白石 世良④
講習中は、一応教え子となったミーアちゃんと一緒に居ることが多い。だが、その次に世良が俺と一緒にいる。そして、ミーアちゃんとも仲良くなったみたいだ。
まあ、世良の『言霊』はミーアちゃんにとって参考になるだろうからな。それはいいんだけど、やっぱり世良は巨乳とは仲良くするらしい。
「ミーアは変身する相手の見た目しか考えてないからダメ。どんな人間なのかちゃんと知らないと。演じるの」
世良が優しく教えてる……。
「セラも、新月のときは何かを演じてるの?」
「世良は、演じてるというより……降ろしてるというか……憑依するみたいな……力を借りてる?」
ミーアちゃんにも分かる語彙で説明するって結構難しいよなあ。そもそも言葉にしづらい概念だし。
「新月の神様と一緒に戦ってる感じだな」
「それそれ~」
「一緒に戦ってる……じゃあ、作戦会議とかするの?」
「ん~。会議ってほどのことはしないね。でも、世良が気付かない危険を察知したりするし、調子が良いとき悪いときとかあるよ」
訓練所で初めてやった模擬戦でも、世良は新月に助けられてたな。俺の言葉で、世良の意識は完全に逸れてたのに、新月で反応された。
「調子があるの?」
「ま、そこまで変わらないけどね。新月の日以外は」
世良の新月は、新月の日は更に強くなる。今のところ、世良には7:3で勝ち越してるけど、新月の日には絶対にもっと負ける。
「私も、disfarceの神様と一緒に戦うつもりでやる」
「そうそう、その意気だよ。それじゃ、変装の神様って男?女?」
「え? 女かな……」
「女の子? それともお姉さん? はたまたお婆さん?」
「お姉さんかな」
「うんうん、そうやって具体的なイメージ固めてこ。別に性別じゃなくてもいいんだけどさ。男女はイメージしやすいでしょ」
「イメージというか……disfarceが女性名詞だからかな……」
「ああ~、そういうのかあ。それでも全然いいけどね。『言霊』っぽいじゃん」
ブラジルでは、ポルトガル語が話されている。そしてポルトガル語は、全ての名詞を男性と女性に分類している。男性女性といっても、必ずしも性別と関係があるわけではない。あくまでも文法上のものである。
日本語だと、性別なんて気にせずに『言霊』を使えるけど、他の言語ではそうはいかないか……。
実際、俺は黄昏の性別なんて知らない。そもそもそういう概念あるの? 犬とかになるしあるのかな……。犬と鳥と龍じゃ分かんないな。
「世良、新月には性別あるのか?」
「ん~? 女の子だと思うよ。月だし」
月が女性で、太陽が男性ってイメージはあるな。女性は太陽であったらしいけど。まあ、月のやつも女性しかないしね。ハハハ。
「黄昏は性別ないの?」
「今度、犬出して確かめてみるか……」
召喚によって、理想の相手を作ることも考えたことはある。そのときは、女性であるつもりだった。でも、それは洗脳や催眠と同じではないかと思い、結局その構想はなかったことになった。
だから、黄昏は当時俺がカッコいいと思ったものを詰め込んだ『言霊』になった。やっぱり、ドラゴンだよねえ。
「ま、大事なのはイメージできることだし。てか、正直分かってないことも多いからね、召喚」
御三家の『言霊』ってそういう側面が大きいんだよなあ。黄昏のことを全て知っている訳じゃないけど、使えるのっておかしいといえばおかしい。まあ、言語も分かってないこと多いし。ほら、言語のモジュール性ってやつ。
「とにかく、どんな奴なのかをちゃんと考えてくのが大事なの」
しかし……"未来"の意図は分かるけど、ミーアちゃんの師匠なら俺より世良の方が適任だよなあ。
そもそも、白石の家の『言霊』と"新月"は全くの別物だ。
白石の『言霊』は、葵ちゃんと同じような治癒の力だ。しかし、治せるのは自分だけで、なおかつ自然治癒力が上がるくらいのもので、即効性はない。病は気からと言うが、病は口から、というのが白石の『言霊』である。
世良は結構無茶な訓練をしてきたようだが、かなり『言霊』を悪用していたらしい。
世良の"新月"は、後から習得したものだ。俺は召喚を気付けば使えていたから、どうやって使えているのかは世良の方が分かっている。
ほら、日本人だからって、外国人に「は」と「が」って何が違うのって言われても困るじゃん。日本語話せるけど、そんなこと気にしてないってな具合にさ。
ーーー
さて、師匠の役目を果たすのも重要だけど、凛ちゃんの攻略を進めるのも大事だ。
今日は凛ちゃんは学校に居るみたいなので、早速行ってみようか。訓練場へゴー!
「いくら考えたって弱くて何もできねえんだから大人しく守られてろ」
「……」
凛ちゃんが渋い顔してる。そそる。あ、間違えた。めっちゃそそる。
「勘だってまだまだなんだから黙ってろ。分からないなりに頑張るとかいらねえ。分からないなら邪魔すんな」
世良なりの優しさなのかなあ。
でも、凛ちゃんって世良に敵だと思われてるはずだよな。胸でかいわけでもないし。
事実、俺の過去を教えてビビらせたりしてるしな。
「世良~、凛ちゃん~、調子どう?」
「!魁にぃ~、こいつの何がいいの~?」
真っ先にそれか……。
「胸が小さくて魁にぃ好みかも知れないけどさ~、世良で良くない?」
ああ……。完全に敵判定入ってるよ。凛ちゃんの前で余計なこと言わないの。
「え……」
凛ちゃんが微妙な顔してる。ちょっと恥ずかしそう。良いじゃん。
「世良が一番だね~。良い子だから凛ちゃんと仲良くしようね~」
「魁にぃがこいつのことエロい目で見るの止めたら仲良くする」
早く黙らせないと……。もう遅いか……。
「……」
凛ちゃんがチラチラこっちを恥ずかしそうに見ている。
「世良、模擬戦。負けたら何でもするルールで」
「!!やる!!」
俺は大人げなく世良を精神的に揺さぶりまくり、危なげなく勝利を収めた。
凛ちゃんのことに関しては、俺の言うことに絶対従うようにして、これ以上の被害拡大を防いだ。
いやあ、もう手遅れかな……。




