決戦
年が明けてから数日経った頃。遂に、そのときはやって来た。
「『もののけ』の出現を確認しました。ここから北東方向に多く居るようです」
「予定通り、多くの人員は割かない。敵の狙いはここにいる」
比良坂凛の『言霊』によって、明らかになった敵の狙い、それは望月魁である。
今回は、徹底的に敵の目標を隠す戦略を取った。それは、ある程度の犠牲を容認するという意味でもある。
「『もののけ』達はここに向かっているようです。避難してくる人の波が押し寄せて来ると思われます」
「問題ない。この大学にはその為の場所がいくらでもある」
ことのは大学が、その生徒数に比べて過剰な規模を誇る理由の1つは、避難所としての運用を考えてのことである。
「では、引きながら最低限の人員で相手をします。他の地点に居る『もののけ』はどうしましょうか」
「上位と思われる『もののけ』は無視する。できるだけ駒として浮かせる」
司令室には、出現した『もののけ』達の映像が映し出されている。
「北東にいる上位は"凍結"、"轟音"、"竜王"、"剣豪"、"刹那"。他は"村雨"、"雷電"」
映像を見て、望月美名が言う。
「北東には白石をはじめとして多くの部隊を行かせた。他の人員と合わせ十分に対処できるはずだ。他の奴らは動き次第だが……」
「こちらには向かっていないようです。どうやらその場所を押さえるのが狙いのようです」
「そうか。では、北東の大群を引きながら相手してこちらへ誘導する」
ーーー
対する『もののけ』側のトップ、一条徹もまた冷静に戦いを進めていた。
「目標は望月魁だ。これを押さえれば勝てる。如何なる犠牲も厭わない。全ての『もののけ』を動員する」
「なぜ大学内に『もののけ』を出現させないのですか?」
「恐らく何らかの対策がされている。あの大学の建物は少し妙だったからね」
異様に硬い壁のことをずっと気にかけている一条だが、彼の思うような対策など何もない。
「それに……大学内に彼が居るかも分からないからね」
「もし居なければ、どうするつもりです?」
「非常に困るね。私個人としては犠牲を出したいわけじゃないんだけど」
と言いながら、彼は確信していた。望月魁が現れること、そして多くの犠牲は出ないことを。
「とりあえず、確かめてくるとするよ」
「危険では……?」
「問題ないよ。彼らに私は殺せない」
そう言って、空間と空間を繋ぐゲートを開く。
ーーー
ことのは大学の司令室に、堂々と侵入する一条徹。
「どうも。お久しぶりです皆さん」
「久しぶりだな、一条さん。あんたの目当ては俺だろう?」
話すのは、望月魁
「君は……変装の子だね。彼にも成れるんだ。でも、拙いね」
「まあ、ここには居ないよね。では、私はこれで」
そうして、また戻っていく。
「迂闊に手を出せる人間ではないな……」
一条徹の色には、自信と本気が表れていた。
しかし、その中にある若干の諦めの色が少し気になっていた。
ーーー
「ただいま。望月魁は居なかったよ。だから、私は彼を探しに行く。予定通り指揮は"孤高"に任せよう」
「承知しました」
「既に『もののけ』達は配置してあるから、好きに使ってよ」
そうして、望月魁と一条徹は居ないまま、戦いが幕を明けた。