三上 晃②
晃に押される形で、今日は1日晃と過ごすことになった。随分急だな……。
ちょっと、雰囲気に飲まれて余計なことを言ってしまったかな……。心配せずとも特に死ぬ理由もないから、自殺したりなんかしないんだけど。
待ち合わせ場所に行くと、晃がもう待っていた。
やはり同年代とは信じられないな。
「お待たせ、晃」
「おはよ、魁」
ん~。
なんかいつもと違う?
「それじゃ、行くよ」
「え、どこに?」
「行ってからのお楽しみだよ」
そう言って笑う晃。
やっぱりなんか違うな……。
晃って、こんな積極的じゃないはずなんだけど。
大丈夫なんだけどなあ。死なないって。
そうしてやって来たのは、中学時代よく来たショッピングモール。放課後遊びに行くのも、映画を見るのも、買い物行くのも、大体ここで済んでしまう定番の行き先だった。
お店を見て回る。
結構色々変わってるな。
「昔、2人でここに来たこと覚えてる?」
「もちろん。映画見に来たな」
まだ胸が小さかった頃の話だ。趣味を共有できる友達が俺ぐらいしか居なかった晃と、一緒に映画を見た。
「私、嬉しかったけど、申し訳なかった。学級委員だからって、私の趣味に付き合わせるのは違うって」
「言っただろ、俺も好きになっただけだよ」
「うん。それで、それまでもしかしてと思ってたけど、やっぱり、私は気にしすぎてたんだなって気付いた」
「へえ。気の持ちようであんなに変わるものなのか」
「ふふっ、魁のお陰だよ。だからさ、魁は凄いんだよ。もう色んなことしてきたんだよ」
「……そうだな。分かっているよ」
「できないことじゃなくて、できたことを考えてみようよ。それが自信ってものでしょ?」
「自信……か」
「魁が何を考えてるのか私には分からない。魁は頭が良いから、もしかしたら本当に欲張りのダメ人間なのかもね。でも、それで、魁の全部がダメになるわけじゃないから」
成長したな、晃。
人と目を合わせることもままならないような子だったのに。
「今日は、魁がどれだけ色んな凄いことやって来たのか分かってもらうから」
ショッピングモールを巡ると、次は公園、中学校もなんとなく眺めてから、お昼にファミレスと、中学時代の思い出を振り返っていく。
「私、友達と公園で遊ぶのがあんな楽しいなんて知らなかったよ。」
取り敢えずここの公園に来れば誰か居る。そんな場所だった。他校の奴も居て、みんなの遊び場だった。どうやらそれは今も変わりないみたいだ。
「魁は陸上も凄かったよね。今思えば、『語り部』だからズルいけど」
『語り部』のことを晃が知ったのは、世良と仲良くなってからだ。
陸上に関しては、俺は『言霊』は極力使わないようにしていた。もちろん、無意識の内にってのはどうやってもゼロにはできないが。
世良は……何事にも全力なのは良いことだ。
「クラスのみんなも、他のクラスの子も、他校の子も、魁のこと凄いって思ってたんだよ? 咲ちゃんだけじゃなくて、魁のこと好きな人結構居たんだから」
へえ。
え?
咲ちゃんこと、加藤咲ちゃんは分かる。
当時、俺と一緒に学級委員をやっていた。委員会活動を通じて仲を深めていたのだが、勢い余って告白されてしまった。
この事件で、告白を阻止する方策が必要だと痛感した。
まあ、またやっちゃったわけですけど……。はあ。
って、そうじゃない。咲ちゃん以外にも!?
おい待て、誰だ。その口ぶりだと結構居ないか?
「ふふっ、気になるの? でも勝手には言えないな。1人だけかな、教えてあげられるのは。当ててみなよ」
晃は、結局クラスにすっかり馴染んでいた。女子たちのそういった話にも詳しいか。これは……外せない。
やはり、晃の特に仲の良かったグループの女子が怪しいか。
そのグループの女子は晃を除いて3人。
その内、1人は加藤咲ちゃんなので、2人が可能性高いか?
1人は、長田美華。吹奏楽部で、ひょうきんな性格で面白いやつだ。複数人居る場で、一部の人にしか伝わらない小ボケを連発する。その数が多すぎて、結局皆に向けてボケているような状態になる。
よく一緒にふざけていたけど、好きかどうかは全然分かんなかったんだよなあ。
もう1人は、セザンヌと呼ばれていた浅倉萌音。美術の授業で、クロード・モネとポール・セザンヌが印象派の画家として紹介された。それ以来、美華が萌音をセザンヌと間違える小ボケを擦り続け、気付けばクラスに定着していた。
セザンヌも結局、好きかは分からずじまいだった。
ここは単純によく一緒に居た方で行こう。
「美華……とか?」
「あ~、残念。もう教えませ~ん」
やってしまったらしい。
ーーー
そんなこんなで、晩御飯の時間になってきた。
晃の父親のお店にお邪魔する。
「じゃあ行くよ、魁」
「え?」
手を引かれて、そのまま個室に連れていかれる。
いや、もう既に誰か個室にいるけど。
そこ、空いてないけど。
個室に入ると、なんだか懐かしい顔ぶれ。
「はい、スペシャルゲストの望月魁くんです」
晃の紹介に驚く一同。
「えーと、久しぶり、みんな」
「え? 望月? てか、晃!?」
「とんかち先生最近投稿ないと思ったら、晃を描いてたのか」
「確かにとんかちクオリティではあるけども」
とんかち先生とは、あらゆるキャラの胸を盛りに盛りまくる絵師らしい。
咲ちゃんに、美華に、セザンヌ。
どうやら今日は晃たちの女子グループの女子会だったらしい。
ずっと予定が合わずに延期になっていたが、『もののけ』たちが色々と暴れたお陰でみんなの予定がぶっ飛び、遂に実現したらしい。
明日と言われて急だなと思ったが、この会に呼ぶためだったのか。
それから、結局俺もここでご飯を食べることになる。男1人で肩身が狭い……。
それよりも、俺を好きだった奴がこの中に居る疑惑があることが気がかりだ。
咲ちゃんはいいとして、他の2人はどうなんだ……?
晃はそこまで交遊関係が広い方ではなかったはずだが、女子の中では皆知ってるってこともありえる。そうなると、この中にはいないかもしれない。
こういうときは、単純な手が一番だ。
「晃が中学時代俺を好きだった子クイズを出してきたんだけど、みんな分かる? 俺分かんないんだけど」
3人全員の反応を見て考えよう。
「……咲じゃないんだよね?」
「クイズにならないからな」
「白石さんじゃなくて?」
「それもクイズにならない」
「モテるね~、チャリ停めちゃうよ」
それはモーテル。
「……」
なぜか訪れる沈黙。
ん~?
「分かんないならアキちゃんから聞きなよ」
「うん、やっぱりそうするべきだよ」
「同盟とかもう昔の話だし」
同盟……?
やっぱりこの中の誰かなのか?
ーーー
結局、俺は晃からも、皆からも何も聞けず、何も分からなかった。まあ、中学時代好きだったからといって今も好きかっていったらそんなことはまずないからな。どうでもいいと言えばいいな。
それに……3人とも、まあまあ胸が成長していた。正直、それに気付いてから一気にどうでもよくなった。
今は、晃と一緒に帰路についている。晃は寮まで来るつもりらしい。送ったほうが良いのは晃だと思うんですけど。人妻だし。
「今日は泊まるって言ってきたから」
「え?」
「いいでしょ?」
「良いけど……」
いやあ、今、ちょっと大変なんだよなあ。
子育てって苦労するよね……。ハハ。
まあ、人妻だし丁度良いか……。
しかし、晃はかなり積極的だな……。