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過去と未来

 先代の未来、早見先生の授業が始まった。


「この授業では、実践的な内容を学んでもらう。今まで、訓練や演習をしてきたと思うが、実戦はまた違う」


「と言っても、既にみな実戦を1度は経験している。さらに、優れた結果を収めたと言えるだろう。しかし、それが問題となることもある」


 なるほど……次の戦いはかなり厳しいものになりそうだ。


「前回の戦いでは、()()()()()()()()。これは異常だ。15年前は、数え切れない死者が出た」


「戦いとは、常に命の懸かったものだと知れ。その命は、自分だけではない。自分の大切な人も、あるいは知らない人も、戦いの場にいる全員だ」


 教室の空気が、沈む。

 緊張感というものが、確実にそこにあった。


「少し……昔話をしよう。15年前のことはみなも知っているだろうが、40年前にも、『もののけ』の事件があった」


「当時、『語り部』の中でも特に才に恵まれた者が3人。1人は、先々代の遊戯、阿久津博文。1人は、現在の協会会長、水上総一。そして、私の先代の未来、神保稔」


「3人は、親友であり、良き仲間であった。そして、彼らには、もう1人仲間が加わることになる」


「それは、『もののけ』だった。"誠実"と名乗るそれを、彼らは受け入れた。彼は、『もののけ』の中でも異端だったらしい」


「それが『もののけ』であることを、いつしか忘れてしまっていたほどにな。ただし、未来を除いて」


「私に師匠は言った。水上総一の『言霊』、色彩ではあの『もののけ』の嘘を見抜けない。なぜなら、『もののけ』にとって、嘘こそが真実だからだと」


「その『もののけ』の名は、欺瞞だ。欺瞞が真実を口にするなど、それこそ嘘みたいな話だろう?」


「危機感を無くした彼らを待っていたのは、残酷な結果だ。私の師匠は死に、欺瞞は『もののけ』に貴重な『語り部』の情報を持ち帰った」


 その結果でも、まだマシなんだろう。

 未来がそれを選択したというのだから。


 それ以来、阿久津さんはずっと前線に出ていない。

 水上さんは、『もののけ』を仲間とは認めない。


 きっと、それも正しいのだろう。


ーーー


 授業を終えて、早見先生が、俺に話しかけてきた。


「望月魁、吉田香菜のこと、感謝する」


 吉田香菜……未来の後継者候補でありながら、15年前に命を落とした、みきちゃんの親友。


「彼女が優秀だっただけです」


「そうか……。彼女は確かに、優秀だったな。鷹見よりも才はあったのだがな」


「次の戦い、手段を選んでいられない程のものになるんですか」


「……望月をここまで認めたことか?」


「水上さんが急にこんなことをするとは思えないんです」


 すると、早見先生は少し微笑んで、答えた。


「司令室でお前が啖呵を切ったとき、お前は本気だっただろう」


 こより様を思い通りにするとかなんとかって話だ。

 洗脳やレイプは大嫌いなので、結構本気で怒った。


「そのときのお前の()を見たそうだ。懐かしい色だったとな。絶対の自信と、それを実行するだけの本気」


「お前と敵対するだけ無駄だと悟ったらしい。珍しく、爺さんにしては賢い判断だ」


「水上がどこまで考えているかは知らんが、次の戦いが厳しいのは違いない。だが、心配はいらん。そのために、未来が居る」


 そう語る先生の顔には、自信がうかがえるような気がした。


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