一之瀬 葵①
色々あった特別クラスとの授業も終わり、訓練場から教室に戻る。世良ともお別れだ。
「世良は、少し言い方が厳しすぎる嫌いがある。あまり気負いすぎるなよ」
「ああ、大丈夫だよ。言ってることは全く正しいからね」
一之瀬君、中々やるな。だが、そんなことはどうでもいい。
「そういえば、妹がいるんだってな。世良怒ってたけど」
「三歳違いの妹がいてね。少し……体が弱くて、オレがなんとかしないといけないって思ってるんだけど...…それが駄目だってさ」
「世良は自分で何でもできるタイプの人間だ。一之瀬の妹のことがよく分かっていないだけだろう」
「……ちゃんと妹のことが分かっているのか、自身がなくなっちゃったよ」
なんだかすごく喋るな。世良が相当メンタルぶっ壊したな。ナイス!今、一之瀬君は話相手を求めている。
「大丈夫だ。もしどうしても自身が持てないなら、いつでも俺が相談に乗るぞ」
「ちょっと、意外かも。望月君って、少し怖いイメージあったから」
「いやあ、世良の方が何倍も怖いだろ?」
「はは、確かにね。そういえば……答えにくかったらいいんだけど、白石さんは"魁にぃ"と呼んでいたよね。どういうことなの?」
「ああ、それは単に世良が小さい頃に俺が兄みたいに可愛がってたってだけだ。血縁関係もないし、複雑な家庭の事情もない」
世良がふざけて"魁にぃ"と言ったことに俺がドキッとしたのが世良にバレて以来、ずっとこれだ。
いや、だって告白できないけど好意駄々漏れで何でもしてくれる関係って兄妹が典型例でしょ。もしくは幼なじみ。
そんで、世良が俺をにぃ判定したら兄妹みたいな幼なじみって感じになるんだよ。流石にドキドキするって。
「そうなんだ。妹ってことで気になったんだよ」
俺の怖いイメージも払拭できたっぽいし、まずは一之瀬君と仲良くなっていこうか。普段話すくらいでもいいけど、このメンタルならもっといけるかもな。妹まで手が届くかもしれないな。
だが、ひとまずは一之瀬君と仲良くなることで、他のクラスメイトにも俺が怖くないと分かってもらうことを目標にしよう。そうしないと、クラス内で次の調査ができなさそうだしね。
ーーー
「世良ちゃん、元気そうで何よりだ」
「元気すぎるくらいだけどね」
今日は、父さんと少し遠出をしている。鷹見先生からの伝言を伝えるため、少しだけ学校からは離れた場所だ。公園のベンチに2人でかける。
「鷹見先生から、テスト中のカンニングに注意、だそうだよ」
「うーん。そうか。父さんに伝言とはな」
「あと、高崎って名前に覚え、ない?」
「高崎……子供が学校にいるのか」
「なんか父さん恨んでるっぽかったよ」
「だろうな……父親を殺したんだ。当然だ」
「殺したってことは、なんかやってたんだよね?」
「後継者争いで、ライバルを何人か殺していた。よくある話だ。子供はこのことを知らないんだよ」
「そういうことね。それで恨まれてんだ」
おっと、近づいてくる足音がするな。あんまり人は居ない穴場だと思ってたんだけど。話を中断する。
可愛らしい女の子が歩いてくる。そして、明らかに俺と目があった。すぐに目を反らされて、遠くへ行ってしまう。
マジか……。いや……マジか。どういうこっちゃ……。
「知り合いか?」
「多分、そうだね」
「多分ってなんだ……?」
こんなの、首を突っ込む一択だぜ。
てか、可愛かったな。
待ってろ、一之瀬!!
ーーー歯切れの悪い息子の答えに、青春を感じた父であった。