手料理クライシス
彩奈は猛烈に後悔していた。
どうして「料理が得意です」なんて言ってしまったのか。料理なんて、パスタを市販のソースに絡める以上のことはしたことがない。
「どうして料理が得意なんて言っちゃったんだろう……」
台所に突っ伏して呟く。意中の彼の気を惹くためとはいえ、あまりにも軽率だと猛省した。
彼は「今夜食べに行ってもいい?」と言ったがその時点で断るべきだったのだ。
約束の時間まで15分。台所には黒焦げのグラタン、三角コーナーのようなサラダ、地獄を模写したようなスープが陣取っていた。
顔を上げる。例の箱がそこにあった。彩奈は深くため息を吐く。Awazon超お急ぎ便。中にはやはり、牡蠣のグラタン、スモークサーモンサラダ、南瓜のポタージュスープがあった。
「これはあなたが10秒後に欲しくなる商品です」と書いた紙が添えられていた。
「美味い! 美味いよこれ! こんなに美味い料理食べたの初めてだよ!」
敬太は目を輝かせて言った。皿の中身がみるみる消えていく。
彩菜も一口食べた。今まで食べたなによりも、美味しいと感じた。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
彩奈は俯いた。膝の上に、涙が点々と染みていった。