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膠着

 北東方面の『もののけ』たちの右側、つまりは一之瀬葵と逆方向の側こそが、『もののけ』たちを崩す起点になる場所である。


 その箇所にいる『もののけ』は、"刹那"と"剣豪"。それぞれ、鷹見悠と望月賢が相手をする。


ーーー


「そこ」


 地面から、刃がせり出す。"刹那"の足に突き刺さる。すぐに距離を取ったために深手にはならなかったが、足運びはぎこちない。


「速いね。なんとなくお前の冠する名も分かりそうだな」


「ほう……貴様は…未来か。少々厄介だな」


 そう言った次の瞬間には、既に鷹見悠の背後に回っていた。


「ここ」


 "刹那"の攻撃を刃で受ける。


「そこ」


 距離を取る"刹那"を、すかさず追撃する。


「普通に歩いたりするのとは別に高速移動ができるのかな」


「未来を読んで反応したか。だが、貴様の手の内は既に分かっている。このまま押しきれることもな」


 鷹見悠の『言霊』で付けられる印は4つ。しかも、触れた場所にしか付けることができない。絶え間ない攻撃に晒されれば、手数が足りなくなる。


 だからもちろん、鷹見悠も考え無しではない。開けた場所を避け、建物の中で戦う。印を地面にしか付けられない外と違い、屋内は壁や天井など選択肢が多い。あるかもしれない攻撃こそが、彼の最大の武器である。


「中に入ったからといって何も変わらん」


 『もののけ』の姿が一瞬にして消える。


「ここ」


 床と壁から現れる刃。確実に『もののけ』の接近を防ぐ形だ。


「防御に徹されては困るな。だが、貴様も大してできることはないだろう。このまま続けても私を倒すことはない」


「それはどうかな。戦ってて1つ気付いたことがある。お前の高速移動にはいくつか制限がある。連続で使えなかったり、長距離では使えなかったり」


「それが分かったところで意味はない」


「それに……可愛い教え子たちの応援もあるからね」


「……この歌のことか。いかんせん離れすぎているな。戦況を左右はしない」


ーーー


 和服を羽織る武者の様な姿の『もののけ』が、剣豪である。刀を携え、望月賢と対峙する。


「召喚とは……私1人では少々荷が重いか」


 "剣豪"は、距離を取りながら刀を持ち、言葉を紡ぐ。


「数珠丸恒次」


 刀の見た目が変化する。数珠が柄に巻き付いた紫色の禍々しい刀だ。


 その刀から繰り出される斬撃は、速度、切れ味ともに凄まじい。そして何より、その斬撃は敵を追う。


「へえ。面白いじゃないか。でも、1人じゃどうしようもないでしょ」


 斬撃を相殺したり、急な角度を作って斬撃を巻いたり、いくらでもやりようはある。

 "剣豪"は防御に徹することはできるが、長くは持たない。


 "剣豪"の数珠丸恒次が、ここまで威力や速度、更に特殊な効果まで併せ持っているのは、斬撃を繰り出す仕組みにある。

 斬撃には、弾数制限がある。108発。それだけ打ったら、それはただの刀になる。


 しかし、そこまで長くはならない。既に、"疾風"が合流した。


 横から望月賢に迫る攻撃。それは、かまいたちのような、風の斬撃。


 望月賢の攻撃が止まり、防御に手を回す。


 その隙に、"剣豪"は刀を変化させる。


「三日月宗近」


 その刀は、とても似ていた。


「なるほど……。俺の三日月と同じ様なモンになっちゃってるわけだ」


 その刀から飛んでくる斬撃。その威力や速度は望月賢がよく知っているものだった。


 素早く動きながら目に見えない攻撃を仕掛けてくる"疾風"と、互いに同じ間合いを持つ"剣豪"。2人で守りに入られると、付け入る隙は中々無い。


「でも、こっちの方が今は少しだけ強いかな」


 "剣豪"の三日月宗近に対し、射程や威力で若干上回る三日月。


「この歌のせいか。しかし、本当に少しだけだ。注意すれば問題ない」


ーーー


 突如として降り出す雨。ことのは大学から見て、南東方向に居る『もののけ』、"村雨"の力である。


「我が刀の切れ味をその身で試してみるか?」


「なんか雨降ってるけど」


「取り敢えずハンマー行くね」


「ドンドン!!行っちゃおうか」


「出でよ、とんカチーン!」


 巨大なキラキラしたハンマー。それは、冷気を纏っている。

 それを振りかぶると、周囲に凍える様な風が吹き、叩かれた場所は凍りつく。


「雨も降ってるし寒いんだけど……」


「手がかじかんできた」


 攻撃がいまいち決まらない。


「これ程の冷気とは……。だが、悪手だな。我には効かぬ」


 刀からも溢れる冷気。寒さの中でも、それをものともせず戦う"村雨"。


「ドン!!ドンドン!!バーン!!」


「歌と競合してない?」


「合いの手みたいにしたら?」


「……そうしたら攻撃できないだろう」


ーーー


 『もののけ』達は、『語り部』を釘付けにしている。もう、大した戦力は残っていない。

 失明したと思っていた南咲子を除けば、『もののけ』の指揮を執る"孤高"にとって、全てが思い通りに進んでいた。


 この状態で、街で『もののけ』を暴れさせる。


 放つ『もののけ』は2体。


 積み重ねてきた経験を感じさせるような、額に刻まれた傷と、深く刻まれた皺。それでいて、血のように赤い瞳が、まだ燃え尽きていないと言っている。老練の『もののけ』は、その名を"聖戦"と言う。

 "聖戦"は、最近新しく仲間として迎え入れた『もののけ』である。よって、もし『語り部』達が"支配"から『もののけ』のことを聞き出していたとしても、"聖戦"のことは分からない。


 もう1体は、顔を隠すほどの長い髪が美しい『もののけ』、"再生"である。女性らしい風貌でありながら、不思議と怪しい雰囲気もある。

 "再生"もまた、"支配"の知らない『もののけ』である。


ーーー


 知らない『もののけ』が居ても、"支配"は勝利を確信していた。


「そろそろですね。2体くらい出てくると思います。今動けるのは南なぎささんだけですが……もう1体は高崎さん達が後で対処します」


「せがれの方の高崎はどうする。"竜王"とやら相手ではひとたまりもない」


「南咲子さんが既に召喚しています。それに、比良坂凛も居ます」


「それが不安なのだが。わざわざ比良坂凛を戦場に出さずとも良いのではないか」


「丁度良い駒なんですよ。相手を逃がさないためのね」

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