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一之瀬 葵②

「コントロールが甘い。どれだけ威力があっも当たんなきゃ意味ないの。攻めの力ってのは基本、威力と命中率で決まんだよ。それにそもそも判断も甘い。コントロールが良くても狙いが悪いと結局意味ない。相手の動きと自分の動きを考えろ」

 

 今日もみっちり絞られている葵ちゃん。俺も世良にみっちり絞られたいっ。

 世良が俺と模擬戦してから葵ちゃんに優しく指導するのがいつものパターンになった。


「ほら、もっと火ィ出せッ!!ちゃんと火なんだからコントロールしなくていいとこは無駄にやんなッ!!こっちの通り道に置くだけなのは雑魚のすることだろうが!!相手を動かすんだよ、囲んだら無理矢理突破しか選択しなくなんだろうが!!そしたらお前は先読めなくなるよなァ??」


 葵ちゃんの『言霊』は、火を出すことだ。これのすごいところは、本当の火であることだ。火っぽいやつとか、燃える性質があるものとかじゃない。


 『言霊』ってのは、『語り部』のイメージを具現化する。だから、実在するものは細かいところがきちんと想像できなくて、大抵上手くできない。それをできているって結構すごい。大分練習したんだろうな、って感じ。


 そして、葵ちゃんの面白いところは、更にもうひとつ『言霊』が使えることだ。『言霊』を複数使うのは難しい。


 そのもうひとつの『言霊』は、癒すこと。葵ちゃんが出す火はマジなので、葵ちゃんにも効く。それでも何の遠慮もなく戦えるのは、燃えるより回復する方が圧倒的に速いからだ。どうやら、特に燃える系の負傷には強いみたいだ。

 因みに、回復ってのは服にも使えます。服も自分の一部に含めてるからね。『言霊』って『語り部』の認識次第だから。

 ん?

 なるほど。

 うーん。

 まだパズルのピースが足りないな。


「お前は治す力をよく分かってねえ。医学の知識もなんもねえのになんでも治すイメージできるわけねえだろッ!!あと火傷は治せんだからビビんなッ!!全身火傷んなっても関係ねえだろうがッ!!」


 葵ちゃんは結構破壊力高めの能力だ。しかも、治す力もあって防御をそこまで気にしないでいい。どこか世良の"新月"に似ているんだよな。そういう意味でも、適任だろうな。世良もそれを分かっている節がある。それでわざわざ教えているのかな?


 いや、違うな。それもゼロじゃないだろうけど、俺のためだなこれ。わざと心折ってるなあ。弱ってて色々話してくれてラッキーとか思ってたけど、世良が狙ってやったな。


 葵ちゃんがクラスの中心だとか、結構食らいついている奴だとか、諸々考慮してこれだな。

 俺が関係ないのに、こんな面倒な教師役やるわけないか。


 あ、世良と目があった。てか、俺が今気付いたことに気付いたな。優秀すぎるんだよねえ。褒めて?って顔してる...…。


 そういえば、葵ちゃんのお陰で段々と俺もクラスに馴染んできた。仲良く話すってわけじゃないけど、避けられるってことはなくなってきた。


「モッチ~、今度のテストの答え教えて~」


「いや、答えは知らんぞ」


 俺をモッチーと呼ぶこの子は、典型的な陽キャ、若宮さつき。背が高い金髪ウルフカットで、そして何より、胸が小さい。グッド!!

 君は、葵ちゃんの件が済んだら本腰いれるからちょっと待っててね。

 

「だってさあ、ゴールデンウィーク中に二泊三日だよ?そんなテストだるいし」


「今回だけって言ってたし、我慢するしかないな」


 なんでも、単純なテストで測れないところも見たいんだとか。試練への考え方とか精神的な体力とかかな。本気で『語り部』になるならそういうの大事だしね。しかし、それにしても大掛かりで急いでいる気はする。時間かけて見ていけばいいことじゃないかなって思うし。それだけじゃないだろうな。


 それに……テストと言えば、あの伝言も気になる。


ーテスト中のカンニングに注意


「カンニングさせてよ~」


「先生から許可されたらな」


「無理じゃん」


 さて、今日の訓練、というかいじめも終わったところで葵ちゃんチャンスです。


ーーー


「毎回よくやるな、今日は二週間耐えた記念日だぞ」


「いやあ、早いね。でも、まだまだだよ」


「どうしてそんなに頑張るんだ?」


「それは……妹の、じゃなくて妹を助けたい自分のため、だね」


 どうやら世良に相当やられたらしい。容赦ないからなあ。


「妹がどう関係するんだ?」


「それは……妹に会ってみれば分かると思うよ」


 これは大チャンスだな。押して押して押しまくれ!!


「不躾なお願いだが、妹に会わせてはくれないか?もしかしたら、俺に何かできることがあるかもしれない」


「そっか……。望月くんなら、いいよ。でも、妹がいいって言ったらね」


 よしきた!!

 ただ、俺の見立てだと断られることも十分ありえるんだよなあ。


「頼む。自分を兄と慕う子に何とかしてあげたい気持ちはよく分かる」


 ここで欠かさず兄心をくすぐる。

 楽しみだな~、妹。


ーーー

「おじゃまします」


 結局、妹の許可はすんなり取れたらしい。

 しかし、わざわざ家に呼ぶってことは、やっぱり予想は当たってそうかな。

 両親は今は外しているらしい。えっちな展開ですか?

 葵ちゃんが、扉をノックする。


「入って~」


 可愛い声だね。中からの声を聞いて、葵ちゃんが扉を開ける。葵ちゃんに続き、俺も部屋に入る。

 女子の部屋の匂いがするね。


 そして俺は……葵ちゃんの妹を見て、内心とても動揺していた。


「望月さん、ですよね?妹のあかりです」


「よろしくね」


 マジかよぉ……。


「驚いただろう?」


 え!?

 動揺がバレた!?


「火傷の跡だよ、全身にあるんだ」


 あ、そっちか。


「ううん、兄さん、あんまり驚いてないように見えたよ」


「え?そうなのか?」


「まあな。実は、予想がついていた。一之瀬の能力、二つあるのは普通じゃない。余程の事情があるはずだ。二つの能力のうち、どちらが最初なのか?そう考えれば仮説は立つ。当時、ニュースにもなってたしな」


 大方、昔葵ちゃんが炎であかりちゃんに火傷を負わせちゃったんだろうね。『言霊』って基本自分に一番効きやすいから、葵ちゃん自身は治せてもあかりちゃんは無理だったってとこかな。『言霊』で事故ったってちょっと問題にもなったしね。


「やっぱりすごいな……君は」


 そんなことはどうでもいいんだよ。

 なあ、君の妹さ……


 巨乳じゃねえかよ。

 俺は貧乳好きなんだよ!!


「兄さん、それで、どうして急に友達に会わせたいなんて言ったの?」

 

 葵ちゃんと同じような白い肌にさらさらの髪、まるっこくて可愛い子だけどさ。


「それは、あかりのその火傷をどうにかできるんじゃないかと思ってな」


 いや、分かっているんだ。俺が悪いのは。だって、貧乳にしか興奮できないなんて、おかしい。


「望月くんは、クラスで一番、それどころか、先生に匹敵するほどの『語り部』なんだ」


 あ、呼んだ?

 でもさ、本人あんま火傷を気にしてないっぽいけどな。むしろ、兄が気にしていることを気にしているような。


「一之瀬、妹は火傷で思うようなお洒落ができない、とか考えているのか?」


 一之瀬って言うと2人とも反応するの面白いな。いや、分かってたけど。だから今まで一之瀬呼びだったんだからね。


「そりゃあ……」


「兄さん、それは違います」


「そうだな。一之瀬、いや、ややこしいから葵と呼ぶぞ。葵が代わりにお洒落する必要もない」


「ッ!!」

「やっぱり、あのとき気付いてたんだね」


「骨格を見れば分かる、あの公園で見た可愛い女の子は女じゃなかった」


 動揺して、父さんに多分知り合いとか言っちゃったよ。多分って何? って顔してたよ。


「望月さん、誤解しないでください。その、兄さんはなんだかんだ楽しんでる節が……」


「ちょ、あかり!?」


 なるほど。

 あかりちゃん、やるな。

 兄妹で、兄を女装受けに調教済み……。

 

「あかりちゃん、そうだったのか。ごめん、葵ちゃん」


「葵ちゃんッ!?」


「大丈夫だ。心配いらない。とても可愛かったよ」


「そういう問題じゃッ!」


 面白いな。

 あかりちゃんも楽しそうだな。

 羞恥プレイってやつだな。

 

 この後、俺が帰ってからどんなことが……


~妄想開始~


 兄さん、可愛いって言われて喜んでたよね

 私以外でも嬉しいんだ

 私は兄さん以外に言われても嬉しくないのに

 違わないでしょ

 悪い兄さんには……お仕置き、しないとね


 うわああああああああああああああ


~妄想強制終了~


 ハッ


「その……申し訳ないが……俺には無理だ」


 兄妹愛の尊さを前に、俺は限界だった。


「謝らないでください、私は大丈夫ですから」


「うんうん、あかりちゃん、可愛いね」


 まあ、巨乳だったけどいいか。

 もう葵ちゃんに夢中みたいだしな。

 この後のプレイの種撒いときましたよ。

 あかりちゃんは、お兄さん以外に可愛いって言われても嬉しくないんですよね。


「あ、ありがとうございます……」


 しかし、残念だなあ。

 俺が悪いけどさ……。

 俺はこの業を背負って生きていくよ。


「じゃあ、俺は美人姉妹の邪魔にならないよう、そろそろおいとまするよ」


「「美人姉妹ッ!?」」  


 さて、そろそろテストのこととか、金髪ギャル(?)若宮さつきのことを考えないとな。


ーーー


「兄さん……可愛いって言われて喜んでた?」


「え!?……いや、あかりもでしょ……」


「……」


沈黙。


 妹以外に女の子の姿を褒められたことがない一之瀬葵

 兄以外に火傷の姿を見て平然と可愛いと言われたことがない一之瀬あかり

 2人とも、彼の意図とは関係なく、しかも彼の知らないところで、ろう絡までのステップを進んでいるようだった……。

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