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比良坂 凛⑤

 凛ちゃんは、未来の後継者として順調に育っているようだ。


「来ると思ってた」


 インターホンを押すより先に、俺は出迎えられた。確かに、そろそろ着くと連絡はしたけど。

 これが、未来の『言霊』関係なかったら、健気に待ってて俺のこと好きじゃんってなるのになあ。


 てか、凛ちゃん、眼鏡掛けてるよ!!

 いいねえ~。めっちゃ似合ってるよ~。


 どれくらい未来を使いこなせているのかを確かめたい。


「凛ちゃん、次の戦いはどうなると思う?」


「年明けすぐ。今度こそ犠牲者が出るかも」


 犠牲はともかく、時期が分かっているのには驚いた。俺でさえ、最近分かったことだ。

 驚きを滲ませる俺の顔を見て、凛ちゃんは微笑んだ。


「やっぱりそうなんだ。どうして年明けすぐなの?」


 やられたな。


「……教えてはくれないんだね。まあいいけど。それが重要なことなのはなんとなく分かる」


 これは、俺の中で大事なことなんだ。


「多分、望月くんが鍵になる」


「そうか」


「これも分かってたんでしょ?」


 それから、少し目を伏せ、凛ちゃんは真剣な面持ちで言った。


「……今更だし、望月くんが気にしていないのは分かっているけど……私のために、あんな怪我をさせてごめんなさい」


「凛ちゃんのせいじゃない。俺が勝手にやったことだ。だから、気にすることはない」


 俺が気にしていないと分かっていた……と。それなら、そろそろ世良が吹き込んだという俺の過去についての誤解も解けたんじゃなかろうか。


「ありがとう……やっぱり、望月くんって不思議な人だね」


 不思議……?


「なぜか次の戦いのことも分かってるし、何を目標に生きているのか不明」


 なるほど……。

 勘が鋭くなってきたからこそ、その謎が解けないことが不思議なのか。


「教えて欲しい。望月くんは、何がしたいの?」


「……それは、言えない。少なくとも、今はまだ」


「それは命に関わること?」


 ある意味で関わるのかも知れないな……。

 だって、俺は愛への冒涜を命を、存在を以て償わせているし。

 そもそも、新しい命を産み出す行為だ。

 でも、本来そういうものなのに、繁殖ではない目的にっていうのってそれはそれでクルものがあるよね。


「ん~、望月くんって考えてることを言わないけど、言えないようなことしか考えてない危ない人?」


 どうも危ない人です。


「白石さんはそれを知ってるの?」


 本気で俺の考えてることを当てにきてるな。鷹見先生にもバレてないし、無理だと思うけど。


 というか、凛ちゃんは好奇心が爆発しちゃってるな。俺のことを好きだからとかじゃなく、好奇心でやってるよ。


「知らないよね。白石さんは望月くんにとって特別な存在ではない」


「なんだろう……」


 やっぱり手詰まりかな。

 分からないという気持ちは、恋の始まりだからな。時間が経てばいけるかもしれない。


「……えっちなこと?」


 え?


「……」


 黙って俺のことを見つめる凛ちゃん。


「白石さんじゃダメなの?」


 まずい。一歩進まれた。


「さつきちゃんは?」


 凛ちゃんの貞操観念どうなってるの。

 未来って皆こうなの?


「那須さんは?」


 こより様ね……。

 あと少しだった気がしたんだけど。


「違うんだ……?」


 さっちゃん以上に考えてることが読まれるな。流石は未来の『言霊』と呼ばれるだけある。


「一之瀬くんだったり?」


 ああ、そうなるのか。

 晃と付き合ってないことから、ホモ疑惑が出たこともあったなあ。懐かしい。


「南先生とか?」


 なぎささんか。

 本来は許されない関係って良いよね。


「……私は? 今、この部屋に2人だけだよ……?」


「……絶対無理ってわけではないのかな」


「……なんかずれてる? 近い気がするんだけど、このまま行っても辿り着けないよね」


 ……。

 凛ちゃんは、俺のことを嫌いなわけではない。恋愛とは違うかもしれないが、確かな信頼関係がある。

 もうそれでいいんじゃないかって思わないと言えば嘘になる。


 でも、本当にそれでいいのか?


 今まで、進んできた過去が俺を苦しめるような感覚に陥った。

 これまでの俺に報いるために、立ち止まるわけにはいかない。理想を諦めるわけにはいかない。


 晃の説得や、あかりちゃんの応援、世良の信頼、そういう数え切れない軌跡が、俺の背中を押してくれるから。


 もし、少しでも違っていたら、俺はここで凛ちゃんの手を取っていたのかもしれない。


「そういうのは付き合ってからってこと? でも、那須さんを振ったんだよね」


「……やっぱり違うね。う~ん、浮気? 不倫?」


「いや、違うな。なんか怖い」


 それから、また黙って熟考する凛ちゃん。


 凛ちゃんの未来のレベルは大体分かったし、そろそろ帰ろうかな……。このままだとバレそうだし……。


 そう思って、席を立った俺は、急に凛ちゃんに押し倒された。


 凛ちゃんみたいな大人しそうなタイプの子に無理矢理押し倒されるのって……。

 いや、待て待て。落ち着け、俺。


 流されるな。凛ちゃんは俺を実験動物のようにして好奇心を満たしているだけだ。そうだ。


「……効果無しではない気がするけど……ダメかな」


「もういいだろ。凛ちゃん、好きでもない奴にこういうことをするな」


「……好きでもないってことは……」


 立ち上がって、格好を整えてから、別れの挨拶をする。

 部屋を後にする。

 扉が閉まる。


ーーー


 1人になった部屋に、言えなかった言葉が響く。


「好きでもないってことはないよ……」


 感情が邪魔して、ずっとつっかえていた。


「ただ、仲良くなりたいと思ってるだけ……」


 その感情の名前に、もう勘づいている。


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