表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
36/70

青い炎

 低級の『もののけ』たちを相手にしていた『語り部』たちも、段々とその掃討を終えてきた。

 ある程度の数の部隊を残して、比良坂凛の救援へと向かうこととなった。


 しかし、その場所に向かう前に、彼らを阻むように大量の『もののけ』たちがおり、更には炎が上がっていることに気づく。

 『もののけ』はそこまで上位なわけではないようだが、数が多い。加えて、火は弱まる気配がなく、普通の手段では消化できないようだ。『言霊』による炎だ。この炎を出している『もののけ』は上位であると分かる。


 ここまでのことが起きていても、通信網が完全に停止していれば分かりようがない。


「どうします? 高崎さん、これじゃ進めないですよ」


「お前らはそこらの『もののけ』の相手をしろ。俺たちで炎の出所を叩く」


「分かりました」


「南、火を消す手段はなにかあるか」


魔導書(グリモワール)


 『言霊』で出現させた分厚い本をパラパラと捲りる。


「遍く水流よ、我らが願いに応えよ。」


 そう読み上げると、どこからともなく水が溢れだし、火を消していく。

 そして、どこかに流れて消えていく。


「このまま中心へ向かう。桐山は盾を構えておけ。倉田も守りを固めろ。いつ相手が現れるか分からない」


 火を消しながら、中心部へと向かっていく。『もののけ』は、外周に配置されていたようで、中には居ない。恐らく、炎が無差別に燃やしてしまうからだろう。


 順調に火を消していき、もう少しで中央に到達すると思われたとき、敵は姿を現した。炎のない開けた場所だ。


「いらっしゃい。よくここまで来た。歓迎しよう」


 全身が赤い鬼のような『もののけ』がそこに居た。


 来た道は、既に炎で塞がれたようだ。


「歓迎はありがたいが、静かな方が好みでね。……静粛に」


 そう言うと、『もののけ』は話すことができなくなる。

 だが、『もののけ』に対する発話の禁止は、そこまで有効な攻撃ではない。『もののけ』は、ある言葉を名前として冠し、そこに込められた『言霊』を操る。存在自体が『言霊』であり、異質なのだ。

 だから、『もののけ』は、言葉を発さずに『言霊』を当たり前に使える。


「動くな」


 『もののけ』の動きが止まる。

 これだけ上位の『もののけ』相手となれば、その効果は一瞬だろうが、それで十分だ。


「森羅万象の波よ、悉くを押し流せ。海原よ、深く総てを底に沈めよ。我らが一柱、ワタツミ」


 押し寄せる大波。火を消し、『もののけ』を巻き込む。

 だが、『言霊』の波であるので、実際の水ではない。そのため、『語り部』たちには被害はなく、また周囲のビルなどにも傷一つ無い。


「手刀」


 手を刀に変化させ、『もののけ』へと迫る。


 水の中でもがきながら、攻撃をかわそうとする『もののけ』だが、両腕に少し傷を負う。


 段々と水の勢いが無くなってくる。


 大波から解放された『もののけ』から、反撃が来るが、桐山の盾によって防がれる。


 このように、高崎と南できっかけを作り、倉田が近づいて攻撃、桐山が防御を担うのが、このチームの戦い方だ。


 しかし、今の攻めでは大技を使いすぎている。そう何度もできることではない。このままでは、『もののけ』を仕留める前に、高崎と南が息切れして押し負ける。そのためには、相手によりダメージを入れられる手を打つ必要がある。

 皆でできるだけ近づき、総攻撃をする。


「攻めて有利にならなそうなら、癪だが鷹見の作戦とやらに従う」


「了解」


 鷹見の作戦、それは、この"灼熱"の『もののけ』に、一之瀬葵をぶつけることだ。

 この『もののけ』の攻撃手段は火であるが、彼にそれは通用しない。

 一見、突拍子もない策だが、"未来"の発案だ。馬鹿にはできない。


「邪悪なる幻影を穿て、アメノヌボコ」


 空中に大きな矛が現れ、『もののけ』へと向かっていく。


 『もののけ』は、倉田に近づき、接近戦を繰り広げる。

 味方に当てる危険があるため、迂闊に矛で攻撃はできなくなった。


「動くな」


 『言霊』は、『語り部』に近いほどその効果を増す。『もののけ』に先程隙よりも大きな隙ができた。


 しかし、そのとき、炎が彼らを襲う。盾によって大きく被害を受けることは免れたが、また振り出しに戻された。


 『もののけ』にも、彼らにも、多少のダメージはあれど、状況は拮抗。互いに決め手に欠ける。時間をかければ、『もののけ』に軍配が上がる。


「仕方がない。件の学生が来るまで時間を稼ぐ。炎は遠くにも出せるようだ。桐山、お前の盾が頼りだ。頼んだぞ」


「任せてください。炎の相手はここ二週間、嫌と言う程してきましたから」


「それは頼もしいな」


 迫り来る炎をすぐに盾を使って遮断する。


「慈愛の光よ、我らを包み、守り給え」


 南の『言霊』でも、炎を防ぐ。


「見るな」


 高崎の『言霊』で、妨害を加えて、相手の攻めを潰していく。


「指鉄砲」


 倉田の『言霊』で、指から銃弾を打ち出す。『語り部』から距離ができる長射程の武器なため、威力は大したことはないが、嫌がらせには十分だ。


 炎に囲まれた戦場で、上手く立ち回り、膠着状態を維持している。


「さて、そろそろ攻めるとしますか」


 高崎たちとは反対側から、炎をものともせずに近づく影を見て、そう判断した。

 一之瀬葵には、やはりこの『言霊』の炎も効かないようだ。


 高崎たちが距離を詰める。


「動くな」


 『もののけ』の動きを止める。


 こうなると、『もののけ』は炎を出して対抗する手を打ってくる。

 身体を動かさずともできる攻撃は、それしかない。そうしなければ、高崎たちの追撃を受けてしまう。

 しかし、ここで高崎たちは攻撃をするつもりはなかった。


「盾よ、我らを守り給え」


 桐山の盾で、炎に対する守りを固める。


 高崎たちにとって、"灼熱"の『もののけ』を討つには、決め手となる攻撃が足りなかった。

 相手は激しく燃え盛る炎という圧倒的な攻撃力を持っており、かつ攻撃は最大の防御だと言わんばかりに、こちらの動きを制限してくる。


 つまり、この戦場において最も破壊力のある攻撃手段は、"灼熱"の炎である。


 もし、敵よりも遥かに燃えやすいような箇所があればどうなるだろうか。

 もし、何の変哲もない火ですら燃え盛ってしまうほど燃えやすいのに、『言霊』の消えない炎ならどうなるだろうか。


 導火線は既に引かれている。


 "灼熱"は、その『言霊』で発生させた炎を自由に消すことはできない。

 それは、他の『もののけ』たちが安全な離れた場所にいることから分かっていた。


 "灼熱"は、その『言霊』で発生させた炎に晒されて無傷でいられない。

 それは、彼自身が、この炎のない開けた場所で待ち構えていることから分かっていた。


 その結果は、正に火を見るより明らかだった。


 火だるまになる"灼熱"の『もののけ』。

 もがき苦しむが、火は消えない。


「邪悪なる幻影を穿て、アメノヌボコ」


 『もののけ』の身体を貫く。


「撃破確認」


「一之瀬、大活躍だ。白石はともかく、鷹見が俺を選んだのは、この戦いのためだったようだな」


「ありがとうございます」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ