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南 なぎさ②

 葵ちゃんとのデートから、時は少し遡って、なぎささんの授業の時間。

 訓練場で行うということで、特別クラスも一緒に先生を待っていた。


「みなさん、お待たせしました」


 何回見てもカッコいいな……。

 入れ墨ってお洒落や神聖なものっていう意味合いもあるけど、なぎささんの素晴らしい所は、機能性もまた優れていることだ。


 司書らしい大人しめの格好から、急にこの格好になったので、皆結構驚いている。

 司書としてのなぎささんをよく知っているこより様は、特に驚いているみたいだ。


「私の授業では、戦い方を教えます。『言霊』それ自体というより、基本的な戦い方です」


 『言霊』がいくら強くとも、戦い方がなっていなければ話にならない。単純な身のこなしや、戦術、戦略というのは馬鹿にできない。

 なぎささんが使う『言霊』は、どれも基礎的なもので、そこまで難しいものは含まれていない。シンプルだからこそ、戦い方がとても重要だ。


「戦いに向かない『言霊』もあるかと思いますが、その『言霊』にあった戦い方があります」


 さっちゃんの『言霊』が良い例だ。通信機には攻撃力なんて全くないが、戦術的に圧倒的な威力を見せた。


「ということで、まずは例を見せるとしましょうか。世良」


 カメラをセットして、世良を呼び寄せる。模擬戦をするらしい。


「世良、使うのは基本的な『言霊』だけです」


「分かってる」


 世良はなぎささんを結構気に入ってるみたいだから、面白い戦いになりそうだ。


「では……はじめ」


 その声で、模擬戦が始まる。


 2人は、互いに距離を探りながら向かい合う。


 ここで世良が攻めない時点で、なぎささんを認めているのが分かる。


 少し経って、世良が仕掛ける。

 一気に近づいて、拳を入れる。


 それを避けるなぎささん。

 避けながら、既に攻撃の体勢を整えている。


 その攻撃をいなして、死角に入る世良。

 でも、すぐには攻めない。


 なぎささんが、世良を気にしながら立ち位置を変えていく。

 世良もそれと同時に動く。


 世良が、フェイントから、隙を突いて攻める。

 フェイントのお陰で、世良は死角に居る。


 だが、なぎささんはそれに合わせて蹴りを繰り出す。

 タイミングを完璧に合わせた大技だ。


 世良の攻撃のタイミングを潰し、距離をとらせる。

 振り出しに戻ったように見えるが……。


「世良、望月魁くんに良い所を見せないとまずいんじゃない?」


「何言ってんだ、押されてんのはなぎさの方だろ」


「世良、望月魁が図書室で私に何と言ったと思う?」


 言葉で隙を作って、そこで攻める。


 だが、世良に完璧にいなされ、反撃を貰う。

 その一撃で、なぎささんの体勢が崩れる。


 でも、世良は深追いしない。


「強くなったね、世良」


「もうなぎさより強いからな」


「じゃあ、そろそろ終わりにしようか。全力で来な」


「……新月」


 世良の格好が変わり、一直線になぎささんに迫る。


 でも、すぐには崩されない。

 身体に書かれた「盾」、足の「弾」で上手くかわしている。


 すごいな……世良相手にその『言霊』だけでここまで対抗するとは。

 『語り部』は普通、チームで行動するが、なぎささんは1人で戦っていた。その理由がここにある。


 見事なまでの近接戦闘能力。近づいてしまえば、大抵の奴は倒せる。

 その戦いに、中途半端な援護はかえって逆効果になる。


 世良が、数手かかってからなぎささんを取り押さえた。


「世良、降参だ。」


ーーー


 それから、撮った動画を見直しつつ、戦い方の基本を伝えていく。


「まず、最初の睨み合い。ずっと、この距離を保っています。この距離は、基本的な『言霊』を使ってすぐに攻撃に移れる距離です」


「『言霊』が効果を発揮する距離や、その状況を考えることは、誰にでも当てはまる重要な戦い方のポイントです」


 射程や発動条件は人によって違うが、誰もが意識しなければいけないことだ。

 俺なら射程はもっと長いし、こより様なら歌が聞こえるもっと広い範囲だ。


「次に、この場面。世良が攻撃を仕掛けました。これは、私がブラフに引っ掛かって隙を見せたからです」


「さっき一定の距離を保っていると言いましたが、厳密には少し違います。近づいたり離れたり、揺さぶり合いがあります。ここで、世良は引く素振りをその姿勢と目線でしました」


「私はそれに騙されて、近づいたせいで、世良の攻撃範囲内に入ります。この距離を詰めてからが本番ですから、いかに近づけるかは大事なんです」


「仲間の『言霊』が有効な状態に持っていくのも重要な戦い方です。みなさんは見ているだけでしたが、最初の様子見は焦れったかったでしょう?」


 相手を崩す一手をいかに打つか。戦闘を始める手だ。

 これを召喚したやつに任せられるというのも、召喚の強みの1つだ。


「それで、世良に攻撃を許した私はそれを避けるわけです。ですが、ただ避けるだけでは追撃が来るだけです。なので、反撃をできるように避けます」


「もし、世良がここで追撃に来たら、私の手痛い反撃を食らっていました。自分の攻撃が届くということは、大抵の場合、相手の攻撃も届きます」


「自分や仲間の間合いだけでなく、敵の間合いを測ることも重要です。敵の間合いは、最初の睨み合いのときに大体分かります」


 まあ、『言霊』の場合、『語り部』から離れると効果が弱まるから何となくは分かるけどな。

 そして、その射程という常識が通用しないのも、召喚の強みの1つである。


「ここで、世良は私の死角に入ります。でも、すぐには仕掛けない。これは、攻撃すると隙ができて死角の有利がなくなるからですね」


「死角に居ることの優位点は、攻撃のタイミングと場所を悟られにくいことと、その有利を消すのに振り向くなり体勢を整えるなりの手間がかかることです」


「この有利を最大限活かすために、あえて攻撃をせずに、隙を狙っているわけです。有利なときに戦い、不利なときは戦わない。戦いの基本です」


「有利な場面というのは、色々あります。典型的なのは、間合いを一方的に押し付けているときですね。壁際に追いやったり、高台をとっているときなんかそうです。あとは、なんといっても数です」


 数は戦いの基本だ。

 その数の有利を常に持っているのが、召喚の(以下略。


「そして、死角の有利を活かし世良は見事にフェイントを決めました。私は違う方向に世良が行ったと思っているわけですね。でも、音や影で間違えたことはすぐ分かります」


「ここは、綺麗にフェイントに嵌まりすぎたお陰でなんとかなりました。ここは、明らかに世良の攻め時でしたから、攻撃のタイミングは私にも分かったわけです」


「私のこの体勢から出せるのは大技くらいですから、少し無理矢理ですが、それで誤魔化しました」


 これは戦い方とかっていうより、なぎささんが強いだけだな。


「なんとか凌ぎましたけど、私には攻め手がない。なので、会話をして揺さぶろうというのがこの場面です」


「と言っても、ダメだったんですけどね。むしろ、攻撃を警戒されて、完璧に合わされてしまいました」


「会話というのは、『語り部』にとって特別な意味を持ちます。言葉ですから。それで有利不利が決まることもあります」


 会話で気を逸らさなくなったのは、世良の成長だな。


「それで、私は一撃貰っちゃいます。でも、反撃をできるようにもしています。世良はそれを分かっているのでわざわざ追撃しません」


「ずっと世良が有利ですからね。ここまま行けば勝てるので、無理する必要はない。有利なときに戦うと言いましたが、有利になるように、あるいは有利を維持するように戦うのも大事です」


 何もしなくても、『言霊』で数の有利が保証されているというのも、召喚の(ry


「なので、ここから一気に戦いを終わらせました。ここからは、戦い方とかじゃないのでいいです」


 戦い方とかじゃない……けど、ここが一番凄い。

 なぎささんに後で訊いてみようか。


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