表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/70

那須 こより⑥

 望月くんに告白できずじまいで迎えた夏期講習。でも、講習を終えたら必ず今度こそ気持ちを伝える。


 わたしの先生は、星野深雪さん。音韻論が専門らしい。歌声によって『言霊』を使うわけではないらしい。ショートカットの無造作な髪型や飾らない格好、そして纏うミステリアスな雰囲気がどことなく歌手っぽいのに。


「じゃあ、歌声ってどうしたら相手の心に届くでしょうか」


「ジョーズな歌声なら届くと思いまス」

「気持ちを込めることが大切だと思います」


 先生のもとへ来て驚いたのは、マンツーマンと聞いていたのに、ソフィアさんもいることだ。

 鷹見先生曰く、『言霊』って感じじゃないし大丈夫っしょ、多分ね~、とのこと。

 多分じゃ困るんですけど……。


「はい、ソフィア正解。で、那須の気持ちを込めるってのは具体的に何」


「力強く歌うとか、ビブラートを使うとか……そうやって気持ちを表現することです」


「はいはい。じゃ、表現力かな」


「そうです」


「うんうん。いいんじゃないの。2人ともタイプは違うけど、自分の強みを分かってる」


 すこし、ほっとした。この先生、なに考えてるのか分からなくてちょっと怖いんだよなあ。


「それじゃあ始めようか。言っとくけど、『言霊』ってか普通に歌のレッスンだから」


 そうして、なぜか私たちは『言霊』そっちのけで、何の変哲もない声楽を学んでいるのであった。


「ソフィアはどう思う? 『言霊』関係ないよね……」


「そうでスね。でも、役立つことでス!!」


「まあ、それはそうだけど……。腑に落ちない感はあるよ……」


「フニオチ……?」


「う~ん。モヤモヤ……uneasy(不安)?」


Got it(なるぼど). No worries(心配ない). ダイジョーブ」


「ありがとね。Thanks」


 正直、望月くんのこととか、気がかりなことはあるけど、ソフィアの明るさにだいぶ助けられている。


「ソフィアはここに来る前から、『言霊』でラップを歌っていたんだよね?」


 ソフィアは、歌の中でもラップを好む。普段の天真爛漫な様子が嘘のように格好良くて、とても驚いた。


「そうでス」


「でも、どこで勉強したの? 外国に『言霊』を学ぶ場所があるなんて聞いたことないけど」


「ショーに教えてもらいましタ」


「しょう……?」


「アメリカにいた『カタリベ』でス。今はニホンにいまス」


「へえ。どんなことを教えてもらったの?」


「『コトダマ』はカンカク、ナントナク!!デキルと思えばデキル!!デキナイと思ったらデキナイ!!でス」


「……そう……」


 大丈夫か? しょうとか言う人……。

 そんなテキトーで『言霊』を扱えるとは思えないんだけど……。

 でも、事実ソフィアは使えてるし……。

 そのしょうって人も使えてたはずだし……。


 まあ、あの五十嵐くんでも『言霊』ちゃんと(?)使えてるし、案外間違いじゃないのかも。


「ダカラ、デキルと思うために、ワタシはずっと練習してきましタ」


「なるほど……」


 『言霊』において、思い込みの力は馬鹿にできない。鷹見先生も言っていた。

 『言霊』とは、極端に言えば単なる『語り部』の嘘から出た実である。『言霊』のことをみなが信じているから、『言霊』がある。


 哲学や、量子力学の文脈でよく聞くような話だ。観測によって、それは存在する。観測していないなら、それがどんな状態なのかは分からない。


 考えてみれば、言葉も、同じようなものなのかもしれない。ある言葉の使い方や、読み方が正しいのか間違っているのかを決めるのは、人々の意識だ。

 全員が同じ認識をしていれば、それが例え、歴史的に、語源的にみれば誤りだとしても、正しいものと見なされる。慣用読みなんかは良い例だ。


 やっぱり『言霊』は面白い。

 この学問のようで、どこか神秘的なそれに、わたしは夢中だ。


 だから、音楽よりも『言霊』を学びたい気持ちがあるのだけど……。

 でも、わたしの『言霊』を活かすなら大事なことであるのも確かだ。歌だけじゃない。『言霊』を使いこなせているんだという自信が、他の使い方であっても役に立つ。


 結局、なんだかんだ言いつつ、わたしは講習をこなしていった。


 講習を終えて、わたしは少しだけ自信が付いたように思う。ソフィアとも、言葉の壁を時々感じながらも、仲良くなれた。先生のことだって、少しだけ分かったような気がする。


 講習後には、大学で打ち上げのようなものがあるらしい。鷹見先生が言っていた。参加は自由らしいが、わたしには行くという選択肢しかない。


 だって……講習が終わったということは、わたしにとっては大きな意味を持つのだから。

 望月くんと約束してある。今日、大切なことを直接伝えると言った。


ーーー


 講習終わったら打ち上げパーティーを自由参加でする……。どう見ても戦いに備えた招集だ。自由参加って言ってるのは、そう言っても全員来るって勘があったんだろう。俺はできれば来たくなかったけど……。だって、こより様から告白されちゃうし。


 まあ、もうどうしようもないことは置いといて、普通に打ち上げを楽しむとするか。


 打ち上げでは、結構豪華な料理が振る舞われた。中々に美味しいな。こりゃ、母さんにも負けてないかもなあ。

 ……いや、これ作ったの母さんじゃね?


「鷹見先生、この料理、誰が作ったんですか」


「え、魁ってマザコン?」


「もういいです」


「いやあ、彼女、強力な『言霊』だけど、使い所が難しくてさあ。戦いに向いてるかって言うと微妙じゃん? だからここで待機」


「父さんの応援させときゃいいですよ」


「うんうん。それだけで十分強いんだけどさ、『もののけ』のことに詳しいからね。解説役だよ」


「偉い人たちがそれを認めたんですか? 前の試験でそこまで?」


「いや、半ば脅しだね、あれは。望月強いし。支配も強いし。今のとこ、召喚の心象最悪だから気を付けてね」


「いや……鷹見先生もその片棒担いでるでしょ」


「絶対やらかすなよ? 絶対だぞ? 次なんかやったら終わりだね、あれは」


 こより様を振るのってやらかしに入りますか?

 いやいや、流石にないか……。ハハハ。気が重すぎておかしくなってきた。


 そろそろ約束の時間だな……。


 前と同じ教室に向かう。

 前も見たこより様の姿。


「また来てくれて、ありがとね……」


「それで、大事な話って言うのはね……」


「……わたし、」


 そのとき、校内のサイレンが響く。

 告白キャンセル!!

 じゃなくて、遂に始まったか。


 さて、戦いに臨むとしますかね。


講習編終了です。

次回から戦います。

戦いのときはまじめで下ネタ減っちゃうので、ちょっとつまらないかもしれません。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ