか」
私はシルドさんたちを伴って孤児院に向かった。
「あれ? 姉ちゃん、また来たのか?」
中に入ると、ロビン君が不思議そうな顔で出迎える。
「何? 来ちゃいけないの?」
「い、いや、そんなことないけど……どうしたんだ?」
「せっかく美味しい料理を食べさせてあげようと思ったんだけどなぁ」
「ごめんなさい。すぐに皆を呼んでくる!!」
ロビン君が逃げるように子どもたちを呼びに走り去った。
全く……性格は変わらないね。
入れ替わるように孤児院の先生がやってきた。
「全く……しょうがない子ね。アイリスさん、いらっしゃい」
呆れるようにロビン君の背中を見送る先生。
「突然すみません」
「いえ、夕食を提供してくださるとか? 私に断る理由はありませんよ。むしろ、いつもよくしていただいてありがとうございます」
「いえ、そんな。私が好きでやってることですから。庭を借りても良いですか?」
「えぇ、もちろん構いませんよ」
庭に出ると、バッグの中からボアを取り出した。
「グ、グレートボア……」
「これ、今日エアが一人で取ってきたんです。凄いですよね!!」
「Bランクモンスターじゃねぇか……とんでもねぇもんをサラッと出しやがるな……」
シルドさんたちが顔を引き攣らせている。
話を聞くと、この前死にかけたマーダーベアにも匹敵するモンスターなんだとか。
「エアはもうBランクモンスターを狩れるようになったんだ。偉いね」
「ピピッ!!」
エアを抱きしめながら褒めると、嬉しそうに目を細める。
「いや、そういうことじゃねぇんだけど……言っても仕方ねぇんだろうな……」
シルドさんたちが遠い目をしてる気がするけど、気のせいだよね?
「うぉおおおっ!! すっげええぇ、なんだ、このデカいの!!」
ロビン君たちがやってきて興奮した様子で近づいてくる。
小さい子たちは少し怖がっていた。
「グレートボアって言うんだって」
「へぇ、これどうしたんだ?」
「エアが獲ってきたの。お肉を皆で食べようと思ってね」
「エア凄ぇな!! でも、いいのかよ、これ、多分すっごい高いんだろ?」
「さぁ? でも、たまにはいいでしょ。今日は特別だから」
アークやエアなら狩って来られるだろうし、美味しい物は皆と食べたい。
「アーク、お願い」
「わふっ」
すでに血抜きされていたボアが肉塊と骨に解体され、皮の上に乗った。
「アーク、すげぇええええっ!!」
子どもたちがアークのパフォーマンスに喜ぶ。
グレートボアに対する恐怖は消えてなくなったみたい。
アークは澄ました顔をしているけど、しっぽがブンブン振られているので、本当は嬉しいのが丸わかりだ。
「皆、手伝って」
『はーい』
さすがに一人だと大変なので、ロビン君たちや年嵩の子どもたちに食材の下拵えを手伝ってもらう。
「あの……これって、ショウの実じゃないですか?」
「うん、そうだよ」
「こんなの料理には使えないんじゃ……」
「まぁ、見ててよ」
怪訝な顔を子どもたちに醤油の実ことショウの実を絞って貰い、その醤油を使ってタレを作った。
少し厚めに切られた肉を少しの間浸し、魔道具のコンロで熱したフライパンに肉を投入。
――ジュワァッ!!
「あぁ〜、これが生姜焼きの匂いなんだ」
醤油が焦げた匂いが辺りに広がっていく。
料理動画ではよく見ていたけど、実際に食べたことはない。とにかく皆が美味いと言って食べてるのを涎を垂らしながら眺めてるしかなかった。
さぞ美味しかろうとずっと思っていたけど、五感全てから入ってくる情報から、間違いないと、本能に訴えかけてくる。
みんなが絶賛していた料理をようやく自分の舌で味わうことができる。こんな日が来るのをどれだけ待ち望んでいただろうか。
私は、一度味見をする。
「う、うまぁ!?」
そんなに長い時間浸けておいたわけじゃないけど、醤油が少しドロっとしていることもあり、しっかりと味がついていた。
ボア肉の油や臭みを、生姜もどきのピリッとした辛味が中和していて、肉そのものの旨味をしっかりと引き出している。
あぁ、みんなが美味い美味いと食べる気持ちがよく分かった。惜しむらくは、調味料が足りないことと、米が見つかっていないこと。パンしか食べたことがない。
生姜焼きを食べたことはなかったけど、ご飯は当然ある。二つが合うのは感覚的に分かる。分かってしまう……絶対米を見つけなければ!!
「お、おい、嬢ちゃん、早く俺たちにも食わせてくれ!! この匂いは我慢できそうにねぇ!!」
新たな目標をやり遂げる決意をしていると、シルドさんたちが血走った目で私を見つめている。
「ちょっと待っててくださいね」
私と孤児たちは力を合わせてひたすらに肉を焼くマシーンと化した。
ある程度焼けたところで、みんなに肉を配る。
「いただきます!!」
『いただきます!!』
手を合わせて肉を頬張った。
『うめぇえええええっ!!』
全員の叫びが辺りに木霊していった。
いつもお読みいただきましてありがとうございます。
本当は一章で終わらせる予定だったのですが、気づけば100話まで到達していました。
ここまで続けられたのも皆様のおかげです。
引き続きよろしくお願いいたします。




