流れの変化
司令室で、様子を伺う望月美名。
「早見さんは配置につきましたね。もうそろそろ歌も止まります。ここからはあと3手くらいでしょうか」
「さつきちゃん、もしもし君の準備しておいてね」
「は、はい」
ーーー
歌が止まった。
それが合図だ。
"聖戦"との戦いに身を投じる南なぎさは、攻撃の合間の隙を伺う。激しく打ち付ける攻撃が止んだことを確認すると、一気に距離を詰めて反撃を狙う。
建物の陰を利用しながら、次の攻撃が来るより前に近づく。
しかし、隠れようにも"聖戦"は開けた場所へ移る。そこで高台を確実に押さえ、簡単には近づけさせない。
例え地理的な不利があっても、ものともせず"聖戦"に迫る。弾や盾の文字を駆使して一瞬でインファイトの距離へ。
"聖戦"の攻撃のための弾はまだ装填されていない。空がはっきり見えている。
だが、物陰から弾が飛び出す。宙に浮いていたものが全てではなかった。
その攻撃を、盾を出し、確実に守る。しかし、守りに集中したせいで相手に近づけない。
南なぎさを見下ろす"聖戦"。
「残念ですが、勢いだけでは届かない」
"聖戦"を見上げる南なぎさ。
その目には、敵と、その敵すらも見下ろす程の高台が映る。
鳴り響く爆発音。
"聖戦"が、それを銃声だと理解したのは、自分の身体に風穴が空いていることに気づいたときだった。
「銃撃……? なるほど……。『語り部』も進化しているということですな……」
ただの銃撃では"聖戦"を倒せない。ならば、『言霊』による銃撃であるはずだ。しかし、『言霊』は、距離が離れるほどその威力が落ちる。
坂本道人の作った銃だけでは、届かない。
だから、南なぎさでその威力を担保する。
ちょうど、"崩壊"が望月魁を撃ち抜いたのと同じように。
「悪いな。勘で土手っ腹に1発撃ち込んじまって」
「開けた場所に誘い出し、"未来"で確実に仕留める……。いやはや、お見事ですな」
「……じゃあな」
腹から皹が広がっていき、身体が綻び、崩れる。
ーーー
白石世良と、"彼岸"の戦いも、終わりを迎えようとしていた。
"彼岸"へ一気に迫る白石世良。
しかし、"新月"の身体を身代わりにした捨て身の攻撃だとしても、それを警戒している"彼岸"には届かない。
"彼岸"が召喚した"満月"からの攻撃も、白石世良の動きを制限する。
細かい攻撃を食らいつつ、致命傷は避けながら鎌を構える白石世良。
だが、すでに"彼岸"は攻撃に備えている。"彼岸"が"新月"を打ち砕き、"満月"の斬撃で生身で繰り出す苦し紛れの攻撃をも防げば良い。
"彼岸"の拳が、白石世良の腹へ打ち込まれる。
しかし、身体は崩れることはない。皹が入ることもない。ただ、代わりに血が流れ、拳が食い込む。
そう、"新月"を解除し、生身で攻撃を受ければ、"新月"の身体は傷つかない。
「馬鹿なッ……毒もあるんだぞ」
「体は強い方なんだよ。じゃあな、"彼岸"」
再び"新月"となり、"満月"の攻撃を受けながら『もののけ』を切断する。
『もののけ』とともに、満月も、新月も沈み行く。
そして、最後に佇むのは、白石世良1人だけ。
ーーー
「歌聴こえなくなったってことは……」
「よし、いっちゃおうか」
「鏡花水月」
"村雨"には、対峙する星野深雪らが確かに見えている。
無防備に近づく彼女らを見定め、刀を構える。
そして……斬った、かに思えた。
そこには誰も居なかった。
「ウォーターハンマー!!」
「バッシャーン!!!!」
ハンマーから噴き出し、溢れ出す水。
激しい水圧に押し潰される"村雨"。
それでも、流されながらも刀から斬撃を繰り出す。
しかし、空を斬る。
「居ないから見えないのではなく……見えていないから居ないのだな」
降っている雨が、田中美紀の思い通りに動く。雨とは、結局は水だと誰もが認識している。
『もののけ』に襲いかかる雨粒。
「スパッ!ドカッ!」
身体に着実にダメージを蓄積させていく。
「ドッカーン!!」
ハンマーによる激しい一撃も『もののけ』を襲う。
「消えるのは厄介だが、見失わなければ良いだけのこと。誰からも見られぬときに自らも目を閉ざす。それこそが幻の仕組みであろう」
「分かったところでどうする? 話したところでこれじゃ苦し紛れだぞ」
「こうするのだ」
"村雨"の斬撃は、水を斬る。
遮られていた視界が開ける。
3人までの距離は近い。
すぐに斬りかかれる。
「ウォーターハンマー!!」
水の流れが一気に変わる。
「ドーン!!」
3人の『言霊』を使った全力の一撃である。
"村雨"の身体を貫く。
「何が……起こった……」
「ウォーターハンマー現象。管を流れる水の流れが急に変わることで大きな衝撃が生まれる。水は、『言霊』で擬似的に管内を流れていた」
「……天晴れだ」
空に虹がかかる。
「いやあ、水遊びしてなかったら負けてたなあ」
「ウォーターガンのお陰だね」
「その話って、鷹見悠から聞いたんだよね……?」
「……」
「…………なんか寒いね? 鳥肌が……」